『D3♭』
world of light10
「菫」「彩」「雫」の三人は「銀河」に言われた通り、街を見て回っていた。
『初めまして、よろしくお願いします。』
「雫」は「菫」「彩」と、それぞれ挨拶を交わす。
『あなた方が木崎さん、あの大きなお家に住まわれている。』
『・・雫さんは、かなり強い力を持っているんですね。』
『いえ、それ程でもないですよ。多分、彩さんと同じくらい。』
『・・・』
『ところで、菫さんは何者なんですか?僕達とは少し違う、何か・・変わった力を持っている。』
『私は、異能力者じゃありませんよ。どの能力もありません。多分、銀河さんから預かっているこの指輪が違和感の正体でしょう。』
軽く持ち上げられた手、その薬指に嵌る(はまる)細いリングが小さく輝く。
『それは?』
『銀河さんの大切な指輪だそうです。これを持っていると、どの能力も持っていない私でも、一定量の熱を持つ事が出来るみたいです。人が持つ力にも多少、敏感になるとか。』
『なるほど。この仕事は終わった様なものですね。この都は木崎家から発展し、此処まで大きくなった。都内について貴方程詳しい人はいない。
その貴方が止まった世界を自由に動く事が出来、其処に暮らす者が能力に目覚めた者か否か分かるのだから。』
『ここに、三人分の都全域の地図があります。
私達三人は別々に行動し、地図に従って順番に家を回り、能力に目覚めた人が住まう宅には印を、能力を持つ者とそうで無い者複数人で暮らしている場合には、持つ者の名を記して下さい。
雫さんは皆んなの名前が分からないかと思いますので、特徴でも書いておいて下さい。』
『分かりました。しかし、こんな物まであるなんて流石ですね。』
『これは銀河さんが作った物ですよ。都内の地図は私も作っていましたが、この地図は都外の事まで記されている。都の外に関しては、この地図を頂いた時に初めて知りました。
都の内に関しても、私が作った物よりもコチラの方がずっと正確です。私はこの都、この世界について、そんなに詳しくは無いんですよ。』
『・・流石ですね。』
その頃「銀河」と「太陽」は。
『大体形になって来たかな。』
『そうだな。』
『このフィールドを使って模擬戦でもしてみようか。広さ等々これで間に合うのかの確認を兼ねて。』
『別に俺は構わねえけど。』
フィールドに立つ二人。
「銀河」は、足元に爪先で十字を切る。
「太陽」は言った。
『アイツら、ちゃんと仕事してんのかなぁ。』
『しているだろ。良い人達だからな。』
『それ理由になるか?』
『確かに、理由にはならないね。でも、俺が求めている事くらいはやってくれている。』
『偉く自信満々に言うな。求めてる事ってなんだ?』
『この世界の地理は全部頭に入ってる。能力に目覚めた者の数も、大体は把握している。でも、名前が分からない。必要なのは何処の誰って話だ。』
小さく笑う「太陽」。
『要は名前と住所が知りてえってことか?』
『まぁ、そう言う事だな。』
大きく笑う「太陽」。
『まるでガキの使いだな!』
『いやいや、これは重要な事だよ。』
一息吐き、整える。
「太陽」は言った。
『じゃあ、やるか。』
『いつでもいいよ。』
『銀河が相手なら本気を出せる。』
『都が消し飛ぶのだけは勘弁してくれよ。』
『ああ、わかってる。』
力強く地を蹴り、勢い良く「銀河」へと向かい行く。
一直線に飛び行くかと思われたが途中、地を足で突く「太陽」。
空を幾度も蹴り、空中を飛び交う。
地に残る何か重たい物でも引き摺ったかの様な跡、その跡の先は強く抉れている。
『勘が冴えてるね。』
『勘じゃない。空間に銀河の熱を感じた。』
『ふむ、いい感じだね。』
背後を取り、思いっきり剣を薙ぐ「太陽」。
「銀河」は悠々と振り向き剣を叩く。
その刀身は空を舞った。
掌に残る柄も、やがて塵となる。
『クソめんどくせえ力だな。』
目には何も変わらないが、何かを感じ取り後方に下がる「太陽」。
その体は突然ピタリと止まり、空に磔となった。
地より浮く足に一切の揺れも無い。
『太陽なら目には分からなくても力を使った形跡、温度で俺の技に反応出来る。その場の熱が上がっていると言うことは、其処にエネルギーの動きがあると言う事。
つまり力を使っていると言う事になる。でも、どんな技、力を使っているのかまでは分からない。
