信じる心と大河への想い
真実を知る者などいない。
だから追い詰められれば嘘でも告白しかねない勢い。
いくら荒唐無稽で有り得なかろうがそうだと主張し続ければ偽は正となる。
集団心理も働きいつの間にか俺は翼にされてしまう。
俺を巻き込むだけでなく利用し責任を擦り付ける。
これがアリアのやり方。
アリアを敵に回すべきではなかった。
俺は判断を誤ったようだ。
ここは早急に事態の収拾に向かうべき。
「大河さん本当ですか? 」
「分からないよブリリアント。俺には…… 分からないブリリアント…… 」
「大河。違うと言って。お願い信じてる。僕は信じてる」
「済まないシンディー。俺には何が何だか分からなくなっちまったんだ。
これが真実なのかそれとも彼女お得意の虚言なのか」
「大河さんがしっかりしないと皆困りますよ」
「ドルチェも知ってるだろ? 俺と翼がまったくの別人だと。信じて欲しい」
もはや願うしかない。
「どっちでもいいですけどこの際はっきりさせておくのも悪くないですね」
「何を言ってるんだエレン。俺は俺だ。大河に決まってる」
「往生際が悪いですよ翼さん。こんな子たち放っておいて行きましょう。
『聖女の涙』を探すんです。さあ早く」
すぐに傾きかけた流れを断ち切ろうとするアリア。
疑いは晴れそうにない。
「俺は…… 俺は大河。大河だ。翼なんかじゃない。大河なんだ。大河」
「まだ言うつもりですか大河さん…… ああいえ、翼さん」
アリアに緩みが出た。
形勢逆転?
「私は信じますよ大河さん。大河さんは大河さんです」
ブリリアントが重い空気を吹き飛ばす。
まるで女神様のように慈悲深いお方。
こんなにもブリリアントが頼もしく愛しいと思ったことはない。
「そうだよね。大河が大河でなくてどうするの?
翼なんて奴と一緒にするなんてかわいそうだよ。
僕も大河を信じる。ううん。ずっと信じてた、大河は大河だよ」
「シンディーありがとう」
ここの子は頭が良くない。シンディーのようにアホばかりだけどそこがいい。
単純だし騙されやすいが一旦信じれば心強い味方になってくれる。
「そうですね。冷静になって考えたらまったくの別人。
翼なる人物は悪人です。大河さんは間の抜けた良い人です」
ドルチェも憑き物が取れたかのように賛成に回る。
元々あやふやだったもの。どちらにでも転がる真実が俺に味方する。
残すはエレンだけ。説得すれば翻るはず。
「私は本当にどっちでもいいけど。
確かに大河さんにはあーちゃんを助けてもらったばかりだし……
嫌いって訳じゃない。いやどちらかと言えば…… ううん信じるよ」
エレンも同調した。
「ありがとう皆。俺は俺が信じられなくなっていた。
崖の下で一ヶ月以上彷徨っていて自分が自分である確証と言うか……
何て言えばいいのか本当に」
「もういいですよ大河さん。自分が自分であるなんて当たり前。
その当たり前が揺らげば自信なんてあっと言う間に吹っ飛んでしまいますよ。
やはり大河さんは大河さんなんですよ」
ブリリアントが真っ直ぐ見つめる。
俺も彼女を見る。
本当に立派になったなブリリアント。もはや俺なんかいなくてもやっていける。
情報収集能力も格段に上がった。
嬉しいぞ。
アリア以外がブリリアントに同意する。
こうして再びアリアに厳しい視線が注がれる。
「ぷぷぷ…… あっはははは…… フウフウ……
ハアハア…… あはは…… ププ…… ピッ……
あははは…… あっははは…… ははは……
本当にもうおかしい。ふふふ…… ひひひ……
ぷぷぷ…… もうダメ堪えられない…… ひひひ……
もう許したあげる。許してあげるからそれ以上喋らないで。
ははは…… 笑わせないで…… ふふふ…… はっははは……
プッププ…… 」
「アリア? 」
「大河は大河? 当たり前でしょう? そんな馬鹿が翼さんな訳ないでしょう。
翼さんはもう少し頭がいいわ。命令を受けたのは間違いなくあの翼さん。
こんな男が翼さんなんかじゃない」
「アリア…… 」
「翼さんはねえ一応私の夫なんだから見間違える訳ないでしょう。
あなたは正真正銘の大河よ。お人好しの大河さん。
あなたの主張は間違ってない」
「ふざけるなアリア」
つい感情的になる。だがアリアが完全に疑いを拭ってくれた。
そうすべてを知る者による完全否定がどれだけ俺を救ってくれたか。
まあ元々アリアの策略だった。
失敗に終わった今潔く真実を語るのは当然と言えば当然か。
「本当あなたたちには呆れた。一人ぐらい信じ込むかと思ったけどね。
私に惑わされずに正解のボタンを押した。立派よ。胸を張りなさい」
なぜか先輩面して褒め称える。これもアリアの作戦?
「今日は皆のおかげで随分楽しませてもらった。程いい暇つぶしにはなった。
出来ればこのまま格好よく立ち去りたいけどそうも行かないでしょうね。
今更だけど自己紹介を始めないとね」
「アリアお前…… 」
アリア先輩による特別授業が開始される。
続く




