『D3』
world of light11
「雫」「菫」「彩」は時間を忘れ、作業を進めていた。
荒野の方から感じる強い力。
「銀河」と「太陽」が戦っている事は明白。
「雫」は、今すぐにでも駆け行きたい気持ちを抑え、都に暮らす人々の住まい処を見て回る。
三人で回っているとは言え、都は広い。
そう早くは終わらない。
場面は戻り、荒野に建つ競技場、そのフィールド。
『本当に、銀河はめちゃくちゃだな。一体何個力持ってんだ。』
『お喋りをするくらいの余裕はあるんだね、良かった。』
『バカにすんじゃねえ。』
『いやいや、バカになんてしてないさ。じゃあ、その疑問に答えよう。俺の持っている能力は一つだけだよ。多くの者達と同じ様にね。ただ、その一つの力で沢山の事が出来る。』
『そんな力を持てる時点でめちゃくちゃだろ。』
『世界は理不尽に出来ている。力の有る者は、とことん力を持っている。逆に、力の無い者はとことん力を持たない。自分の存在さえも肯定出来ない程に。
それでも自分は此処に居る、此処に居続けたいと強く願う者には力が宿る。その力の強さは、初めから強かった者が持つ力の比じゃない。』
『強いやつがもっと強くなれば結局は同じ事だろ。強いやつが成長しない、それ以上強くならない、なんて事は無い。
弱きを知るからこその強さなんて、結局は真に強い者には敵わない。』
『可能性と言う意味ではどちらも変わらない。力を持つ事でダメになる者も沢山居る。これに強い弱いは余り関係が無い。
だけど、生まれながらにして強い者は多くの場合、自分が強いと言う事を知っている。
自分が強いと知った瞬間に人は弱くなる。それ以上強くなれない、強くなろうとしない。
成長の兆しを自ら閉ざす。負けを知らない者は、その期に気付けない。強さと言う弱さ。
自分は弱いと知りながらも強くあろうとする人は、実際に強くなくても、強いだけじゃ手に入らない強さを得る事が出来る。
自分は、強くは無いと言う事に気付く事、それを知り受け止める事、これは結構難しい事なんだ。
自分自身を弱いなんて思う必要は何処にも無いが、弱さも又、強さと言う事さ。』
『元々強い者も、自分より強い者に出会い敗北を知れば、もっと強くなれる。
元々何の力も持っていなかった者が力を持てば、その力に自惚れる。
やっぱり俺は強いんだとか、俺は強くなったんだとか、そう思い始めれば人は自分より弱い者を物扱いする。』
『大切なのは、強くあろうとする事。実際の所はどちらでも良いのさ。強かろうが弱かろうが、其処に正しささえあれば其れで良い。
強くなったと勘違いして力をひけらかすのは、其処に正しさが無いからだ。強くなっている様で、本当の所は弱くなっていると言う事。
強くあろうと思い続けられないのは、正しさを失ったから。
弱くなりたくなければ、力と一緒に自分なりの正義を持つ事。そして、一度それを持ったのなら、持ち替える事はあっても手放してはいけない。』
「太陽」は、自身の掌に灯る力を握り締める。
続けて「銀河」は言った。
『負けたくらいで成長出来る者は、初めから大きな力を持っていた者とは言わない。俺の意見としてはね。運良く、自分より弱い者達ばかりに出会って来たってだけだ。』
『それだと、元から強い者なんて誰も居ないって話にならねぇか?』
『その通りだよ。元から強い者なんていない。時間の経過と共に成長し、強くなっていくのさ。
強さや弱さと言うのは個性の物。上下にある物じゃなく、左右にある物なんだよ。
弱いからこそ、その弱さから導き出せる強さ、正義もある。
弱くても臆病にならず正しくあろうとする様こそが力としての強さ。その力が、太陽にはある。』
『その言い方だと、まるで俺が弱い者みたいじゃねえか。』
『俺を基準にすればね。俺は、生まれながらにして最強だから。』
『元から強い者なんて誰もいないって話じゃなかったっけか?』
『誰も、とは言ってないよ。随分と長く生きてるが、これまで一度も負けた事は無い。戦えば確実に勝利を収めて来た。
それがどんな争いだったとしても、傷ひとつ負わず余裕で勝ててしまうからね、俺は。』
『負けが知りてぇのか?だったら素直にそう言え。』
『負ける事は無いと思うけど、一つくらい細やかな傷を貰いたいな。』