俺の能力を知っている太陽は、俺の力を感じたら兎に角それを避ける。だから、ふたつの技で挟み撃ちにした。
ひとつは元ある空間を丸ごと抉り取り、もうひとつは元ある空間から中身だけを抉り取った。
力を使えば必ず其処に熱は生じる。だけど俺の作る『墓井戸空間』(ぼいど)は、使った瞬間には熱を生むが痕跡は残らない。
元ある空間を何も変えず、ただ其処から全てが無くなる。
何も無い世界で熱は生まれない。能力は勿論、全ての運動は停止する。』
何の反応も無い。
恐らく「銀河」の声も聞こえてはいない。
感情を失ったかの様に、静かに空の絵となる。
『これじゃあ会話も出来ないね。』
「銀河」がふわりと腕を上げると、辺りは白く濁り穏やか輝きを放つ。
一番強く輝きを放つ腕、その輝きは手に、指に、爪に、世界が目を瞑る程の力を放つ。
「太陽」は、眉ひとつ動かさない。
焦りの全く見えないその顔、非常に冷静に見える。
「銀河」の力は何も無い空間をゆっくりと、一直線に進んで行く。
それは「太陽」に打つかり、同じくそのまま進み続ける。
「太陽」の身体がある一定の場所まで来ると、その身体は勢い良く空間から弾き出された。
肩から着地し、数回地を転がる。
膝に手を突き、ゆっくりと立ち上がった。
動く手足の一抹の喜びを顔に映し、「太陽」は言う。
『ってて・・まんまと銀河の罠にハマってざまぁねえな。』
『何も無い空間に捕らわれるのも悪く無かっただろ?』
『ああ、そうだな。今が最高に自由だと感じられる。』
「太陽」は腕を「銀河」へと突き指し示す。
力む拳から放たれる力。
「銀河」は、向かい来る其れを地へと叩き落とす。
「太陽」は其の間に距離を詰め「銀河」に触れた。
『後で戻してやるから許してくれよ。』
『アウト・オブ・ブラック!』
『・・・ーーーーーー』
「銀河」は「太陽」を蹴り飛ばす。が、姿勢を低くしそれを躱す。
「太陽」は前のめりになり殴り掛かるが、それは通らない。
「銀河」は再び「太陽」を蹴り飛ばす。
目では見えている、感覚としては間違いなく交わした筈なのだが、どういう訳か「太陽」は「銀河」の動きに全く着いていけなかった。
「太陽」は蹴り飛ばされ、背中を地に打ち付ける。
『時間操作・・しやがったな。』
『俺と太陽では時の流れが違う。俺の1秒と太陽の1秒は同じじゃない。殴り合いで俺に勝つのは難しいと思うよ。』
『勝つ、か・・それで言うと俺はもう負けてる、墓井戸空間に入ってしまったその時にな。墓井戸空間を空間断絶で抉り取れば、それで全てが済む話だ。・・俺を試しているのか?』
『いやいや、そんなんじゃないさ。ただ、太陽との『試合』を楽しんでいるだけだよ。』
『楽しむ・・楽しいか?力比べなんかしなくても、勝敗なんか目に見えてるだろ?』
『勝敗を楽しんでいる訳じゃ無いさ。太陽の持つ熱は270度前後、俺が持つ熱は1600万度前後、普通に考えれば負けは無い。』
『嫌味かあ?』
『そうじゃない。太陽は強い。持つエネルギー、その温度だけじゃ測れない強さがある。』
『この世界じゃ、最強かも知れねえな。』
『俺達の元居た世界は、戦って勝つ事が全て。それ以外には何も無い。そんな世界の中で力の弱い者は残れない。
弱い者は淘汰され、強い者だけが残っていく。ごくごく当然な自然の摂理。その中で残る弱い者は、もう弱い者じゃない。
何か特別な強い力を持っている。強いと言われる者よりも、よっぽど希少で強い存在。』
『ただ珍しいってだけじゃねえか。』
『珍しい、は重要な事だ。』
『俺は珍しいか?』
『ああ。』
『だけど、俺は弱くない。』
『そうだね。だけど、太陽の戦い方じゃ自分より強い者には勝てない。
他人の力を否定する、自分以外を否定する、これは自分よりも弱い者にしか通用しない。
必要だと思うものは受け止め、受け入れる。
今の自分を超えたいのなら、自分以外も肯定する事。全員じゃなくていい、ただ否定はしない事。』
『・・大きなお世話だ。・・さぁ、これからが本番だ。始めようぜ、試合。』
『まだやるのかい?』
『当たり前だ。こんなんで終われるかよ。俺が勝つまで付き合えよ、銀河!俺と戦うのは楽しいんだろ?』
『ああ、そうだった!だけど、負けてあげないよ?』
『太陽と戦うのは楽しい。全てにおいて天井を見た、そう思っている俺よりも、ずっと強く輝いている。』




