さくら
さくらは今年で大学三年になるが、一度も恋人と言うものは作ったことがない。言い寄ってくるものがいたが、そいつらを避けることになったのは、以下のような理由からだ。
さくらが、中学生の時、山田と言う男がさくらにLINEを交換するように求めてきた。さくらはそれに応じ、楽しく会話をしていた。さくらの性格はと言うと、はっきりとモノを言う性格で、男女ともに交流を持ち、決してやさしいとは言えなかったが、好意を抱くものはそれなりに多かった。さくらは出会う男にひどいあだ名をつけることも多かった。例えば
「ボッチのっぽメガネ」
「チベット北狐」など、普通の人が聞けば、あまり気持ちの良いものではないものの、さくらは嫌われることはなかった。
山田は何を思ったのか、さくらにきもい発言をし始めた。「髪触ってもいい?」、「マッサージしてあげようか?」などなど言ってきた。普通の女子なら先生に訴えて、然るべき措置を取る所だが、さくらは
「は?きも。自分の髪でも触っとけよ。変態。」と真顔で言った。そして彼は、彷徨な表情を浮かべ、さくらから離れ自分の席に向かう。他の女子から心配されるがさくらは全く気にしていない様子であった。
進級した後も、LINEでの交流は続けていたが、ある日さくらは流石に度を越えた発言をする男子を周りの助言を聞き入れるようにしてブロックした。
そうして数日たった頃、山田から告白されるも、それを退けた。山田とはLINEの交流を続けていたが、友達だと思っていたので幻滅し、ついにブロックリストに追加されてしまった。山田はさくらのことを諦め、さくらの友達に告白し、付き合い始めた。さくらはそれを聞いて、別に何も思わなかった。
だが、数週間後、山田は自分の彼女を通じてさくらと繋がろうとしていたということが判明した。彼女がさくらと遊びに行こうとするところを黙ってついてきていたのだ。そして偶然を装い声を掛けた。学校では進級してからは気まずくなったのか、さくらのいるクラスには近づかなかった。そしてさくらにこう話しかけた。
「さくらって今彼氏いる?」彼女がいる前で常軌を逸した行動をとる山田にさくらと山田の彼女は黙っているしかなかった。
高校に上がると中学のメンバーとは一切かかわらなくなった。さくらの性格は相変わらずで発言に毒がある者の行為を抱くものは一定数おり、男女ともに友情をはぐくんでいたかに思っていたが、またもさくらを女として見ている男がおり、さくらに告白したが、さくらはそれを退けた。それでもあきらめず村田と言う男は食事に誘ったり、遊園地に誘ったりと、さくらにアプローチし続けた。その甲斐あってか村田は二人きりはイツメンと一緒ならと言う条件付きで受諾した。
村田は楽しそうに振舞っていたが、周りの目は冷ややかだった。それに耐えかねてか、村田は途中で退席した。昼休みに一緒にFPSをしたり、人狼ゲームをしたりするのが楽しいと思っていたのに、村田の行動に辟易するほかなかったのである。
かといってさくらに恋愛感情がないわけではないのであったが、友達と恋人は別と言うのが、さくらの持論であった。つまり、一旦さくらに友達認定されてしまったものは彼女になるのはあきらめるしかいのであるがそんなことは知る由もない男たちは、不毛な努力をし続けるのである。
そして大学に進学し、そこで同じ学部の同じゼミの男女数名ずつと仲良くなった。さっきの
「ボッチのっぽメガネ」の中元と「チベット北狐」の北川。彼らはこの悪口としか言えないあだ名を全面的に受け入れ、さくらと接していたが、ある日さくらは英語の授業中に
「りゅうせい。消しゴム貸して」とあだ名ではなく、名前で呼んだ。突然の名前呼びに、虚を衝かれたが平静を装い。中元は消しゴムを貸した。そして、中元の心拍数は爆増し、吐き気を催すものになったがその様子を見たさくらはそれに構わず
「さっき写しそびれた、ノート撮らして」と言った。中元はLINEでも交換させられるのかの思ったが、さくらはスマホの上からスマホを撮影した。中元は茫然と立ち崩した。
