アリア先輩
ミス・マームから話を聞く。
一口含んでから大げさに深呼吸。別にそこまでしなくても……
「彼女たちはなぜここに? 」
「ふふふ…… まずはあなたから話すのが礼儀じゃないかしら」
「ですから月祭りに参加したくて」
「それにしては昼間は嫌そうにしてたじゃない」
「ははは…… そうですか? 」
気付かれたか?
「まあいいわ。少しだけ」
ようやく話す気になったらしい。
「ここに居る子は皆、島から出た事のない生まれも育ちもこの島って言う島っ子」
様々な事情で独り身となり連れて来られたのがここマウントシーなんです。
ご理解頂けたかしら」
「そうですか。具体的には何一つ教えられないと? 」
「詳しくは本人から直接伺って下さい。たぶん答えてはくれないでしょうけどね」
付け加える。
「私も受け入れるにあたり何ら資料を持っている訳ではないのです。
本人による告白が主ですから」
口は堅いようだ。これは言われた通り本人たちから聞くしかないか。
楽をさせてくれそうにない。骨が折れるぜ。
部屋を後にする。
昨晩の雨の影響は限定的で少しぬかるんでいるがただ歩く分には差し支えない。
これなら朝にはきれいに元通り。
宛がわれた部屋へ。
ゆっくりする暇も無く外から人影が。
どうやら俺に何か用があるらしい。
念のため警戒はするが皆力の無い少女たち。問題はない。
ノックがするとすぐにドアが開く。
「お久しぶりね王子様。ハッハッハ…… 」
大笑いで入ってくる得体の知れない女。
岬アリアであった。
「何か用か? 」
こんな時間に訪ねてくるとは非常識な女。
杞憂だろうが警戒するに越したことはない。
「昼間はどうも。さっきハッピー先生のところへ行ったの知ってるよ」
ハッピー先生とはここの責任者。教員の免許がある訳でもないみたいだ。
呼びやすいようにとのことらしい。
他にもミス・マームだったりミセス・グリーズ。
矛盾があるがまあそんなものだろう。
「別に俺がどこに行こうと勝手だろ。それで何の用だ? 」
冷たくあしらい怒って見せる。
「そんなピリピリしないでよ」
不満そうなアリア。
こんな夜遅く訪ねてくるなんて非常識にもほどがある。
「いいから出て行け。大人しく寝てろ」
「冷たいのねあなた」
まったく嫌になる。これだから女ってのは嫌になるぜ。
「それで何の用だ? もったいぶらずに早く言え」
「ふふふ…… あなた何か探ってるでしょう? 私には分かるのよ」
この女。脅迫するつもりか。
「それがどうした? 早く寝ちまいな」
「ほら投げやりにならないの。それとも私と寝たいの? 」
やはりこの女は侮れない。敵意をむき出しにするだけに飽き足らず余裕の表情。
俺をおちょくるつもりだろう。
「何を探っているの? 」
「そんなことないさ」
「本当? 本当に本当? 」
「そんなことない」
アリアは動じずに繰り返す。
「いやそんなこと…… 」
バツが悪くなり口ごもってしまう。
まだまだ俺も甘いな。
アリアは追及の手を緩めない。こちらの顔を覗いてくる。
「うるさい。うるさい」
逃げの一手を打つ。
「どうやら図星だったみたいね」
どんな反応を示そうが結果は同じだったのだろう。
彼女はいやらしい笑みを浮かべる。いや元から笑っていた気もする。
「仕方ないわね。このアリア様が二つだけ教えて差し上げようじゃない。
いいよく聞きなさい」
手をチョキにし勝ち誇ったように突き出す。
何のつもりだろうか。笑いは継続中。
「どちらからがいい? 私のこと? それとも美波さん? 好きな方を選んでね」
「つまらない作り話は止めろ」
「あらご不満だったかしら。あなたの希望に沿ったつもりだったんだけどな」
相変わらずふざけた奴だ。
「美波? 誰だそいつは? 」
「美波ブリリアント。青のカチューシャの子よ。いたでしょう。覚えてないの?」
どうでも良いことは覚える気になれない。誰が誰であろうと俺には関係ない。
あくまで目的が果たせればいい。ここの者と仲良く友達ごっこするつもりはない。
もちろん恋愛ごっこなら大いに歓迎だが……
それだけは言っておかなくてはな。
「ああ何となく」
「彼女はあなたに興味があるみたいね。もし隙があるとすれば彼女。
優しくしてあげれば何でも教えてくれるかもよ」
「フンそれで」
「大人しく言うことを聞きなさい。先輩の助言は聞くものよ」
誰が先輩だ。ガキのくせして生意気な。
「突破口は彼女。間違っても私から崩していこうなんて言わないでよね」
「分かったよ。それでもう一つの方は? 」
彼女の言う通りにしていいか迷いがあるが今のところ新しい情報も入ってこない。
まあ協力してくれる分にはいいか。ただ信用はできない。
初日だし様子を見るとしよう。
有益な情報を頼むよアリア先輩。
続く