『C4』
world of gray 4
『もう一度、雫と戦う事が出来るかも知れない。』
「太陽」は、そう考えるだけで何処かが燃える様であった。
「雫」は「太陽」に言った。
『もう一度、僕と戦う事が出来るかも知れないね!』
「太陽」は、分かり易く驚いた。
『今、そう思ってただろ?』
『雫は心が読めるのか?』
『そんなわけないだろ、僕も同じ事を考えていただけさ!』
『そっか!』
『あぁ!』
「火憐」は言った。
『あのぉ〜、私の事忘れてない?』
『忘れてないよ!昨日の試合、凄かった!戦う事になったら全力で行く!』
『油断してると、派手に火傷しちゃうわよ。』
「雫」は言った。
『そうだね!』
変な空気、妙な緊張感がその場に吹けた。
『それ、本当に思ってる?』
『ああ、もちろん。』
『火憐は火の異能で、雫は水だよね?』
『言いたい事は分かる。確かに僕は有利、だけど手加減はしない。火憐は強い。火傷しない様に火の元注意、しっかり消火させてもらうよ。』
「雫」の態度からは、分かり易く余裕が見て取れた。
勿論、この先の事も容易に見て取れる。
いつも通りの朝、安心安心。
『只今より能力試験を始めます。本日は総合戦ーーーーー』
異能力試験二日目、全属性戦が始まった。
全属性戦は、それぞれの属性で優勝の一席を勝ち取った者達が競い、正真正銘のNo.1を決める試合。
つまり参加出来るのは五人だけ、と言う事になる。が、今回は六人居る。
なので、今までとは少し違った形となる。
今回のトーナメント表は・・
Aブロック「火憐」と「雫」
Bブロック「真依理」と「明希正」
Cブロック「香」と「太陽」
この試合も例には漏れず、一位しか決めない。
そしてこの試験は、優勝したとて特に何の特典も無い。
強いて言うなれば「総合成績一位」と言う称号を得る、くらいであろうか。
『昨日の疲れは完全に取れた、今日こそ・・』
「太陽」は、何時に無く真剣な面持ちをしている。
その「太陽」の熱い決心にも負けない思いを、皆が持っている。
「真依理」も又、そのうちの一人。
『雫君、太陽君・・私の知る限りでは唯一の転入生。転入して来て初めての試合でこれまでの試合を大きく変えた。
水の異能でぶっちぎりの力を見せた雫君と、これまで確認されていない誰も見た事の無い力を見せた太陽君。
こんな二人が同じ時期に転入して来るなんてね。いやぁ、楽しみだな・・今回は、負けないよ。』
一戦目は「火憐」対「雫」。
「雫」は静かに席を立ち、フィールドへと向かって歩いて行った。
「火憐」は、過去第一回二回共に、全能力戦に参加している。
優勝こそした事は無かったが、水の異能力者相手には勝ち越していた。
不利である筈の水の力に。
この事が「火憐」自身の自信にもなっていたし、誇りだった。
だけど第三回試験、転校してきたばかりの生徒に負けてしまった。
その生徒こそ『水嶋雫』水の異能力者。
手も足も出なかった。
完敗だった。
全異能力戦では、有利な筈の木の力に完敗を期した事もある。
だけど水の異能力には勝っている。
その事で何とか保てていた自信も粉々に吹き飛んでしまった。
ここで勝って自信を取り戻したい。
「今なら」木の力にだって負けない。
第四回試験、狙うは優勝のみ。
ここで負ける訳にはいかない。
今回の全異能力戦には「太陽」も参加している。
戦ってみたい。
『私の炎は強い!』
それぞれが、それぞれの思いを胸に試合が始まった。
「太陽」の表情はしっかりと引き攣っている。
自身の試合の様に或いは、それ以上に緊張しているのではないかと言う程に、その表情はぎこちない。
それは、会場全体が持つ雰囲気でもあった。
凄く楽しみだし凄く見たい。
だけど、目を逸らしたくもある様な、そんな気にさせる。
『火憐、大丈夫かな。』
「太陽」の、ふと漏らした小さな心の声に「真依理」は言った。
『有利不利はもちろんあるけど、仮にも火憐君はSランクの異能力者、そんな柔じゃないさ!それに火憐君は、水の異能には念入りに対策をしているだろうからね!
