父と母の気持ち
※ナナエルのおうちの話です
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護衛や使用人たちが連れ帰ってきたナナエルを見て、ナナエルの父は愕然とした。
確かに娘は亜麻色の髪色ではあったし、まつげが影を作るという様な目鼻立ちではない。
ただ、少女らしいかわいらしさはちゃんとある娘だった筈だ。
それがこんなしおれた花の様な姿になって帰って来るとは思わなかった。
こんな扱いを娘が受けているとは思わなかったというのは、公爵家当主としては単なる甘えた言い訳だろう。
調べる方法はいくらでもあった。
最初の王子の言い草も幼い照れ隠しだと思われていた。
結局王家から婚約者候補として打診は確かにあったのだから、王家が望んだことなのだろうとナナエルの父は考えていた。
候補止まりなのも二人が成長してそれで違う道を選びたい時に枷にならぬためだと説明もされていた。
だから、娘が生徒会の手伝いをするという時も宮殿に登るという時も、むしろ仲が深まった証拠だと信じていた。
信じてはいけなかった。
娘に言われたときも、王子が他の女性に話しかけたかわいらしい嫉妬の話だと決めつけていた。
陛下からは上手くいっていると聞かされていた。
なにも可も言い訳にすらならない。
王家相手でもきちんと調べるべきだったと青白い顔色で帰ってきた娘をみてナナエルの父は後悔した。
娘からの手紙が無いことは娘が王子に夢中なのだと思っていた。
宮殿からの報告ではゆったりと王子と仲を深めているから邪魔をしないようにと迂遠な書き方をされていた。
従わぬわけにもいかない。
けれど昨日、いやもう今日だったのかもしれない。夜半過ぎになって、娘からの手紙が公爵家にどっと届いたのだ。
まるで誰かに邪魔をされて届かなかった手紙が大量に公爵家に届いた。
それも公爵家の者でなくては開封すら出来ぬ血族魔法を使ってあった。
そこにかかれていたのは、娘の悲鳴のようなものだった。
それでも丁寧に周りを傷つけず穏便に済ませたいというものが滲み出ている。
ナナエルは優しい令嬢に育った。
それなのにこの仕打ち!!
公爵は歯を食いしばる。
そして、至急現状を調べるため、隠密部隊に命令を出した。
夜が明けようとしていた。
緊急でないもの以外はすべての仕事をキャンセルすることにした。
妻に状況を告げると彼女は悲鳴を上げて泣いていた。
娘の幸せを願っていたのだ。
この国一番の女性である王妃の道は娘の幸せを願ってのことだ。
王子と添い遂げるのが娘にとって幸せだと信じたから婚約に向けて話を進めていたのだ。
しかし実際は王子は他の娘と浮気をし、政務の面倒な部分は全てナナエルに押し付けていた。
ナナエルを婚約者候補でいたいのならと脅した気配さえあった。
公爵家としてより権力を欲して選んだ道ではない。
頭を下げて結婚していただくほど公爵家は落ちぶれていない。
「婚約者候補から辞退させる。絶対に」
泣く妻を抱きしめながら公爵は言った。
その時だった、宮廷魔術師団をすべる侯爵家からの一報が入ったのは。