『心配すんな。一つと言わず、三つ四つの大火傷をくれてやる。』
「太陽」は考える。「銀河」の持つ力について。
「銀河」は言った『俺の持っている能力は一つだけだよ。』と。だとすると、銀河の能力は空間をどうにかする力。
全てのモノは空間があるからこそ、其処に実在している。
当たり前に其処に有る空間。
その空間の中身が変化する事で時間を感じ、その時間経過の中で記憶を感じ、記録を残す。
それらはやがて歴史となり、その全ての肯否定。つまり、銀河は何でも出来る。
『俺は銀河の上を行く!俺は銀河の全てを肯定する!言ったよな?否定するだけじゃ自分より強い者には勝てないって。
銀河は俺より強い、そんな事は前から分かってる。だけど、俺はその上を行く!ソード・オブ・エース・・・ーーーーーー』
高速で突き進む「太陽」だったが、突如として体に掛かる強いGに、体の自由を奪われてしまう。
『もっと・・もっと・・』
ピタリと空間に貼り付き、指一本動かせなくなってしまった。
『もっと・・』
その時、「太陽」の体に吸い付くかの様に有るその空間はふと緩み、締め付ける空が皮膚を離れていく。
その感覚と共に、「太陽」の体はするりとその空間から抜け落ちる。
再び距離を詰め、剣を薙ぐ。
「銀河」は「太陽」の剣を何かで受け止めた。
『アウト・オブ・ブラック!』
「太陽」は、剣越しに力を行使する。
手元から吹く黒の煌めき。
「太陽」「銀河」共に、特に変わりは無い。
『・・太陽と俺では、温度差があり過ぎる。』
『分かってる。俺に否定出来る存在じゃないって事を確かめただけだ。銀河の強い肯定力も。』
二人の手元は、目を細め見る程に白く煌めく。
刹那、「太陽」の剣は散り散りに刀身を散らせた。
空間に残る傷跡。
何か鋭い物にでも掠められたかの様に、一閃の淡緑色を放つ。
『結局は自分の力を信じられず、他人の力を否定してしまう。そんなんじゃ、俺に三つ四つの傷を付けるのは、夢の又夢だな。』
『ソード・オブ・エース。身体強化・高速の体。』
空を斬る剣。「銀河」は「太陽」の背後に立つ。
「太陽」は、感情を押し殺し剣を薙ぐ。
その剣は、またしても空を切る。
体勢を起こし「太陽」は言った。
『瞬間移動、みたいなもんか。』
『違うよ。移動じゃなくて、転移だ。因みに言うと、転移したのは俺じゃなく太陽の方だ。
正確には、太陽の立つ空間が俺の立つ空間の真後ろになる様に空間を移動させた。それは瞬間と呼べる時間よりも、ずっと早くね。』
『ったく、むちゃくちゃだな。やっぱ。だけど、そんなに自分の力をぺちゃくちゃ話していいのかよ?』
『問題ない。知られた所で何も変わらない。ただ楽しく、フェアに戦いたいだけさ。』
『フェア?まるで俺の力の全てを理解している様な言い回しだな。』
『そんな事は無いよ。だけど、太陽よりは、太陽の力を理解しているのかも知れないね。』
『まぁ、不思議は無い話だな。・・それに、嘘は言ってない。ほんの少し、人の心が分かるからな。』
『そう。じゃあ、俺が太陽との試合を楽しんでいるって言う事も、分かって貰えたのかな?』
『ああ、それも嘘じゃない。そもそも銀河の能力に、そこまで多くの技は必要ない。一つ二つあれば十分だ。なのに沢山の技を使って戦っている。試合を楽しんでいる証拠だ。』
『分からないよ?俺が太陽を、じわじわと痛め付けたいだけかも知れない。』
『お前は、そこまで性格悪くない。まぁ、ちょっと悪いくらいだ。』
『ひどいな。』
『俺が何を考えているか、銀河ならお見通しだろ?』
『そんな事はない。話さなければ分からない事だらけだ。』
『とりあえず、足元の十字から離れさせてやるよ。ーーーーーー身体強化・高速の体。』
「太陽」は、見えない壁に弾き飛ばされるも空で受け身を取り着地した。
『ーーーっ、偉く早い反応だな?まるで俺の行動が前以て分かってたみたいに。』
『太陽と俺では、過ごす時間の概念が別だからね。勿論同じにも出来る。と言うか、普段は同じなんだけどね。』
『仮に、俺が銀河と同じくらいのエネルギーを持っていたとしても、その能力のお陰で必然的に裏を取られる訳だ。』
『まぁ、そう言う事だ。でも太陽も、まだまだ本気って訳じゃないんだろ?
