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World of Gray  作者:
『world of gray』
3/45

『B3』










world of gray 3










『おはよう!』


「太陽」は、そこそこ元気よく挨拶をし教室へと入る。

「雫」と「火憐」は、豆鉄砲でも食ったかの様な顔をしていた。

今日はいつもと比べて、かなり余裕のある登校。

いつも冷静な「雫」だが、こればっかりは流石に取り乱している様にも見えた。

少し心外だが、かなり得をした様な気分にもなった。


『どうした?そんな顔して?』


『あんた、ほんとに太陽?』


『偽物に見える?』


『見える!』


『んな、馬鹿なっ!僕から言わせれば火憐達の方がよっぽど偽物っぽい顔してるけどね!鳩じゃあるまいし・・ーーーーー』


「火憐」は「太陽」の首に腕を回し、締めた。

変な音が聞こえた様な気もするが、まぁ冗談で済むレベルであろう。

クラスの皆の笑い声、それらに相反し真面目な顔をする「雫」。


『誰の顔が鳩だあ?』


『ごめん、ごめん、自身の日頃の行いだと理解しております。』


「火憐」と「太陽」の此の遣り取りを、冷静な眼差しで眺めていた「雫」の表情が綻ぶ。


『まぁ、いい事じゃないか。朝に余裕が持てるのわ。』


『そうだな!』


『すごい汗だね。』


『・・今日は異能力試験があるから、少し運動して来たんだ!』


『なるほどね。』







『信じてないだろ?』


『信じてるよ!』


そう言った「雫」の瞳は、微生物をも肉眼で数えられるのではないかと、そう感じさせる瞳をしていた。


話は変わり、本日は異能力試験が行われる日。

異能力試験は三ヶ月に一回、異能力試験の試合がある日の授業時間は、全て試合時間に使われる。

試合は属性ごとに行われるものと、全属性で行われるもの二種目を二日に分けて行う。

属性戦で優勝した生徒を『グレイ・レイス』と呼び、倶楽部へと迎え入れられる。

そして、グレイ・レイスのみが、メンバー同士で連絡の取り合える「携帯」なるものを渡される。

「太陽」は、渡されていない。

優勝した訳では無いからだ。




『そろそろ行くか。』




学舎の側に建つ競技場。

その会場には職員、生徒、皆が集まっていた。

広大なフィールドを囲う様に聳え立つ六つの外壁、十段程の客席があり、その頂点には部屋が設置されている。

その部屋はVIPルームと呼ばれ、主に教員が使う部屋である。

が、VIPルームの内二つは、グレイスのメンバーが控え室として使っている。

それが故に、メンバーで無い生徒からするとVIPルームなのである。




『只今より能力試験を始めます、本日は属性戦。』




「生徒会長」の声が、スピーカーを通して響き渡っている。

いよいよ始まる、そう考えると押さられない武者震い。

今回の試合は「火」「土」「金」「水」「木」の順に行われる。

「皆んな」の中で、一番初めに出番が来るのは「火憐」だ。

「太陽」は前回水組に入って戦った、今回も水組。


『リベンジ出来る。』


「生徒会長」の掛け声と共に始まる異能力試験、その試合。

「火憐」は、着々と勝ち進んで行く。

そして決勝戦。

「火憐」は、フィールドへと向かい歩いていく。




『属性戦火組、決勝戦、試合開始。』




対戦相手は『赤羽朱夏』「火憐」の弟だ。

学年は「火憐」の一つ上。

生まれは「火憐」の方が早いが、入学は「朱夏」の方が早かったと言う事である。

「朱夏」からすれば後輩には負けられないだろう。

「火憐」からすれば、弟には負けられない。

意地と意地のぶつかり合い。

試合は、「火憐」の方が一枚も二枚も上手に見える内容だった。

属性戦火組は「火憐」の優勝で幕を閉じた。




祝賀の言葉を受ける「火憐」。


『ありがとう!』


『さすが火憐!』


『私がこんな所で終わる訳ないでしょ!でもあいつ、かなり強くなってた。お姉ちゃんとしては、嬉しい所だけど!』


『でも、まだ余力を感じたけどな。』


『私に勝つには、まだ十年早いわね!』


『すっげぇドヤ顔。』


勝利の余韻と、なんて事のない会話がその場の空気を朗らかにしていた。


『先輩達の試合が始まる。』


「雫」のその一言で、その場の空気は再び緊張感を持つ。

「土組」「金組」と試合は進み、それぞれの組みで優勝者が決まった。

そして水組、順調に試合を勝ち進んで行く「太陽」。

其れは「雫」も又そうである。

そして決勝戦、フィールドに立つのは「太陽」と「雫」。




『太陽と戦うの、楽しみにしてた。』


『僕もだ。』


