仲間意識
「そういえば、あなたも『がり勉令嬢』なんてよばれていましたね」
ナナエルが直した結界の一部を確認しながら、ジョエルは言った。
「お兄様とどの程度の仲か、というのは関係ありませんわ。
重要なのは、お兄様が誰を選んだのか。
それがあなただというから、私はあなたに文句を言う権利位あると思ったの」
ジョエルがまっすぐ私を見る。
「あなたが今、今までの努力を徒労にすり減らされてるから、許すという訳ではないですが、私もあなたに少し興味がわきました」
ナナエルはこの侯爵家の人たちの理屈付けの基準がよくわからなかった。
けれどこの短い時間でジョエルはナナエルに対して、なのか自分の兄に対してなのか何か考えることがあったらしい。
「王子との婚約もろもろは早晩何とかなるでしょうが、とりあえず、お友達になって下さらない?」
ジョエルはナナエルにそう言った。
「ありがとうございます。
私、お恥ずかしながらまともな友達というものがおらず……」
断る理由はあまり浮かばなかった。
ぼんくらのはずのウィリアムの事実を聞いてみたい気も少しだけした。
それに彼女の魔法はすごい。特に攻撃魔法が特出している。
結界魔法の類こそナナエルの方が秀でているかもしれないが実践的な戦術魔法では足元にも及ばない。
それが彼女の天賦の才ではなく努力によるものだという事にとても興味がわいた。
友達がいないという言葉にジョエルはぽかんとナナエルを見た。
それから、クスクスと年相応の少女の様に笑った。
「いいわ。友達になりましょう。
ナナエルって呼んでいい?
私のことはジョエルと呼んで?」
「分かったわ、ジョエル」
ジョエルはそれから、今日は宮殿に寄らず必ず公爵邸に帰るようにと言った。
ナナエルは理由を聞こうとしたけれど、ジョエルはこの状況が最初からわかっていた様に持っていた扇子で中庭の入り口を指さした。
そこには公爵邸で雇っているものが数名、ナナエルのことを探している様だった。