『E3♭』
world of light12
「菫」と合流した「銀河」は、現状の報告を受ける。
『ありがとうございます。皆んなも、もう終わる頃かな。』
其処へ「彩」が合流し、最後に「雫」が合流した。
「銀河」は彼、彼女等より手渡されたそれらに、一通り目を通す。
「雫」は言った。
『太陽と何かあったんですか?』
『何かって?』
『いや、分からないですけど・・異常な力の衝突を感じましたから。』
『ああ、ちょっと遊んでただけさ。』
『遊び、ですか・・でも太陽は、かなりグッタリしている様ですが・・』
『見えているのかい?』
『どうなんでしょう。身体の芯が震える様な戦いの気配を感じて、楽しそうな物を楽しいと言う様に、見たいものが見えていると、そう思っているだけかも知れません。』
『見たい物が見える、それは理想的だ。で、見たい物は見えたのかい?』
『分かりません。でも、最後の方は少しだけ、見えた様な気がしました。』
『其れは瞳に映る錯覚なんかじゃない。太陽なら、少し疲れて休んでいるだけさ。』
『そうですか。・・同じ様な力を持っていても、やっぱり僕とは別物なんだなって感じました。少し、怖いくらいです。』
『そうだね。別物。だけど大丈夫。見る人から見れば雫君も十分に別物。別物と感じている人に君は、その別物を持って恐怖を押し付けるかい?』
『それは無いですね。何の意味も価値も感じませんし何より、性に合いませんから。』
『面白いね。』
『面白いですか?』
『ああ、面白い。雫君くらいの力を持った者の多くは、そうはならない。だからこそ良い眼を養えている。
見たいものを見る目は、見るべきものを見る目の先にあるからね。まぁでも、深く考える必要はない。気楽にやればいい。』
『任せてください。気楽に振る舞うのは得意です。』
『真実が見えるのか、見た物が真実になるのか、全てが見える者は、全てに触れる者。』
「雫」との会話が終わったのを確認して、「彩」は「銀河」に声を掛ける。
『一つ良いですか?』
『なんだい?』
『この都に暮らす者達の中に五人、周りと比べて明らかに強い熱を持っている者達がいました。この者達は銀河さんの知人か何かですか?』
「銀河」は「彩」の記した地図の上で、その者達の所在地と名前を確認する。
『会った事はあるね。特に知り合いと言う訳じゃないけどーーー確かに、この世界において少し目立つ力だったな。』
『把握されているのであれば、こちらの話は大丈夫ですね。今言った五人に加えて後もう一人、気になる子がいたんですけど。』
再び地図に目をやる。
その者は「銀河」の全く知らない者だった。
「彩」の話では、その者しか持たない独特な雰囲気があると言う話だった。
「銀河」は、地図に記された「その少年」が暮らす場所へと向かう。
「菫」「彩」「雫」の三人は、木崎宅へと向かった。
そこは、都南部に位置する地。
幾つかの家が隣接して建ち並んでいる所を見ると、横の付き合いが盛んで、温かみのある印象。
「銀河」は「その少年」の前に立つ。
温度は平均的だが、エネルギー量が少ないと言う訳では無い。
今後に大きな伸びしろを感じさせる。
そして何より、「その少年」の放つ独特な雰囲気。
『マルチアビリティ。』
世界は再び針を刻む。
『この子は二つか。一つの身体に二つの力、言うなればデュアルアビリティ・・ーーーー』
「銀河」は、独り言の様にブツブツと何かを言っている。
誰に向けられた言葉でも無いので、正真正銘の独り言なのだけれど、其処に居るのは「銀河」だけじゃない。
知らない人が知らない内に目の前に立ち、ブツブツと何かを言っている。
「少年」は発狂した。
『ぃやあ、驚かせてすまない。』
「銀河」は、先ず謝った。
そして、「少年」と少し雑談をした。何のたわいも無い話。
良いお家だとか、外の空気が美味いだとか。
フランクに接して来る「その者」に「少年」は、次第に落ち着きを取り戻していく。
『お兄さんは、なにものなんですか?』
『僕はね、そうだなぁーーー学校の先生、になる者かな。』
『がっこう?せんせい?』
『もうすぐこの都に学舎が出来るんだ。君達の持つ力について学べる所。』
『お兄さんは、この力のことを知ってるんですか?』
『ああ、何でも知ってるよ。』
『なんでも?すごい!』
『まあね!』
『そのがっこうができたら、僕も行っていい?』
