1
お楽しみいただけたら幸いです。
『アンタが全て悪いのよ‼アンタさえいなければ‼』
四角い画面の中で銀髪に紫色の貴族風女性が髪を振り乱し、短剣を出して叫んだ。
悪役令嬢、オリビアだ。
『オ、オリビア様?キャア!何するの!』
ピンクの髪にピンク色の瞳の可愛らしい主人公、キャメルのこれ見よがしに可哀そうなイラストが映し出される。
「何するのって言ってる間に逃げればいいのに」
ハァと思わずため息を吐いてしまった。
自分が動かしているとはいえ、主人公のキャメルはどうにも鈍くさいというか芝居がかっているという感じで好きになれない。
しかし次のイラストが映し出された瞬間、私はベッドから勢いよく起き上がった。
「来たー―――‼待ってました‼クリフ~‼」
騎士の恰好をした赤髪赤目の青年が悪役令嬢の前に立ちはだかり、主人公キャメルに振り下ろされた剣を弾き飛ばした。
『悪女オリビア‼二度にわたる聖女の殺人未遂により貴様をこの場で処刑してやる‼』
冷静な頭で考えればいくら殺人未遂だろうが、その場で処刑はやりすぎだ。
でもこれはご都合主義満載の乙女ゲーム。
言っては何だが恋愛部分以外は結構適当なことが多い。
『嫌よ‼嫌‼このままで終わる私ではないわ‼』
セリフが出た次の画面では、悪役令嬢オリビアの腕についていた文字の様な模様がはじけ飛び、黒い炎が噴き出し始めた。
と、次の瞬間。
『グァ‼‼』
『ク、クリフ⁉そんなまさか封印が‼』
突然クリフは傷つきその場で膝をついた。そこにキャメルが駆け寄る。
「あ、ヤバ」
裏設定として、悪役令嬢オリビアは災厄の異名をもつ、このゲームの世界では最強の力を誇る闇の魔法を持っている。
そしてゲームのクライマックスでは怒りでその力を覚醒させるのだ。
クライマックスで打ち勝つ方法はただ一つ。
事前に攻略対象者との好感度ゲージが一定以上になっていなければならない。
好感度ゲージが一定よりも下回っていると……。
『キャメル‼危ない‼』
ドンッとキャメルを突き飛ばし、黒い炎に包まれるクリフ。
そして次の画面では黒いバックに赤い文字でBAD ENDと映し出された。
「あ~~~‼‼」
私は持っていたゲーム機を投げ出し枕に突っ伏した。
「ごめんクリフ~‼‼これくらいの好感度でもいけると思ってたんだけど~」
枕に擦り付けた顔をゴロゴロして自分を宥める。
高校生活の合間にコツコツと好感度を上げて、ついに今日‼ハッピーエンドを迎えて気持ち良く寝るはずだったのに。
「ハァ」
どんなに重たい気持ちでも睡魔はやってくる。
枕に突っ伏しながら私はその睡魔に身を預けた。
「んん、もう朝?」
真っ暗な視界の中、日の光を感じて私は目を覚ました。
「ヒィッ!も、申し訳ございません‼公爵様からお嬢様をこの時間には起こすようにと仰せつかっておりまして……」
怯えた見知らぬ女性の声に反応して私は飛び起きた。
見ると、中世ヨーロッパの様な服を着た女性がカーテンを開けていた。
「……誰?」
「申し訳ございません‼侍女のベラでございます‼‼」
ベラは私に対して怯えた様子で深々と頭を下げてきた。
気がつけば視界に入るもの全て、中世ヨーロッパに出て来そうなアンティーク調で出来ておりどう見間違えても私の部屋では無い。
それに手はやけに小さいし、腕には文字の様な模様が刻まれていた。
「オ、オリビア様?」
「おりびあぁ????」
思わず素っ頓狂な声を出しつつ私はその名前を頭の中に巡らせた。
オリビアといえば、さっき寝るまでにやっていた乙女ゲーム『時巡りの聖女』の悪役令嬢だ。
…………ちょっと待って。
この展開……知ってる。
よく小説で見かける悪役令嬢に転生という展開だ。
ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って‼‼
私は急いで近くにあった鏡に近寄った。
そこにはゲームで見たあの銀髪で薄い紫色をした釣り目の少女が立っていた。
ゲームでは確か17歳という設定だったはずだが今の姿はどう見てもそれよりも小さく、10歳前後というところだ。
「キャーーーーーーー‼‼イヤー‼どうしようどうしよう‼‼」
「お、オリビア様??お、お気を確かに……キャアッ!」
思わず私は飛び跳ねながら侍女のベラに抱き着いた。
そして満面の笑みで彼女を見つめる。
「やった‼クリフに!本物の攻略対象者達に会える‼すごいすごい‼キャー!嬉しーい‼‼」
時巡りの聖女は主人公キャメルの性格こそイマイチだが、作画に関しては文句のつけようが無い程の美男美女ばかり!
悪役令嬢のオリビアでさえもビジュアルは最強だ‼
え?処刑エンド??
確かに主人公がハッピーエンドになれば、オリビアはどのルートでも処刑されるが無問題‼‼
なぜなら私も数多の転生悪役令嬢達の様にフラグをガンガン叩き折っていくから‼
と、いうわけで。
一人の寂しい朝食を終えた後、先人たちに倣い私はゲームのオリビアはおよそ着ないであろう清楚な水色のワンピースを着て机に向かっていた。
ペンとメモが欲しいと言っただけで侍女のベラはきょとんとしていた。
その様子を見てクスクス笑ってしまう。
普段勉強嫌いな〝私〟が机にかじりついているのだ。
驚くのも無理は無い。
私はベラを下がらせ、自分の知っている時巡りの聖女の全てを書き出した。
書いている最中にも私のオリビアとしての記憶はどんどん鮮明になってくる。
始めこそ違和感があったがオリビアとしての記憶が蘇っていることから考えても、私は入れ替わりや憑依などではなく転生なんだと思う。
そして書いた日記帳をじっと見つめた。
「やっぱりクリフからだよね」
この乙女ゲームでは4人の攻略対象者が存在する。
聖女の護衛騎士、聖女の勉強係である年若い公爵、第二王子、そして第一王子だ。
全員大なり小なり何かしらの危機だったり心の傷を抱えていたりはするが、まず時系列から考えて一番近いクリフの救出を最優先にした。
面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>
既にしていただいた方、ありがとうございます‼