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World of Gray  作者:
『world of gray』
4/45

『C4』










world of gray 4










『もう一度、雫と戦う事が出来るかも知れない。』


「太陽」は、そう考えるだけで何処かが燃える様であった。

「雫」は「太陽」に言った。


『もう一度、僕と戦う事が出来るかも知れないね!』


「太陽」は、分かり易く驚いた。


『今、そう思ってただろ?』


『雫は心が読めるのか?』


『そんなわけないだろ、僕も同じ事を考えていただけさ!』


『そっか!』


『あぁ!』


「火憐」は言った。


『あのぉ〜、私の事忘れてない?』


『忘れてないよ!昨日の試合、凄かった!戦う事になったら全力で行く!』


『油断してると、派手に火傷しちゃうわよ。』


「雫」は言った。


『そうだね!』


変な空気、妙な緊張感がその場に吹けた。


『それ、本当に思ってる?』


『ああ、もちろん。』


『火憐は火の異能で、雫は水だよね?』


『言いたい事は分かる。確かに僕は有利、だけど手加減はしない。火憐は強い。火傷しない様に火の元注意、しっかり消火させてもらうよ。』


「雫」の態度からは、分かり易く余裕が見て取れた。

勿論、この先の事も容易に見て取れる。

いつも通りの朝、安心安心。




『只今より能力試験を始めます。本日は総合戦ーーーーー』




異能力試験二日目、全属性戦が始まった。

全属性戦は、それぞれの属性で優勝の一席を勝ち取った者達が競い、正真正銘のNo.1を決める試合。

つまり参加出来るのは五人だけ、と言う事になる。が、今回は六人居る。

なので、今までとは少し違った形となる。

今回のトーナメント表は・・


Aブロック「火憐」と「雫」

Bブロック「真依理」と「明希正」

Cブロック「香」と「太陽」


この試合も例には漏れず、一位しか決めない。

そしてこの試験は、優勝したとて特に何の特典も無い。

強いて言うなれば「総合成績一位」と言う称号を得る、くらいであろうか。


『昨日の疲れは完全に取れた、今日こそ・・』


「太陽」は、何時に無く真剣な面持ちをしている。

その「太陽」の熱い決心にも負けない思いを、皆が持っている。

「真依理」も又、そのうちの一人。


『雫君、太陽君・・私の知る限りでは唯一の転入生。転入して来て初めての試合でこれまでの試合を大きく変えた。

水の異能でぶっちぎりの力を見せた雫君と、これまで確認されていない誰も見た事の無い力を見せた太陽君。

こんな二人が同じ時期に転入して来るなんてね。いやぁ、楽しみだな・・今回は、負けないよ。』


一戦目は「火憐」対「雫」。

「雫」は静かに席を立ち、フィールドへと向かって歩いて行った。


「火憐」は、過去第一回二回共に、全能力戦に参加している。

優勝こそした事は無かったが、水の異能力者相手には勝ち越していた。

不利である筈の水の力に。

この事が「火憐」自身の自信にもなっていたし、誇りだった。

だけど第三回試験、転校してきたばかりの生徒に負けてしまった。

その生徒こそ『水嶋雫』水の異能力者。

手も足も出なかった。

完敗だった。

全異能力戦では、有利な筈の木の力に完敗を期した事もある。

だけど水の異能力には勝っている。

その事で何とか保てていた自信も粉々に吹き飛んでしまった。

ここで勝って自信を取り戻したい。

「今なら」木の力にだって負けない。

第四回試験、狙うは優勝のみ。

ここで負ける訳にはいかない。

今回の全異能力戦には「太陽」も参加している。

戦ってみたい。




『私の炎は強い!』




それぞれが、それぞれの思いを胸に試合が始まった。

「太陽」の表情はしっかりと引き攣っている。

自身の試合の様に或いは、それ以上に緊張しているのではないかと言う程に、その表情はぎこちない。

それは、会場全体が持つ雰囲気でもあった。

凄く楽しみだし凄く見たい。

だけど、目を逸らしたくもある様な、そんな気にさせる。


『火憐、大丈夫かな。』


「太陽」の、ふと漏らした小さな心の声に「真依理」は言った。


『有利不利はもちろんあるけど、仮にも火憐君はSランクの異能力者、そんな柔じゃないさ!それに火憐君は、水の異能には念入りに対策をしているだろうからね!