『もちろん!準備が出来たらまた此処に来るよ!ちょっとだけ待っててくれるかな?』
『もちろん!』
「銀河」は「少年」に背を向け、その場を去ろうとした其の時、思い出したかの様に其の「少年」に名を尋ねた。
「少年」は答える。
『みか。ありあ、みか。』
『みか、良い名前だね。それと、こう言う時は「人に名を尋ねるのなら、先ずは自分から名乗れ」と言うものなんだよ。』
『そうなんですか・・じゃあ、名乗ってください。』
『僕は、天ノ銀河だよ。よろしくね。』
「銀河」は「みか」に手を振り、その場を後にした。
「みか」は、去って行く「お兄さん」の背中に手を振り続けた。
『彼が、亞里亞実果。一緒に暮らす二人も、面白い子達なのかな。』
その場に一人残る「実果」の元に現れた「少年」と「少女」。
「少年」は言った。
『なにをやっているんだ?』
『ここにさっきまでお兄さんがいたんだよ!僕たちの力について何でも知ってるお兄さんが!』
『何でも・・そんなヤツ、居る筈ないだろ。居たら今、俺たちはこうじゃない。』
『だけど、それには何か、事情があったのかも・・』
『どんな事情だ、それ。』
『・・・・』
『この世界にいるのは弱虫と害虫だけだ。事情なんかありはしない。汲んでやる必要もない。』
「少女」は言った。
『仲良く、しよ。』
『ああ、すまない。別に喧嘩をしていた訳じゃないんだ。』
『うん、この話はもうやめよう。』
『私たちは、仲良くしないと、だめ。』
ーーーーーーーーーーーーー
「銀河」は「菫」「彩」「雫」と合流し、それぞれが書き記した地図を合わせる。
ここに、この世界を記した地図が完成した。
『ありがとうございました。皆さんのお陰で早く完成させる事が出来ました。』
『いえいえ、何よりです。』
話題は「銀河」の見てきた「少年」の話へと流れた。
「彩」は言う。
『その子、強くなりますか?』
『強くなるね。』
『そうですか・・』
『強くなられると困る?』
『困りはしません。ただ、今の自分がどのくらいの力を持っていて何が出来るのか、それを知りたくはあります。
以前の私に何が出来て、以後の私には何が出来ないのか、それは分かりませんが、記憶を無くす以前の私と比べ、今の私は弱い。これは分かります。
この先もこんな事が続いて、どんどん出来る事が少なくなっていく、そう考えると少し怖い。
何も出来る事が無くなって、ただ其処に存在していると言う事さえも出来ない・・そんな自分になってしまうかも知れない。
そう言った意味では、弱くなると言う事に、怯えを感じているのかも知れません。
だからこそ、強くなりたいと思うのかも知れません。
でも、強くなるってよく分からないですよね。』
静寂。「雫」は言った。
『彩さんって、実はよく話す方だったんですね。勝手にお喋りがあまり好きじゃない方だと思っていました。』
『お喋りは余り好きではありません。でも、雫君も気になるんでしょ?・・すいません、馴れ馴れしかったですかね、雫君なんて。』
『いえ、何も問題はありません。それに僕も、丁度その事を考えていた所だったので、聞いてくれて助かりました。』
「銀河」は言った。
『君達は現状、この世界において一番強い。一番下も分かっている。
力を持つ者は皆んな、今自分はどの位の力を持っているのか、それを気にするだろうと思ってね、一目で分かる能力者としてのランク表を作っておいた。』
そう言うと「銀河」は紙切れを一枚、机の上に置いた。
『64〜66、Cランク』
『67〜69、CCランク』
『70〜72、CCCランク』
『73〜75、Bランク』
『76〜78、BBランク』
『79〜81、BBBランク』
『82〜84、Aランク』
『85〜87、AAランク』
『88〜90、AAAランク』
『91〜93、Sランク』
『94〜96、SSランク』
『97〜99、SSSランク』
『僕が作った、この世界の能力者が持つ力の優劣を表す表だ。ここで言う力は単なる熱、その温度だけを見たものになる。
その者が持つポテンシャル、エネルギーの量などは加味していない。
これは、勝ち負けを表す物では無い。ただ、自分が今どの位置に居るのかを知る為だけの物だ。
力は、付ければ付けるだけ力に敏感になれる。強ければ強いだけ強いに敏感に、弱ければ弱いだけ弱いに敏感になる。
これは、これから始まる学舎に通う生徒の振り分け、指導内容等に使う。