『太陽の力はこの間、しっかりと見せてもらったからね。』


『それは僕も同じだ。』


『そうだね。でも、この間の僕と同じだと思わない方がいいよ。』


『ああ、肝に銘じておくよ。』


『でもそれは、太陽も同じ事なんだろうね。』


『・・・』


『今まで誰も見たことのない新しい力。でも、一度見ればそれはもう新しい力じゃない・・太陽の異能は僕達の異能とは決定的に違うところがある。

それは、扱うエネルギーが肉眼で見えないと言うところ。僕達の異能は表に出した時点で火なり水なり五行に属する何れかのエネルギーとして確認する事が出来る。

だけど太陽の異能は見えない、だから何処の枠にも納められない、新しい力。目で見えていないだけで実は五行に属する何れかの力を扱っている、とは考え難いしね。

目で見えないエネルギーを扱う異能とか正直最強だと思ったけど太陽はそのエネルギーで攻めると言う事をしない。

必ずそのエネルギーを何かに変えて戦う。この事から太陽の異能は目で見えないエネルギーを物に変える力だと分かる。

物って言い方をすると凄く幅が広い。物だったら何にでも変えられるのか、それは分からない。

だけど太陽が扱う異能、目で見ることの出来ないエネルギーは、おそらく空気。つまり太陽の異能は空気の変換・・名推理だったかな?』


『そう、だね。僕にもよく分からない力だけど、そう思う・・・はは。』


『何か面白い事でもあった?』


『いやあ、よく喋るなと思ってさ。』


『喋って不安を紛らわしてるのさ。』


『よく言うよ。』


『そうだね。これから戦うってのに。』







『属性戦水組、試合開始。』







「太陽」は、強めに拳を握る。

今から「雫」と戦う、そう考えるだけで心臓の鼓動が高鳴る様だった。

数秒の沈黙の後、「雫」は静かに言った。


『水行・・ーーーーー』


「雫」を中心として水が生まれ、それはどんどん膨らんで行く。

何処までも体積を大きくし、津波となって「太陽」に襲い掛かる。

眼前の景色は波に攫われた。

客席からは何も分からない。

暫くすると波は落ち着き、退いていく。

フィールドに目をやると、「太陽」は壁の様な物に囲われていて、試合開始時の位置から全く動いていなかった。

「雫」は、すぐさま次の技を繰り出す。


『流水一点突破。』


再び押し寄せる荒波は一点に纏まり、「太陽」を守る壁ごと押し潰そうとしている。

だが、「太陽」の護りは砕けない。

「雫」は追い討ちをかける様に更に攻める。


『流水超一点突破。』


それは鋭く、より鋭く、まるでレーザーの様。

護りが凹み、ヒビが入る。

一旦身を引く「太陽」。


『身体強化、高速の身体。』


自身を守る壁を捨て、「雫」の攻撃を間一髪の所で躱わす。

「太陽」の護りの技『空の城壁』は破壊され、フィールドは土煙に覆われていた。


「雫」も又、高鳴る心臓の鼓動を抑えられずに居る様だった。

呼吸を整える「太陽」。

土煙が静まるや否や「雫」の次の攻撃が向かい来る。

護りの技は間に合いそうにない。

高速で動き続ける事も出来ない。


『身体強化、跳躍。』


地を蹴り空を蹴り「太陽」は空高く飛んだ。


『もらった。』


その姿を見上げ「雫」は、勝ちを感じてた。

空中では自由に動けないだろうと、そう考えた「雫」は勝利を確信していた。

技を撃つ「雫」、しかし手応えが無い。

よく見ると「雫」の技は弾かれている。

「太陽」の護りの技「空の城壁」。

空中に飛ぶ事で、僅かな時間を稼ぎ護りを間に合わせた。


『あの技、空中でも使えたのか。』


「太陽」がよく自身を守る盾として使っている技、盾と言っても見た目はお城のそれである。

その見た目から、地上でしか使えない技だと思い込んでいた。

「太陽」は自身の護りの技を蹴り、素早く地に戻る。

城は空中分解、降り注ぐ雨。


『流水ノ小太刀、・・流水加速。』

『空ノ剣、・・身体強化、剛腕、高速の身体。』


「雫」の手元に水が集まる、其れは滝を散らせるかの如く激流の後、緩やかな流水を纏う刀となる。

フィールドを濡らす水が「雫」の動きをサポートするか様に波打ち、その波は高速で「雫」を押し出す。

「太陽」の手元はキラキラと輝き、粉塵を散らせる、その手には剣が握られていた。

少し屈むとゆっくり空気を吸い、息を止め、地を蹴る、それと同時に一気に息を吐く。


『高速移動。』


目にも止まらぬ速さで距離を詰める二人。

フィールドには優しい風が吹いた。


『流水斬撃大突破。』

『疾風斬撃大突破。』


技と技がぶつかる。

一瞬、視界が真っ白になったかと思うと強烈な風が吹き荒れる、そして轟音。

その衝撃波に「太陽」と「雫」は吹き飛ばされた。

「雫」は受け身を取り、すぐさま技を繰り出す。


