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World of Gray  作者:
『world of gray』
5/45

『C4♯』










world of gray5










次の試合のアナウンスが掛かる。

呼ばれたのは「真依理」と「明希正」。

「真依理」は、意気揚々とフィールドへと向かう。

其処には「雫」と「太陽」だけが残った。


『お疲れ、雫。』


『ああ、ありがとう。』


そう言った「雫」の顔は、少し曇って見えた。


『これくらいの事で駄目になる火憐じゃない。軽い火傷だけなら直ぐに良くなる。』


『そうだな。軽い火傷だけなら・・』


「太陽」は、ガラス越しに何処か遠くを見つめる様であった。


『火憐も無茶をするな。でも、いい試合だった。お疲れ様、火憐。』




所定の位置に立つ「真依理」と「明希正」。

二人は、とても落ち着いて見えた。

肘を上げ、肩を回す「明希正」。

手を組み、体を伸ばす「真依理」。

胸を膨らませ息を吐く。

それと同時にストンと肩を落とすと「真依理」は、「生徒会長」に目配せた。




『総合戦B組、試合開始。』




「真依理」を中心として黄砂が舞い、それは人の姿となり「明希正」に向かう。

その数は、四十。


『土行、産土の兵隊(どぎょう、うぶすなのへいたい)!』


「明希正」が地に手を付くと、其処より白金が隆起する。

そして、周囲を瞬く。

それは弾丸へと形を変え、「明希正」は「真依理」の技へと目掛けて、それを弾き飛ばした。

指に鳴る、耳を突き抜けるかの様な高音。


『金行、白金の弾丸!』


「真依理」は土の兵隊と上手く連携を取り、攻め立てる。


『白金ノ小太刀!』


「明希正」の方手に集まる白金の粒、それは刀へと形を変えた。

「明希正」は相手の動きを瞳孔一つで捉え、比較的距離の近い土の兵には刀で応戦し、距離のある土の兵には弾丸を弾き飛ばし、攻め込む隙を与えない。

そうして一体、また一体と数を減らしていく。

しかし、このままコレを続けて居たのでは「勝ち」には結び付かない。

幾ら技を潰しても、この消耗戦の先に勝機は無い。

何処かで「真依理」に攻め入る隙を作らなければ、「明希正」はバテてしまう。

「明希正」は、その機を待つ。

いや、作る。


『うん!いいね!』


『いやぁ〜キツいっすね! でも、だいぶ見通しが良くなったんで、バンッバンッ攻めさせてもらいますかあっ!』


『それは困るから・・・来い、黄土産土の大兵隊!』


『おいおい、こんなのありかあぁ。」


「真依理」のその技は、先程の十倍にもなる数の兵を生み出した。

「真依理」は前に出ず、幾多の兵を操り「明希正」を追い詰める。

試合は明らかに「真依理」が優勢、だけど「明希正」の目は、まだ戦う事を諦めていない。


『金行、白金の弾奏・・弾丸世界。』


「明希正」を中心として大量の白金の粒が生まれ、辺りを覆った。

客席から見た其処は、やたらとチカチカしていて何が何だかよく分からない。

握る刀は粒に返り、「明希正」を中心として踊る白金の渦に飲み込まれて行く。

フィールドに散らばる白金も、また同様に。

その様は、まるで嵐。

「真依理」は、手で少し顔を隠し、細目で警戒していた。

刹那、静寂に目を凝らす。

視界は天に、斑点模様を映し出した。


『黒い空に、この技は見栄えするな。』




ーーーーーーーーー白金射撃、超多連突破。




するとそれは、地に落ちた。

限りなく一斉に近く、だけど同時じゃない。

ごく僅かな時間で無数に連続している。

「明希正」の技が地に落ちる音、「明希正」の技が「真依理」の技と打つかる音、「真依理」の技が弾けて土に返る音、これらが連続して聞こえてくる。

弾丸が奏でる大合唱。

変わらずフィールドはチカチカと瞬いて見えるが、先程よりは見晴らしが良い。

誰かにとっては、特にそう見えるだろう。


『もう一度その技が来る前に攻め落す。・・・産土の兵。』


「真依理」は、二体の土と共に「明希正」目掛け一気に距離を詰める。


『白金ノ小太刀!』


真正面から受け立つ「明希正」。


『産土煙!』


「真依理」の技は、辺りを土煙で覆った。


『長時間ここにいたらヤベェな。早くこの煙から抜け出さねぇと・・・』


「真依理」は、土煙の中に二体の兵を突撃させる。

視界の悪い土煙の中で一方的に攻撃を受ける「明希正」、攻撃を受けた方向で大まかな兵の位置を予測し反撃するが、当たらない。

攻撃されなければ相手の位置が分からない、分かった所で攻撃が当たると言う事でもない。

当たり前だが、相手は動いている。

向こうには「明希正」の動きが見えている、のかは分からないが、正しく把握出来ているのは間違いない。

相手の動きが、そう教えてくれている。

動きを予測しようにも飽く迄「明希正」は予測、それが見えているとなれば防ぐも躱わすも簡単な事。

一番最悪なのは、「明希正」の攻撃に合わせて攻め返される事。

カウンター程いろんな物が持っていかれる物もない。

何回も何回も決められれば、ダメージが無いにしても戦う気が失せる。

そんな物を消耗している今、何回も何回も食らい者なんて恐らく誰も居ないだろう。

普段なら大して気にしない攻撃でも、致命的なダメージになりかねない。

僅かなダメージが、大きな二択を生む事もある。

ダメージを攻撃の大小だけで見るのは、少々ナンセンスかも知れない。

弱い攻撃でも大きな結果に結び付く。

大事なのは、二つの意味で攻められているのか。

その渦中に身体が有る限り、二択を選ぶチャンスも権利もある。

後は当たりに当たるかどうか。


『産土縛り!』


土煙の中、足元から土が這い上がって来る。

冷静を装ってはいてもこの状況、無意識のうちに熱くなっていた様だ。

「明希正」は、土塊の人形との戦いに没頭していて土煙の外、「真依理」の行動を意識から外してしまっていた。

足首の自由が奪われて初めて、踏む地を固める土を認識した。


『俺も、まだまだだな。』


直後、そう反省するくらいの余裕を見せる。

余裕と言うよりは、その事が冷静になるきっかけをくれたのかも知れない。


『次はどう攻めるか、どう行動するか・・』


土は、どんどん這い上って来る。

徐々に体に張り付く土の感触を感じる間も無く「あっ」と言う間に、体はピクリとも動かせなくなっていた。


『産土埋葬!』


徐々に地面へと引き摺り込まれていく。


『縛り上げるだけじゃあ、間に合わないだろうからね!肩まで埋まれば何も出来ないだろう! ・・終わりかな。』


土煙は落ち着き、其処には薄ら人影が見える。


『・・・勝手に、終わりにしないでくださいよ。』


「明希正」は「真依理」が扱う土の中に白金を混ぜ、その白金を自身から遠ざける事で、体を締め上げる土を引き剥がし、沈められる前に技を回避した。


『土煙も、だいぶ落ち着いて来たっすね。・・白金の弾丸。白金射撃、一点突破。』


弾ける土の人形。


『白金射撃、一点突破。』


弾ける、土の人形。


『これで兵は、いなくなりましたね・・』




「生徒会長」は、言った。




『勝者、土宮真依理。』










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