八話 例のブツを使います
八話 例のブツを使います
フライパンが見えないという欠点を補うために要はポケットのついたエプロンをつけてエスパーダをポケットに入れた。
意外に重さで首に負担がかかるが、要は言わない。またダイエット用品を買われても困るからだ。
ウサギ肉を炒め、野菜にも火を通して、水を入れる。
全てエスパーダのタイミングで行なった。そうしないと作ってる感が失われて、エスパーダはやる気をなくしてしまう。そう思ったのである。
幸いにもエスパーダのやる気は持続していて、エプロンから顔を出してフライパンを見守っている。
「カンガルーの親子みたいだな」
「親子はやめて。恋人なんだから」
黒星のちゃちゃにムッとしている。『恋人』という単語にアックスが落胆してたが、要以外に気付いた様子はなかった。
具材は順調に煮込まれ、ルーを入れる段階になる。そこでエスパーダはスミス姉妹に声をかけた。
「私の部屋から例のブツを持ってきて」
ライトハンドとレフトハンドは顔を見合わせ、首をすくめ、両手を広げて見せる。
「僕等二人じゃアレは厳しいよ」
「この前、アックスについてきてもらったくらいだからね」
「じゃあアックス……と黒星も連れてって良いから」
アックスだけをエスパーダの部屋に行かせたくないのか、黒星を加えた。その理不尽な扱いに誰も異を唱えない。アックスの扱いに要は戸惑い、ことの成り行きを見守った。
アックスは思いのほかへこんでおらず、むしろ率先してスミス姉妹を抱えて歩いていく。
「待て。はしゃぐなアックス」
黒星も後へと続き、少し開いていた押入れの中へ入っていった。あそこがエスパーダの部屋か。要が見ているとお腹に痛みが走る。
「いたっ」
「見たら死ぬわよ、私が。恥ずかしくて」
「その前に俺が殺されそうだ」
「じゃあ見ないで」
「はいはい」
要はフライパンに集中し、アクを取っていく。
野菜たちを柔らかくなっていき、ルーの投入を今か今かと待っている。要もアク取りに飽きて、アックスが桐の箱を持ってくるのを見届けた。
「ちゃんと監視したよ」
「アックスには箱以外触らせなかったよ」
アックスの肩に乗ったスミス姉妹はエスパーダに成果をアピールする。
アックスは桐の箱を持っていて、不満そうな顔をしていた。
「ありがとうアックス。箱を開けてくんない?」
アックスは黙って桐の箱を開ける。中には小さなカレー色の球体がびっしり詰まっていた。
「さ、要。それを全部鍋に入れて」
「え?」
「マジ?」
エスパーダの指示にスミス姉妹が驚いている。
要は何も言わず、エスパーダの指示通りにアックスから桐の箱を受け取り、9袋をフライパンに入れた。
溶けていった球体からカレーの匂いがした。やはりあれはルーだったようだ。
ただ、小人達が取り返しのつかないことをした人を見るような目で見てくる。何を間違ったのご不安になって、子カンガルーに目を向ける。
「これで良いの」
エスパーダは一人自信に満ちていた。