Cランク代の生徒はB舎(仮)に通ってもらい、Bランクより上の生徒にはA舎(仮)に通ってもらう事にする。」
「彩」は言った。
『Bランク代の人がAランク代の人と一緒と言うのは・・』
『言いたい事は分かる。だけど、Bランク代からSランク代の生徒全員を合わせても、Cランク代の生徒の方が圧倒的に多い。』
『ただ単にバランスが悪い、と。』
『そんなに沢山の学舎は建てていられないからね。って言うのは冗談で、この世界の能力に目覚めていない者達の平均体温は46度程度。
50度を超えると異能の物を感じ取れる様になり、60度を超えると異能の物を見る事が出来る。70度を変えた辺りから、異能を起こす事が出来る様になる。
ここから先は、2度上がるだけでも随分と力に変わりが出てくる。つまりCランク代の者達は、それほど能力者と言う訳でもない。
だからこそ、今後の伸びしろと言う意味では一番なんだ。ここに位置する生徒達は僕が見る。A舎(仮)を菫さんに、勿論僕も時折顔を出します。』
『分かりました。』
『だけど、Bランクの生徒だって対して強い力が使える訳じゃ・・』
『力は力だ。無能力者からすれば、Cランクの者達であっても十分に異能の者。でも、何も心配はしていない。
彩さんの持つ熱量は此の世界で一番上のランク、SSランクだ。
SSランクは現状二人しかいない。Sランクもほんの数人だけ。頑張ってもどうにもならない力の差が直ぐ側にある、と言う事にも意味はある。
君達の力を見て心が折れたのならそれも良し。皆が強くなっても弱くなっても、暴れる者が現れたとしても、何が起きたって何の心配も無い。
本当は君もそう思ってるんだろ?だからこそBランク代とAランク代って言い方をしたんじゃないのか?Sランク代の自分が居ればってね。』
『そこまでは・・でも、やっぱり私はSランク代ーーーーーそしてやっぱり、もう一人のSSランクは雫君。』
先程から、静かに「銀河」と「彩」の話を聞いていた「雫」が、薄く口を開いた。
『この表はSSSランクまであります。この世界の人間で一番上のランクが僕達のSSランク、誰も居ないランクを表に入れてるのはどう言う事なんですか?』
『今は居ないけど、ちょっと前に居たんだよ。今は会えないけど、また何かをきっかけに会えるかも知れないから一応ね。』
『そう、ですか。・・・太陽は、どうなんですか?』
『太陽はこのランク表には入らないね。雫君自身が言っていた事じゃないか?『僕達とは別物』って。太陽はランク表で言うとSSSランクよりもずっと上に居る。
僕達の型は、熱くなると言う事に限界がある。この限界が僕達と君達とでは大きく差がある。
君達の型はSSSランクの99度、これより上にはいけない。これ以上の温度を仮に出せたとしても、型の方が保たないだろう。』
『型、とは何ですか?』
『人が此処に存在する為に必要な空間の空き、って所かな。体は型に収まるエネルギーが見せる物、力はエネルギーが動く事で生じる熱、技は力の使い方。
エネルギーは量も動も、良い方向にも悪い方向にも変わる。技も同様に、好きな様に工夫すれば良い。でも型だけはどうにもならない。
強くなりたいからと言って、無理をしてはいけないよ。』
『身体の作り、構造から全く違うと言う事ですか。見た感じは同じ生き物だけど、正真正銘僕達とは別の生き物なんですね。』
「彩」は言った。
『銀河さんと太陽君の戦いを見れば納得出来る事です。
ところで、銀河さんは先程、君達はこの世界で一番強いと言われましたよね?君達とは雫君と私の事、一番強いが二人居るって何か変ですよね?』
「雫」は言った。
『全くもってその通りです。僕もずっとそれが気になってた。僕と彩さん、どっちが強いのかってね。』
『熱量は互角。この表は勝ち負けがハッキリする強さを表した表では無いのなら、同等の力を持つ者達が戦えばどうなるのか、それが知りたい。』
「銀河」は言った。
『じゃあ、ここから比較的近くにあるB舎(仮)の競技場にでも行くか。君達の力を考えると、そこら辺の広場じゃ間に合わないだろうし。
かと言ってA舎(仮)の競技場まではそこそこ距離がある、そこまで待てそうにないもんね。
僕が見てるから、辺りを気にせず思いっきりやってくれても良いよ。但し、何か問題があれば止めに入る可能性も、無きにしも非ず、とだけは理解しておいて。』