それなりに面白い試合になるんじゃないかな!』
『雫を越えるため・・』
『・・火憐君が雫君に勝つ、と言う事は先ず無いと思うがな。』
『火憐は火で、雫は水だからですか?』
『それもある。が、それだけじゃない。』
『どういう事ですか?』
『私達グレイ・レイスの力も互角と言う訳じゃない。相性抜きに、ハッキリとした力の差と言うものがある。』
『そうなんですか?』
『私、明希正君、香君そして火憐君はSランク。』
『みんなSランクだったんだ!・・それだと相性の問題で、』
『雫君はSSランク。』
皆の真剣な眼差し。
『ランクが全てと言う訳ではないが、雫君はとんでもないバケモノだよ!』
『凄い奴だとは思っていたけど・・そんなにすごかったんだ、雫。』
『それを言うなら太陽君だってなかなかのバケモノだよ!彼と良い試合をしていた!』
『たまたまの、ラッキーですよ。』
『・・雫君は強い。雫君がこの学校に転入して来るまでは私が座っていた、たった一つしかない其の席も、割と簡単に取られてしまったよ!』
「太陽」は今、「真依理」の顔を見るのは良くないと、その様な気がして視線を落とす。
返す言葉も見つからない。
しかし、これは「気まずい」ではない。
これまでの教訓から、次の言葉を大人しく待つ「太陽」。
『たとえラッキーでも結果が出てしまえばそれが全てさ。勝ちは勝ち。負けは、負け。』
響き渡る開始の合図。
それまで散らかりに散らかっていた皆の視線は、一点に集中する。
客席にまで伝わる熱気。
客席の熱気も又、何処かに伝わっている。
『絶対、勝つ。火行・・ーーーーー火炎大突破 !』
『水行、流水突破。』
「火憐」を中心として火が生まれ何にかに燃え移ったかのように独立して「火憐」の周囲を大きく燃えている。
その火は更に激しく燃え盛り、もの凄い勢いで「雫」へと向かって燃え走っている。
「雫」を中心として水が生まれ、それはどんどん膨らんでいく。
更に体積を大きくし浴槽から溢れ出る水の様なそれは波となって「火憐」の技をいとも容易く打ち消した。
しかし「火憐」は怯む事無く技を連発する。
だけど、「火憐」の技は「雫」の技の前に、なす術なく悉く(ことごと)打ち破られてしまう。
「火憐」にとっては厳しい試合になりそう。
『私の炎に技を撃つだけ・・・あんた、真面目にやんなさいよ!本気で来なさい。』
『何か言いなさいよ。』
『火炎牢檻!』
「雫」の周囲を炎が走り、激しく燃え上がる。
轟音と共に火柱を挙げ、火柱から火柱へ炎は燃え移っていく。
『火炎葬!』
更に追い討ちをかけるようにその炎の中で爆炎、火炎の音色、檻の中は見えない。
『流水加速・・ーーーーー流水ノ小太刀。』
燃え盛る炎の中で「雫」は技を使い、半ば強引に煙立つ炎の中から抜け出した。
距離を一気に詰める「雫」。
『火炎ノ大太刀!』
「火憐」の掌の上で、火の玉が燃えている。
その火は蔓をつたう様に燃え盛り、一振り。
大刀と生るその炎を構え、「火憐」は真っ向から「雫」を迎え撃つ。
『流水斬撃突破。』
『火炎斬撃大突破!』
「雫」と「火憐」の技がぶつかる。
火憐」の技は、完全に鎮火していた。
『降参するんだ。僕は友達を痛め付ける趣味はない。』
『・・ざけないでよ。ふざけないでよっ!それで優しくしてるつもり?勝ちたいなら、太陽ともう一度戦いたいならトドメをさしなさい。私は、雫に負けるつもりはない。』
炎が「火憐」を激しく焦がす。
ーーーーーーーーー火炎ノ衣。
『何だそのふざけたワザは・・今すぐ止めるんだ!』
『ふざけてなんかない!』
火炎の中で「火憐」は言う。
「雫」にまで届かない音。
『流水突破。』
『火炎火憐火。』
「火憐」を焦がす焔は強く、大きく燃え上がり「雫」の技を蒸発させた。
『・・話せるか?火憐。』
『焔の化物・・』
『そこまでして勝ちたいか?』
『だけど、僕を脅かす存在にはなりえない。』
『悪いな 、火憐。』
『流水大突破 。』
細く、一筋の煙が上がる。
会場は、黒に溶けゆくかの様に現実を映し出す。
肩から倒れ込む「火憐」。
その場に立ち尽くす「雫」。
生徒会長の声は、とてもよく聞こえた。
『勝者、水嶋雫。』