この世界に気を使ってくれているのかな?壊れない様に。
本気を出すといい。この世界、空間の強度を上げる。気を使う必要は無い。』
『目に違いは映らないが、確かに違う。何かが変わった。そう肌で感じる。』
『そしてもう一つ。』
「太陽」は「銀河」へと駆け行く。
其処はやけに静かで、僅かに濁って見える。
大地は淡緑色を発光し、ふと気が付いた。
「銀河」との物理的な距離が、全く近付いていない事に。
『何かやられているな。』
「太陽」は、腰を低く落とし剣を構える。
『遠慮は要らねえよな。ーーーーーーブラック・ライザー・バースト!』
腰元で構えた剣は強い輝きを放ち、一度薙ぐとその輝きは辺りを強く抱き締めるかの様であった。
何も無かった筈の空間で何かを壊した、その手応えがある。
黒が煌めき、ゆらめき、瞬く。
『うん、見事。』
『インビジブル・ブラック・アート・・』
空間に薄く覆い被さる、黒。
『なるほど。』
「銀河」は、突然何かから身を守る様な素振りを見せた。
『黯煌天蓋降服刹世。』
無数の鋒が、天より大地を指し示すかの様に煌めいている。
黒き天より下がる黒き天、それは「銀河」を避けるかの様に地へと落ちた。
『身体強化・剛腕、刺突黯槍超一点突破。』
地へと落ちた天に触れると、其れは形を変えた。
「太陽」は、空を切り裂く投擲を放つ。
それは空で動きを止め、辺りに散る。
空間に残る淡い緑の傷。
『押黯卍囿。』
刹那、煌めく黒が一帯を圧迫する。
『風景誘拐、零亞宇所。』
あらゆる工夫を無と思わせるかの様な力。
打ち消された力は、瞬きさえも残らない。
その場の静寂は、無を思わせた。
『インビジブル・ブラック・アート・・・』
今にも消えてしまいそうな程に淡い、黝の空間。
風など吹いてもいないのに、頬を掠める空気、揺れる前髪。
葉が舞う様に黝が揺れる。
幾許の黒を瞬き、幾許の白を瞬く。
幾多の黒を放ち、幾多の白を放つ。
その衝突の中で。
『ホワイト・ミーティア。』
「銀河」は、言った。
『大丈夫かい?』
『ああ、なんとか。』
「太陽」は、大地を背に天を仰ぐ。
どこまでも果てしない黒天井。
軽く腰を落とし、手を差し伸べる「銀河」。
『見事だ。』
『何が・・俺のこれまでの振る舞いは、ただの虚勢だった。それを証明しただけじゃねぇか。』
『そんな事は無い。俺に負けた事なら気にするな。相手が悪かっただけだ。』
『・・ったく、』
「太陽」の体には、複数の火傷の後が見受けられた。
『多少、型からエネルギーが離れてはいるが、そのくらいだったら特に問題は無いな。』
『自分の技で傷を負って・・情けないな。
これを狙ってたのか?銀河の付けた空間の傷が邪魔で動き辛かった。今思えば、戦っていたと言うよりは踊っていた、踊らされていただけとさえ思える。お前の掌の上でな。』
『気付いていたか。ほんの遊び心だよ。まだ完成じゃなかったけどね。』
『やっぱ性格悪いよ、あんた。』
『いやいや、それほどでもないさ。』
『言ってろ。で、フィールドの確認はもう良いのか?』
『ああ、そうだったね。それで始めた試合だった。まぁ問題は無いだろう。校舎も特に問題はなさそうだし、一旦ここまでにして、彼等と合流するか。』
『悪いけど、俺はこのまま、少し休ませてもらう。』
『ああ、そうするといい。又後で顔を出してくれ。』
黒が漂うフィールドに「太陽」は一人残る。
「銀河」はローブの上から左肩を抑え、都へと向かって歩く。
『三つ四つとはいかなかったね。』




