ハードな練習
暑い。
昼が過ぎる頃には三十度を超える。
暑さが徐々にひどくなっていく。
午前中は室内で過ごし午後は祭りの練習。
これが祭りが終わるまで続く。
俺はまだ耐性があるからいいが彼女たちは本当に大丈夫なのだろうか?
本来ならスポーツやハイキングに海へとアクティブな時間となるのだが……
今は祭り漬けの毎日となる。いいんだか悪いんだか。
皆黙々と踊りやら楽器やらの練習に励んでいる。
大人しい。実におしとやかで従順だ。まるで感情を失ったかのよう。
冷たい目を見るとまるで人形かのような印象を受ける。
なぜかゾッとする。
まだ出会ったばかりでロクに話していない少女たち。
彼女たちは一体何者だろうかと疑問が浮かぶ。
うん…… こちらを見つめる者が…… いや睨む者が一名。
休憩に入ると話しかけてきた。
「ここには何しに来たんだい? 」
クールな大人の女性を思わせる話し方。
無理してそうしているのか逆に大人っぽさを消し少女を演じているのか。
「私は岬アリア。ねえこんなくそ田舎のつまらない祭りに本気で興味があるの?
あなたって変わった人ね」
関心を持ってもらい光栄だがどうもトゲがある。
「ちょっとな…… こっちにも事情があるのさ」
「事情? あなたの事情に興味ない」
「ハハハ…… それで俺に話があるんだろ? 」
「月祭りに参加するんでしょう。普通島の人以外知らない。
あなた一体何者? 目的は? 」
早口でまくし立て畳みかける。
まあ当然の反応だろう。得体の知れない人間がやって来たのだから。
大人しく迎え入れてもらおうなどと思っていない。
「目的…… 」
言えるはずがない。言えば邪魔をするに違いない。
ここは話を逸らすか。
「いや本当に暑い。暑い。それにしても暑い」
「はあ? 何を言ってる? 」
実際暑かった。しかし彼女の額から汗が落ちることはない。
汗を掻かない体質なのか?
いや…… ハチマキは濡れていて滲んでいるのでそんなはずはないか。
ただそう見えるだけなのかもしれないな。
少女たちは外ではハチマキ。内ではカチューシャが決まり。
今も赤のハチマキがたなびいている。
彼女たちはそれぞれ色を持っている。
赤以外にもハチマキとカチューシャのセットで色分けしている。
それぞれの色を持っているのは良いことかもしれない。
違いが明確で分かりやすい。ただ覚えるまでが大変だ。
名前と顔と色と。
今のところ赤のアリア以外区別がつかない。
全員、真面目で上品で精気が感じられない。
なぜこうなのか気になるところではあるが今は目的を果たすことが第一。
それ以外のことははっきり言って考えたくない。
出来れば自然と仲良くなれればいいんだが。そうすれば仕事がやりやすくなる。
ちなみに制服は青のワンピースと黒の革靴にカチューシャ。
運動着は白の半袖に半ズボンとハチマキ。運動靴となる。
休憩を終えると夕方まで祭りの練習。
皆一様に同じ動きを繰り返している。
運動神経はいい方だし体力もあるが同じことの繰り返し。はっきり言って飽きる。
「ほら大河さん。頑張って」
手の動き足の使い方。基本をみっちり叩き込まれるのだからやってられない。
ダンスも舞も未経験。楽しいとも思わない。
だがこれも自分に課せられた試練だと思い真剣に取り組む。
ただ前の者に合わせようとするあまり一歩遅れる。
なぜかミスをした俺を誰も気に留めない。ただ黙々と練習に励む。
注意しても怒っても笑ってもくれない。皆怖いくらいに無関心。
アリアも練習中は決して話しかけようとはしない。
ようやく陽もくれダンスから解放。
俺は今一体何をしているのか? 何をさせられているのか?
情けなくなってくる。だがこれも必要なこと。
少女たちは疲れたとも苦しかったともつまらないとも言わずに平然と帰って行く。
俺もただ後ろについて行くことにする。
彼女たちはおそらく自分の部屋に戻るのだろう。
彼女たちはここで五人で暮らしている。
もちろん監視役の大人も三名。
管理人とミス・マームの三人。
マウントシーにはこの合わせて八人しかいない。
俺を含めれば今日から約二週間九人で過ごすことになる。
その初めての夜という訳だ。
とにかく早く情報が欲しい。
その為にはまずここに詳しい者の話を聞くのがベスト。
用意された部屋を素通りしてミス・マームの元へお邪魔する。
「あらどうしたのですか? 迷ってしまいましたか? 」
こんな風におちょくってるのか心配してるのか良く分からない。笑顔が胡散臭い。
ここで毎夜何をしているのやら。寄宿学校でもあるまいし。
「少し話をしたいんですが…… 」
「あらあら何でしょう? 」
笑顔を絶やさない女。一筋縄では行きそうにない。
あと二週間もないのだ。ぐずぐずはしていられない。
「五人について知っていることを教えてくれませんか」
「あらあら彼女たちに興味を持ったの? それは当然のことかしら。
おかしくないわよ。あなたの年齢ならしょうがないわ」
「はぐらかさないで。彼女たちが普通じゃないのは一目見れば分かりますよ」
「普通? 普通って何かしら? ごめんなさい普通が分からないの」
紅茶を勧められたのでとりあえず一口つける。それがマナーだろう。
「普通って言うのは…… 」
「ふふふ…… おいしい? そうだお隣から頂いたクッキーがあるの。いかが?」
別にどうでも良いがとりあえず一枚。
うん悪くない。随分久しぶりな気がする。
一年は食わなかったのは確かだ。あれからもう一年か。
ポリポリ
カリカリ
口にとろけるミルクが堪らない。
一口がつい一袋まで。
「あらあらまったく子供なんだから」
いつの間にかただのティ―タイム。
恥ずかしい。俺は一体何をしているのやら。
気を取り直して話を聞く。
「分かりました。言える範囲でお答えしましょう」
続く