押し付けられた仕事
ナナエルが、この国の王子様であるユリウスと初めて会ったとき、あいさつも早々に彼が言った言葉は「本当に君が公爵令嬢? 地味すぎる」だった。
確かにナナエルは亜麻色の髪にオリーブ色の瞳と高位貴族としては地味な色を持って生まれていた。けれどそんなことを突然初対面で言われるとは思わなかった。
そこで上手く泣けでもすれば、今の状況と違っていたのかもしれないけれど、ナナエルはその時あまりのことにびっくりしてしまい何も言えなかった。
その所為で、なのかは考えたくもないけれど、ナナエルとユリウスは相性は悪くないと大人に判断されて、“婚約者候補”とされてしまった。
正式な婚約を結ぶのは王子が拒んだらしい。
地味な令嬢とは、婚約は結びたくないという事らしい。
それもほほえましいエピソードと大人たちは思っているフシがあった。
ナナエルは王子様に特別な感情は無かった。
いきなり酷いことを言う男の子に好意を抱けるはずはないけれど、それだけ。
他に好きな人がいたわけではないし、それよりも一番勉強をすることが好きだった。
周りの親戚たちに言われるまま、その地位を受け入れてしまい、それまで通り勉強に打ち込んでいた。
王子は特にナナエルと仲良くするための何かをしてこなかった。
ナナエルからも特に何もしていない。
女性からねだることは、この国の貴族の常識でははしたない事とされていたからだ。
だから勉強ばかりしていた。
学園に入り、毎回のテストでナナエルはいつも1位ばかりとっていた。
それが気に入らなかったのだろう。
王子とその取り巻きは馬鹿にするようにナナエルを“がり勉令嬢”と呼んでいた。
ナナエルはあまり気にしなかった。
ある意味事実だったのと、王子とあまりにも交流が無く彼がなにか言っていてもショックを受けられるほど近しい人間ではなかったからだ。
最初にナナエルを地味と言ったように、また失礼なことを言っているとしか認識していなかった。
けれど、ある日王子は気が付いてしまったらしい。
がり勉であるという事はある程度の事務処理能力があるという事。
この国の王都にある学園は基本的に貴族が領地を経営したりそれを補佐するため教育をしている。
また文官になってこの国を支えるための。
その学園のテストの点数がいいという事は、少なくとも知識の面でそれらをするのに困ることは無いのだと。
王子は自分がすべき仕事をナナエルに押し付け始めた。
理由は婚約者候補に王子について知ってもらうため、婚約者としての適性があるか確認するため。
ただ、公務の中で目立たなく地味で、とはいえ文官に全て押し付けてしまえば、素晴らしい王太子というイメージが崩れる。
そういうものばかり王子はナナエルに押し付けていた。
目立つ物、式典の本番、そういう華やかなものは全て王子が行っていたため、すべての手柄は王子のものとなっていた。
王子の評判が上がる度、地味ながり勉令嬢が婚約者となるのが本当にいいのかそんな声が大きくなっていった。