中元は食堂で一人でご飯を食べていると、さくらに話しかけられた。さくら一人かと思って、動揺していたが、周りにいつものメンバーが見えて、安心したような残念なような気持になった。
「さくらさんはそういえば、どこ出身なんですか」吃りながら質問した中元だが、
「大阪の南の方」と淡々と答えた。中元はそれ以上質問することはなかった。中元は他の人がしゃべっているところに相槌を打ったり、ツッコミを入れたりして、会話を楽しんでいたが、ふと中元は
「そういえば、日曜って忙しかったりする?」と聞いた。するとさくらは
「そうやなぁ。バイトで忙しかったりするなぁ」と答えた。中元は何を思ったのか、さくらが自分の誘いを断ったと思った。何も誘っていないにもかかわらず。
中元はそれから、さくらにとってめんどくさい男になっていった。さくらが、自分抜きで食事に言っていると「自分の知らんところでコミュニティーができてるわ」と言ったり、しつこくさくらに食事に誘わなかった理由を問い詰めたりした。というのも、中元には3歳の弟がおり、その面倒を見るのに忙しいと言って食事を断っていることが多かったので、さくらは気を使っていたが、中元はたまたまその日は親が早く帰ってくるので、面倒を見なくて良い日だったのだ。そんなことを知らないさくらは中元を食事に誘わなかったのである。メンヘラ化したと言って、さくらは周りの人に中元の発言をばらし、そして、この一言を放った。「教採受かるまで、恋人作らんわ」
さくらを物怖じしない、且つさばさばした性格のおかげで、さくらに構ってほしい男たちが、群がってきたのである。
さくらは過去の苦い経験から男子とは、LINEもインスタも交換しないことにしていた。そのおかげかさくらのプライベートについて知る者は男子の中にはいなくなった。さくらは酒好きなことは話していたり、祖母がやばいやつだったり、昼休みに麻雀をしていたり、原神をしていたり、学校で話すことについては、知っているものの、どこで遊んだり、誰と会ったりと言った情報については誰も知らなかった。
なぜ彼女は、周りに変な男が集まってくるのか不思議だった。占いに言ったり、風水に言ったりしたが、さくらが納得するような答えは返ってくることはなかった。かといって、何も対処しないとまた変な男が集まってくるのは目に見えていた。優しくすればいいのか?それとももっときつく当たればいいのか?生活習慣や言葉遣いを変えればいいのか?さくらは途方に暮れながら、家路についていたが、後ろから中年の男が話しかけてきた。
「何かお困りですか?」男はグレー色の一枚布に身を包みフードを被っていた。周りにハエが集っており、不潔をそのまま言葉にしたような男だった。顔を見ると無精ひげに、一本戦のような細い目、ハムスターのように出ている2本の前歯、そして何かが腐ったようなにおい。さくらは後ずさりしながら
「いやあ、間に合ってます」といって逃げようとしたが、男が
「大体顔を見たら分かりましたよ。男運がないんでしょう?」この鼠のような男にぴたりと言い当てられ、早歩きしていた歩をとめた。
「ふふふ。お困りでしたら手助けしてあげますよ。」そういって、鼠のような男は名刺を渡した。
名前と電話番号だけが書いてあった。根津実それが彼の名前だった。
「ねず.....み?」
「根津実と申します。私はいわばボランティアで自己啓発を行っているのです。お困りのことがあったらそちらまで電話してください。ボランティアですからお金を取ることは一切しません。では。」
そういうとさくらが呼び止めるまでもなく姿が消えていた。
その夜さくらは芋焼酎を飲みながら、根津実について考えていた。中元や山田などの変な男だけでなく、根津まで近寄ってきたら、もう何か小手先の対処だけでは、もうどうにもならないところまで来てしまっているのかもしれない。そう思うとすべてを忘れたくて芋焼酎をどんどん飲んだ。そして、酔っぱらったさくらは根津に電話を掛けた。
