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「プッ!ふふ‼どうしたの?借りてきた猫みたいよ?」
「う、うるせー…………」
孤児院の中で威勢が良かったクリフは馬車に乗せた途端静かになった。
拳を握りしめ、横目でチラチラと馬車の様子を伺っている姿はまさに借りてきた猫だ。
ちなみにアラン達の同行は強くお断りした。
元々この馬車は4人乗りであり、侍女のベラ、私、クリフが乗ってしまえばそれなりに狭く、彼らも渋々ではあったが受け入れてくれた。
「……ねぇクリフ、アランさんってどんな人?」
私が聞いた途端、視線をさまよわせて彼の眼はある一点に集中した。
何を見ているのかを確認すればワンピースの泥で汚れた部分を見ているらしい。
今ではベラが応急処置であらかた汚れは取ってくれたためそんなに目立たないが、汚れがあると思って見れば気が付ける程度にはついている。
「アランはスゲー良い奴だよ、俺達の世話とか大変なこともあると思うのに何も言わねぇし…………あ、あのさ……」
「ん?」
「その…………ど、泥団子投げて悪かった……孤児院って貴族が偶に来るんだ、でも大人と話したらすぐに帰っちゃうしそれで……その……」
「???何?私と話したいからあんなことしたの?」
私が目を丸くして聞くと顔を赤くしたクリフは小さくコクンと頷いた。
「私のことブスって言うために?」
「ち、違う‼オリビアは全然ブスじゃなくて‼‼」
「オリビア??」
つい聞き返すとクリフはまたしゅんとして俯いた。
「……ご、ごめんなさい……オリビア様……」
「ふふっオリビアでいいわ」
私が言うとクリフはバッと顔を上げた。
馬車が止まり、私が降りようとするとクリフは間に入って先に駆け足で降りてしまった。
「ちょっと!」
「……ん」
御者の前に立ち、手を差し出してくる。
「き、貴族の女は一人で馬車を降りちゃいけないんだろ!」
顔を真っ赤にしてプルプル震えながら、恥ずかしさに勝とうとしている姿は何とも可愛らしい。
私はクリフの手を取り馬車を降りるとそのまま彼の腕に軽く手を絡ませた。
「なっ!何して‼」
「あら、平坦でもエスコートしてくれるんじゃないの?」
悪戯っぽくニヤリと笑えば、クリフは魚の様にハクハクと口だけ動かして顔を逸らした。
「オリビアがえ、エスコートしてほしいって言うなら良いけど……」
「ふふっそうね!じゃあ腕の角度だけ直して行きましょうか!」
そっと絡ませた腕の角度を変えさせてエスコートの形を取らせて歩き出すと、クリフは従順について来た。
まったく、どっちがエスコートしているんだか。
歩きながら、私はさりげなくクリフから孤児院の内情を聞き出した。
何の策も無く孤児院に来たのはまず、今がどんな状況なのか確認するためでもある。
クリフの話を聞く限りでは既に数名夜中に里親が見つかり、引き取られていることから考えてもう被害は始まっているようだった。
そして気になるのは孤児院に出資している貴族の話。
「貴族達は孤児院に来て変だって言わないの?自分達がお金を上げているのにこんなに貧しいなんておかしいって」
「?子供を13人も育てているんだから金がかかるのは当たり前だろ?それに俺達は貴族とは話さないんだ。いつもお金をもらったら周りの人に貴族からお金をもらったってふれまわるだけ」
どうやら貴族は自分達が孤児院に出資しているという事実のみに興味があるのかもしれない。
「いくらもらっているかも知らないの?」
私が聞くと途端にクリフは俯いた。
「?クリフ?」
「…………数、数えられないんだ……その、俺達は文字も……知らない」
蚊の鳴く様な声でポツリと言った言葉に驚いてしまった。
日本であれば教育が当たり前過ぎて忘れていたが、ここでは金銭や出自だけでなく教育も平等では無いらしい。
そっか、ザックリ貴族、平民、貧民って知っているだけで私この世界について何も知らないんだ。
「ねぇベラ、孤児院は王国が管理しているの?ここって戸籍はあるの?」
「へ⁉あ、はい。孤児院は基本的に王国が管理しています。戸籍はあるにはありますが貴族だけがもっていることが多いので恐らくクリフ君は無いかと……」
となると、孤児一人居なくなっても誰も気が付けない。
里子に出されただけだと思われてしまう。
戸籍があれば毎回同じ所に里子に出されていれば異変に気が付けるかもしれないのに……。
王国が管理しているとはいえ管理体制がなっていない。
帳簿も恐らくきちんとつけられていない。
改ざんの証拠とも思ったが、そもそもそこまで管理されていないなら貴族からもらった額を少なく書けばいいだけなのだ。
「ん~~~~」
難しい……。
正直、悪者見つけてはい終わり!の様なものだと思っていたのに意外にもややこしい話に発展してきている。
せめて次の人身売買の日が分かればいいのだがゲームではそこまで細かくは描いていなかった。
「よし!管理されていないなら私が管理しちゃえばいいよね!」
と、いうわけで私はノートとペン、それから木で出来た小さな笛を購入して孤児院に戻った。
子供達を集めて一人ずつ名前を書いていく。
「これ僕の名前?」
「私の名前ってこう書くの?」
「そうよ、ここに誰が居てどんなことが好きなのか全部知りたいの。教えてくれる?」
優しく問いかければコクコクと頷いて一人ずつ何が好きで何が嫌いで将来どうなりたいのかまで事細かに教えてくれた。
チラッとアランを見ると彼は笑顔を見せているが若干眉が寄っている。
公爵令嬢が一人一人を認識している、というだけでかなり効果は期待できそうだった。
ついでに子供達を二人一組で組ませ、ご飯や就寝の度に内気な子も含めて子供達自身に管理をさせる、が。
「一人余るわね」
子供の数は13人、どうしたって一人余ってしまう。
私がどこかを三人組にしようとしたとき、クリフに手を掴まれた。
「じゃ、俺はオリビアと組む」
「わ、私⁉」
真っ赤になりながらも、ちょっとだけ勇ましい顔を見せる少年に私もちょっとだけ顔が赤くなってしまった。
「うわ、二人ともやらし~」
「「やらし~」」
子供達のからかいなど意に介さず、クリフは私をじっと見つめてくる。
「その、飯も寝ているところも何もかも違うけどさ……偶に俺が居るか見に来てよ」
時刻はもう夜にさしかかっている。
私はもう帰り支度をしていて、公爵家に戻ったら二度と会いに来ないと思ったのだろう。
「も、もチろん!……あ、あとクリフ、コレモッテいて」
精神年齢はクリフよりもずっと高いはずなのに、憧れていた赤い瞳に見つめられたからか私の心拍数は上がり、思わず声が裏返ってしまった。
「?笛?」
「何か……危険なことがあったら自分だけで解決しようとしないで、それを吹いて助けを求めるの、そしてこう叫んで」
言い終わった瞬間私はベラの手を掴んで勢いよく孤児院を飛び出した。
この世界にホイッスルは無いらしく、仕方がなく木で出来たそれっぽい笛を渡した。
これで孤児院はしばらく安全。
そう思って安心していいはずなのに、私の心臓はまだドキドキしていた。
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