『流水大突破。』


「太陽」もなんとか受け身を取り「雫」の技を躱わす。

そして、再び一気に距離を詰め「雫」の後ろを取る。


『僕の後ろを取る気だね、なら、流水城壁ーーーー』


「太陽」は、気にせず高速で突っ込み後ろを取る。

振り下ろされる「太陽」の剣、その攻撃は「雫」には届かなかった。

「太陽」の剣は、「雫」の護りの技に阻まれ(はばまれ)弾かれている。

スピードを上げれば上げるだけ、その分視界が悪くなってしまう。

「雫」が護りの技を使っている事、そしてその狙いに気付けなかった。

攻撃を弾かれてしまった「太陽」は一瞬、隙が出来る。

「雫」は、その隙を見逃さない。


『流水捕縛牢。』


足元の水がシャボン玉のように膨れ上がり、そのシャボン玉のような水の中に囚われてしまう「太陽」。


『息が、できない。』


それを考える間も無く次の攻撃が来る。


『流水大突破。』


「太陽」は、力を振り絞り技を使う。


『疾風斬撃大突破。』


「太陽」は、自身を捉えていた水もろとも「雫」を吹き飛ばした。







『ナンバーワンと、オンリーワンの戦い・・』


『太陽、雫・・』


「真依理」「明希正」「香」そして「火憐」も、その戦いを真剣な眼差しで観戦していた。

飲む息は大きく、呼吸を忘れてしまう程に。







「雫」は、ゆっくりと起き上がりフィールドの中心へと歩き出す。

「太陽」も又、そちらを向いて歩き出す。

中心まで来ると二人は足を止め目配せる。

二人にしか分からない言葉の要らない会話。

内容どころか、話していた事自体分からないだろう。

もしかすると、何も話なんかしていないのかも知れないのだから。

最中さなか、「太陽」は重たい口を開く。


『さっきの護りの技、あれは少し驚いたよ。』


『きっかけをくれたのは太陽だよ。太陽の技を参考にさせてもらった。』


『・・・』


『お互い そんなに体力は残ってないだろう。』


『あぁ、剣を振るのがギリだな。』


『勝敗は、剣の腕で決まるね。』


『そうだな。』


普段はあまり出さない大きな声で「太陽」は「雫」に、「雫」は「太陽」に突っ込んで行った。

刀剣の打ち合いが続く。

二人とも意識は朦朧としている様に思える。

それでも刀剣を振るう二人。

だんだん打ち合いに着いていけなくなっていく「太陽」、「雫」はこのタイミングでスピードを上げた。

「雫」から繰り出される強烈な一閃に、「太陽」は剣を弾き飛ばされてしまった。


『早く剣を拾って、雫の次の攻撃に備えなければ・・』


「雫」の次の攻撃が決まれば「太陽」の負けは必至。


『早く剣を拾わなければ・・・』


『僕の勝ちだ!!!』


『僕はまた、負けるのか・・ーーーー』


「太陽」が負けを感じたその瞬間、何故か「雫」の刀が「太陽」にトドメを指す一歩手前で消滅した。

そしてほぼ同時に「太陽」の剣も消えた。


『なに!?僕の刀が、消えていく・・なんだ、何故だ、太陽の新しい技、なのか・・』







「太陽」と「雫」の試合は終わった。

結果は引き分けだった。







『さっきの攻撃、決まっていれば僕は勝っていた。だけど何故か、僕の技が消えた・・あれは一体なんだったんだ。』


『さあねぇ〜! 疲れて能力解いちゃったんじゃないの〜?』


『解いてない。』


『じゃああれだ!技を維持するだけの力が残って無かった!とか?』


『・・・』


『僕はラッキーだったな・・でも、次はちゃんと勝つ!』


『・・うん!でも、そう簡単には負けないよ!』


「真依理」は言った。


『2人ともナイスファイト!お疲れ様!』


「太陽」と「雫」は声を揃えて言った。


『ありがとうございます。』


『さてさてぇ〜次は木組の試合だねぇ〜楽しみだ!・・ とは言っても、今回も生徒会長は出場しないみたいだが。』


「香」は視線を落とす。

残念そうな顔をする「雫」に「真依理」は問う。


『どうかしたかい?』


『見てみたかった・・いや、戦ってみたかったです。』


『そうか、それは残念だったな!でもいつか、機会があるといいな!』


『はい。』




異能力試験一日目、属性戦が終了した。

結果は、


火組一位「赤羽火憐」

土組一位「土宮真依理」

金組一位「白金明希正」

水組は「雫」と「太陽」の同率一位、二人して次のステージへと進む事が出来た。

最後に木組一位「木崎香」


現グレイスのメンバーが一位を独占している。

これで本日の授業は終わり、明日は全属性戦となる。


『明日も頑張るぞ。』










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