「明日、大学に来てください。場所は.......」
「分かりました。お役に立てるよう精いっぱい務めさせていただきます。」
翌日、さくらの指定通り大学の食堂に根津が現れた。だが、昨日の格好とは違い、紳士然としたスーツを着ていた。相変わらず匂いはきつかったが....そしてさくらに話しかけた。
「大方、男友達に変な人がいるということでしょう。お任せください。男を見ればなぜ変なのか分かりますから」そして、さくらが座っているところに中元が近づいてきた。酔った勢いで頼んだとはいえ、何にもならないということは分かっていた。こいつがペテン師であることも。だが、この男といれば私に話しかけてこないのでは?と言う一縷の望みをかけたが、その願いはむなしく散っていった。
「さくらさん!この人は?」
「ちょっと失礼」そういって根津は中元に向かって口臭を吹きかけた。中元はあまりの臭さに耐えれず気絶した。
「やっぱりそうですか」
「やっぱり....?」
「ええ。こいつには妖怪が取りついていました。」
「妖怪.....?」思いがけない言葉にさくらは戸惑ったがすぐに冷静になった。妖怪などいるわけがない。あんなものはアニメや漫画、小説の中にしか出てこないのだと。嘘をつくにしてももっとましなものはなかったのかとそう思い根津をみた。
「妖怪なんているわけない。そうお思いでしょう。ちょっと前に何でもかんでも妖怪のせいにするアニメが流行りましたっけねェ。」
「そういえばそうですね。」
「ですが、ご自身が妖怪だとしたら、どうします」
「なんやて!?」あまりの言葉に流石に反応したさくら。
「何で私が妖怪なんですか?」
「考えてもみなさい。あなたは男を狂わせる天才です。他の女性であなたと同じような目に逢った人を誰か知っていますか?」
「あとあなたの大酒飲みも尋常じゃありません。要するにあなたは、こなき爺なのです」
「え、」
「おそらく子供のころに、本物のさくらとこなき爺を交換したんでしょう。こなき爺は妖怪としては珍しく人間にも姿が見えます。そして、おそらくどこかで元気に育っているさくらさんとご両親は思いこんであなたを育てた。するとその言葉を聞き続けたこなき爺は、思い描くさくらさんへと変貌したのですが、どこまで行っても妖怪は妖怪。あなたの発言する言葉一つ一つが重みとなって、人々にのしかかった。その重みを性的快感として勘違いした男たちがあなたにすり寄ったのです。」
さくらは言葉を失った。まさか自分のせいでこんなことになっていたとは。おばあちゃんがいつも私に向かって不機嫌な態度を取っていたのは、そういうことだったのか?この事実を知ったところでさくらはどうにもできなかった。また別の人に相談でもしようか?
「私はどうすればいいのですか?」
「うーん。それはあなたが決めることです。人間としていきたければ、このままいればいいです。当然男たちはすり寄ってきます。しかし妖怪として生きたいならば、お手伝いすることもできますよ。」
さくらは考えた。人間として生きたところで、将来目指すのは教師だ。正直やりたい仕事ではなかったが、親に言われたし、特にやりたいこともなかったので取り敢えず、教師を目指すことにしている。しかも、どこに行っても、どの世界に言っても、おかしな男たちが寄ってくることは確定している。まともな男は私の前には現れないのだ。しかも、私がいなくなれば険悪な家族の雰囲気がなくなるかもしれない。さくらは答えた。
「私を、元の姿に戻してください。」
さくらが消えてから数日後.....世界にはしたい圧縮死体が各地で見つかった。大学の山田も、中元も、川上も、中学の時にアプローチしてきた奴も自宅や電車の中など場所はばらばらだが、圧縮死体が見つかった。被害にあわなかったのは色恋に興味のない男たちだった。
とあるニュース番組にて
「前年度に比べて世界の少子化率は倍増しており今後も増加傾向にあると.....」
「そうだねえ、何か最近圧縮死体ってのが増えてるらしいじゃないの。こんなんじゃ怖くて外歩けねえよ」