それなりに面白い試合になるんじゃないかな!』


『雫を越えるため・・』


『・・火憐君が雫君に勝つ、と言う事は先ず無いと思うがな。』


『火憐は火で、雫は水だからですか?』


『それもある。が、それだけじゃない。』


『どういう事ですか?』


『私達グレイ・レイスの力も互角と言う訳じゃない。相性抜きに、ハッキリとした力の差と言うものがある。』


『そうなんですか?』


『私、明希正君、香君そして火憐君はSランク。』


『みんなSランクだったんだ!・・それだと相性の問題で、』


『雫君はSSランク。』


皆の真剣な眼差し。


『ランクが全てと言う訳ではないが、雫君はとんでもないバケモノだよ!』


『凄い奴だとは思っていたけど・・そんなにすごかったんだ、雫。』


『それを言うなら太陽君だってなかなかのバケモノだよ!彼と良い試合をしていた!』


『たまたまの、ラッキーですよ。』


『・・雫君は強い。雫君がこの学校に転入して来るまでは私が座っていた、たった一つしかない其の席も、割と簡単に取られてしまったよ!』


「太陽」は今、「真依理」の顔を見るのは良くないと、その様な気がして視線を落とす。

返す言葉も見つからない。

しかし、これは「気まずい」ではない。

これまでの教訓から、次の言葉を大人しく待つ「太陽」。


『たとえラッキーでも結果が出てしまえばそれが全てさ。勝ちは勝ち。負けは、負け。』


響き渡る開始の合図。

それまで散らかりに散らかっていた皆の視線は、一点に集中する。

客席にまで伝わる熱気。

客席の熱気も又、何処かに伝わっている。


『絶対、勝つ。火行・・ーーーーー火炎大突破 !』


『水行、流水突破。』


「火憐」を中心として火が生まれ何にかに燃え移ったかのように独立して「火憐」の周囲を大きく燃えている。

その火は更に激しく燃え盛り、もの凄い勢いで「雫」へと向かって燃え走っている。


「雫」を中心として水が生まれ、それはどんどん膨らんでいく。

更に体積を大きくし浴槽から溢れ出る水の様なそれは波となって「火憐」の技をいとも容易く打ち消した。

しかし「火憐」は怯む事無く技を連発する。

だけど、「火憐」の技は「雫」の技の前に、なす術なく悉く(ことごと)打ち破られてしまう。

「火憐」にとっては厳しい試合になりそう。




『私の炎に技を撃つだけ・・・あんた、真面目にやんなさいよ!本気で来なさい。』




『何か言いなさいよ。』




『火炎牢檻!』




「雫」の周囲を炎が走り、激しく燃え上がる。

轟音と共に火柱を挙げ、火柱から火柱へ炎は燃え移っていく。


『火炎葬!』


更に追い討ちをかけるようにその炎の中で爆炎、火炎の音色、檻の中は見えない。


『流水加速・・ーーーーー流水ノ小太刀。』


燃え盛る炎の中で「雫」は技を使い、半ば強引に煙立つ炎の中から抜け出した。

距離を一気に詰める「雫」。


『火炎ノ大太刀!』


「火憐」の掌の上で、火の玉が燃えている。

その火は蔓をつたう様に燃え盛り、一振り。

大刀と生るその炎を構え、「火憐」は真っ向から「雫」を迎え撃つ。


『流水斬撃突破。』


『火炎斬撃大突破!』


「雫」と「火憐」の技がぶつかる。

火憐」の技は、完全に鎮火していた。


『降参するんだ。僕は友達を痛め付ける趣味はない。』


『・・ざけないでよ。ふざけないでよっ!それで優しくしてるつもり?勝ちたいなら、太陽ともう一度戦いたいならトドメをさしなさい。私は、雫に負けるつもりはない。』


炎が「火憐」を激しく焦がす。




ーーーーーーーーー火炎ノ衣。




『何だそのふざけたワザは・・今すぐ止めるんだ!』


『ふざけてなんかない!』


火炎の中で「火憐」は言う。

「雫」にまで届かない音。


『流水突破。』


『火炎火憐火。』


「火憐」を焦がす焔は強く、大きく燃え上がり「雫」の技を蒸発させた。




『・・話せるか?火憐。』




『焔の化物・・』




『そこまでして勝ちたいか?』




『だけど、僕を脅かす存在にはなりえない。』




『悪いな 、火憐。』




『流水大突破 。』




細く、一筋の煙が上がる。

会場は、黒に溶けゆくかの様に現実を映し出す。

肩から倒れ込む「火憐」。

その場に立ち尽くす「雫」。

生徒会長の声は、とてもよく聞こえた。


『勝者、水嶋雫。』










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