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陰鬱で粘着質、嫉妬深く時に肉食。
それが後の第一騎士団副団長で聖女の護衛騎士、クリフだ。
彼はゲーム序盤では無表情で過ごし、お菓子を上げてもデートをしても丁寧にお礼は言うがどこか他人に壁を作るキャラクター。
ある夜、護衛で小さな傷を負ってしまったクリフを聖女が治した時、一緒に彼の頬にある傷も断られていたにもかかわらず誤って治してしまってから物語は急転する。
ゲームでのクリフ登場時からずっとついていた頬の傷が治り、クリフは驚きつつも少しずつ聖女に自分の過去を話す。
そして、聖女と心を通わせて2人の仲は急激に進展していくのだ。
仲良くなるとあからさまに彼との遭遇率が上がり、ファンの間では彼は軽度のストーカーなのではという疑惑さえ出ているがそれだけ愛が深いのだと私は思っていた。
そう、クリフの攻略には時間と根気がかかる。
決して会って数分で手を繋がれたからといって喜ぶ様なタイプではないのだが……。
「ここが畑でトマトとかズッキーニを植えてんだ!あっちに生えているのはニンジンで……」
私は元気に畑の説明をする赤髪赤目の少年を冷めた目で見つめていた。
出会いは喧嘩から始まったというのに、彼はもう既に忘れているらしい。
「わぁ!お姫様みた~い!」
「ねぇねぇどこから来たの?」
「こ、こら!今俺が案内してんだ‼あっち行け!」
貴族の来訪ということで警戒していた子供達が徐々に姿を現し、私やクリフに群がってくる。
「クリフ兄ちゃんと付き合ってるの?」
「な⁉ち、違……‼‼」
「付き合ってないわ、今日は孤児院がどんなところなのか知りに来たの」
クリフの性格の違いに打ちのめされ、もう既に私は冷静さを取り戻していた。
「じゃあさー!俺の女になってよ!」
突然手を握られ目を見開くと、私よりも頭一つ分小さい栗毛の少年は自分の小さな胸を叩いた。
「俺、将来はすっげー商人になるんだ!それで大儲けしてこの孤児院建て直して島を買って俺の国を作るんだ!俺が王様になるから、お姉ちゃんはお妃さまな!」
「私も私も!私はねー、将来お姫様になるの!可愛いお洋服いっぱい作ってー」
それは姫の仕事では無いのでは?
ちょっと疑問に思いつつも私は子供達の言葉にうんうんと頷いた。
「僕!僕は将来学者になるんだ!それでたくさん勉強して」
「分かった‼分かったからお前ら群がるな!」
ぎゃいぎゃいと賑わう子供達を宥めるクリフの姿はまさに良いお兄ちゃんだ。
その様子をじっと見つめているとクリフは真っ赤な顔をしてこっちを見てきた。
「な、なんだよ」
クリフが戸惑った声を出した瞬間、彼の頭上には拳が振り下ろされる。
「こら!オリビア様には敬語で話しなさい‼」
「痛ってぇ!そんなこと口で言えよアラン‼それに他の奴らも……」
「口で言っても分からないから拳で聞かせるしかないだろ!クリフが今一番年上なんだからお前が実践しろ!申し訳ございません。オリビア様」
またしてもアランという茶髪に黒い瞳の男性職員が頭を下げてきた。
私はクリフに案内を頼んだのに彼はついて来たらしい。
「…………ここの職員はアランさんと院長だけなんですか?」
20代そこそこの彼は人懐っこい笑顔を作りながら頭を下げてきた。
「いえ、あと二人女性が居ますが常駐しているのは私と院長だけですね」
「へぇ……」
じゃあ、この人が?
クリフが陰鬱になり、人に壁を作るようになった原因は彼の幼少期にある。
クリフが暮らしていた孤児院は世話好きのお人よしで兄の様な存在である職員が一人、そして父の様な存在の院長が居た。
クリフも血のつながらない兄妹達も皆二人を慕い、毎日空腹でギリギリの食糧しかなかったが明るく楽しく暮らしていた。
そんな中、事件は起こった、いや起きていたのだ。
ある満月の夜、クリフが慕っていた職員と院長が孤児院の子供を売りさばいている現場に遭遇する。
子供は睡眠薬で眠らされており、そこに足枷をつけて明らかなゴロツキへと引き渡される。
状況が理解できないクリフはその場で自分から飛び出してしまい、暴れるクリフを抑えるために職員が取り出したナイフで顔を切られ、彼の頬の傷は出来上がった。
斬られた痛みと激しい感情から魔法が発動され、彼はその身に宿る炎の竜巻の魔法で攫われそうだった子供以外全てを焼き尽くし事件は終了する。
後日、このことが第一騎士団団長に伝わり攻撃的な魔法であることやその魔力の多さ、身のこなしを買われて団長の養子になり、訓練の日々をおくることになった。
『騎士団長はただ俺が強いから引き取っただけで養父とは名ばかりでした。でも、俺から歩み寄ればまだ違ったかもしれないけど…………俺は……』
王宮の噴水の前で悩みを語るクリフの手をキャメルが優しく握るスチル。
『クリフ様は信頼するのが怖かったんですよね。でも大丈夫です。私は貴方を絶対に裏切りません!何も証明出来ないけど、絶対に絶対に!私はクリフ様の味方です‼』
『キャメル様……』
トゥクン!
という効果音がついても不思議ではない、キャメルがクリフ攻略の兆しを見せた瞬間だった。
ここから、クリフの反応はどんどん変わっていく。
ちなみにこの世界では魔法は貴族、平民、貧民関係なく発現する可能性はある。
一人一つの魔法だが誰もが発現するわけではなく、30人に1人くらいの人間だけが魔法を有するのだ。
「お、おい、大丈夫か?」
ふと気がつくと幼いクリフが綺麗な赤い瞳を見開きながら心配していた。
その後ろからわらわらと他の子供達も私を見つめている。
「オリビア様お疲れでしょう、中へ行きましょう」
「あ、いえ……」
物語を知っている私でも、目の前で自分を心配してくれているアランが人身売買に関わっている様には到底見えない。
幼いクリフは愛する人に裏切られ、自身の魔法で殺し、性格が変わってしまったのだ。
ゲームでの陰鬱なクリフが好みとはいえ、流石にそれを期待するほど私は腐ってはいない。
それに……。
私は両脇に居る10歳のオリビアよりも更に小さい子供達の頭を撫でた。
ゲームの世界に入れたことや、クリフの性格の違いに気を取られていたがここは今、私にとっての現実。
夢でもゲームでも何でもなく現実なのだ。
だったらこの子達が悲しむ姿をわざわざ現実にする必要は無い。
子供達から手を離し、私は赤髪赤目、純粋でお兄ちゃん気質で悪ガキで惚れっぽい今のクリフを見つめた。
「クリフ、私とこれからデートしない?」
「へ……?」
「「「デートー――⁉⁉⁉」」」
周囲の子供達や侍女のベラ、人身売買の犯人であるアランまでもが復唱するなか、当の本人であるクリフはボンッと音をたてそうなくらい一気に顔を赤くしていた。
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