閑話
彼が仕事へ行ってしまった。寂しい。凄く寂しい。
見たところ、この部屋は本当に一人暮らし用のそれで七畳か八畳くらいしかない。掃除をしようと思っても、すぐに終わってしまう。それでは時間が潰せない。
「…………」
さてどうしたものか。とりあえず洗い物は済ませたから、掃除機でもかけようか。
――鳴り響いているのは掃除機の音だけ。外から差し込んでくる光は屋内にいる私の肌をヒリヒリと痛めつけてくる。
「暑い……」
普通に考えれば、今は夏なのだから当然と言えば当然か。
予想通り、部屋の掃除自体はものの一〇分で終わってしまった。
時計の方へ目を向ける。時刻は九時二五分。佳彦くんが家を出て、まだ三〇分も経っていない。正直暇だ。暇で暇で仕方がない。
「……なんでこの部屋にはゲーム機のひとつもないのかなあ」
こんなことを言ってしまっては何だが、ゲームをやらずに生活出来ている人間がいるとは思えなかった。かという私もしたことはないのだけれど。というか、私はスマホすら持っていないけれど。
「…………」
あれから一時間。することがなさすぎて、トイレだったり風呂場の掃除をしていた。おまけに玄関の掃除も。
我ながらこんなに動けたことに感心するし感動した。
「でも、つっかれたー」
ソファで横になる。
すると、すぐに眠気はやってきた。
「……寝ても大丈夫だよね」
――――
目が覚めた時には、彼が帰ってきていた。
「有栖、もしかして掃除してくれてたのか?」
「うん」
「そっかそっか。ありがとな」
彼はお礼を言いながら、私の頭にポンっと手を置いた。私は彼がしてくれるこれが大好きだ。温もりを、暖かさを感じられるから。
「~~」
思わず、スリスリしてしまう。まるで猫にでもなった気分だ。いつか自分でゴロゴロとか言い出してしまいそうだ。
しかし、あんまりくっつきすぎるのは良くない。しつこいとか思われたらショックで立ち直れる気がしない。
「ご、ごめんね?」
「ん? 別にいいぞ」
彼はさりげなく返してくれる。
私にはそれがたまらなく嬉しかった。