『C3』
world of light9
「銀河」は、再び木崎家へと訪れていた。
使用人の方々に案内され、この間と同じ客室にて行儀正しく座する「銀河」。
畳の良い匂いがする其の部屋には、「銀河」「菫」「彩香」の四人が交える。
其処で「銀河」は、予てより考えていた、能力について学ぶ事の出来る施設を作る事を提案した。
これまでに無かった力を持った事で起こり得る最悪の結果、その回避と、「彩香」の身に起きている事への理解には必要不可欠だと。
その為には先ず第一に、この世界で何にも使われていない大きなスペース、荒野に広々とした競技場と学舎を新たに建てる必要がある。
この世界で能力に目覚めた者は、エネルギー量に大きな差がある。
大多数が能力と呼べる程のものではない。が、持つ者はとことん持っている。
競技場は大きな物が必要になるだろうが、校舎については其処まで大きな物は必要ないだろう。
ざっくりと熱量を二分し、比較的温度の高い者、高く成り得る者をこちらの学舎に通わせる。
そして、比較的温度の低い者は、競技場こそ其処まで大きな物は必要ないが、校舎はそれなりに大きな物が必要になる。
この都には、何に使われているのかもよく分からない大きな建物が一つある。
競技場とまでは言えないが、それなりに使えそうな広場も幾つかあった。
「銀河」は、そこを使わせて貰えないかと問う。
「菫」は、すんなりと了承してくれた。
「銀河」は、荒野に新たに建てる学舎を仮にA学舎と呼び、この都に既にあった建物を仮にB学舎と呼ぶ事にした。
そして第二に、この学舎での先生役。
木崎家は、この世界において非常に大きな家である。
それに応じて「木崎」の名を持つ者も又、沢山居る。
この家の方々に先生役をやって貰いたいと、そして「菫」にはA舎を任せたいと「銀河」は言う。
「菫」は、この話にもすんなりと了承した。
勿論「彩香」はA舎に通う事になる。
「銀河」も「菫」に、A舎を丸投げする訳ではない。
多少の不安はあって然るべきなのだが、皆のサポートがあるとなると怖いものは無い、どこかでそう思えたのだろうか、「菫」は一切の不安も感じてはいない様だった。
「彩香」も「彩香」で、この間とは全く違って見えた。
互いに別の意志を持ち、それぞれを生きている。
一人は彩として、一人は香として、それぞれを生きている。
顔は瓜二つだが、彩は長髪に髪を束ね、彩香の面影を強く残している。
香はバッサリと髪を切り、その髪は肩に掛かる程の長さ。
それだけの違いだが、随分と印象は違う。
もう別々の人なのだから当然なのかも知れないが、性格も違って感じた。
話は終わり最後に、「銀河」は「菫」に指輪を一つ渡した。
この世界に向かう少し前、「月姫」が「銀河」に託した「月姫」の『アイテム』。
能力者が扱う力の中で、一番と言って良い程に特別な力。
アイテムを生み出せる者は、一般的に能力と言われているモノとは又違った力を有している。
自身を象徴する第二の身体、特別なチカラ。
ソレを他人に託すなんて真似、誰もしない。
様々なモノを託され、背負った「月姫」だからこそ至った発想なのかも知れない。
本来アイテムとは、生み出した本人にしか扱えないチカラ。
決して奪われる事の無い自身だけの、自身の為だけの力。
他人のアイテムを扱おうとする者も又、誠に稀有な存在である。
生み出す者に因って形は違い、託された者に因って形は変わる、とても特別なチカラ。
「菫」は言った。
『これは?』
『つき・・妹の形見です。異能力を待たない方に教員のトップに立ってもらう訳ですから、お守りとして持っていて下さい。』
『ありがとうございます。でも良いんですか?そんな大切な物を。』
『かまいません。必要な事ですから。それじゃあ早速、作業に入りましょうか。』
「銀河」が荒野に競技場等を作る間に、「菫たち」は都より元建つ学舎に成る予定の其の建物を、学舎として使えるよう手配する。
「銀河」は荒野へ、「菫たち」は都中央へと向かい行く。
「太陽」は言った。
『まぁまぁ、早かったな。』
『話がスムーズに進んだからね。』
『じゃあ、もうやるんだな。』
『ああ・・ーーー時よ停止せよ。』
止まった世界の中で「銀河」と「太陽」は作業に取り掛かり、進める。
作業中に何かトラブルでも起きたら面倒。
時の歩みを止めてしまえば、世界は今より良くも悪くも変化はしない。
全てのリスクと縁が無くなる。
再び時が歩む頃、今と言う状況を万全の状態で迎える事が出来る。
『何か手伝いましょうか?』
聞こえる筈の無い声。
ふとそちらに目をやると、そこには「雫」が立っていた。
「太陽」は、言った。
『お前に手伝ってもらう事なんて何も無い。』
そして、「銀河」に言う。
『アイツ、なんで動いてんだ?』
『時間停止は、俺の決めた温度以下のモノを時の歩みから切り離し、変化を奪う力。時間と言うモノ、その概念はそこにあり続けている。
時に置いて行かれないだけの熱量を持っていれば、勿論動く事も出来る。』
『アイツと俺じゃあ温度にかなり差があるだろ?何でそんなに低く設定してんだ?』
『都の中にね、止まってもらっては困る人がいるんだ。』
「雫」は、言った。
『何も手伝う事が無いのなら、此処でボーッとさせてもらいますね。太陽との試合の後、ちょっと休んだら明希正さん、真依理さんと連戦で、結構ボロボロですから。』
『それがいい。強かっただろう、彼ら。』
『ええ、二人ともかなり強いですね。どちらかが倒れるまで戦うとなれば、勝てないかも知れません。それだけタフでしたね、二人とも。
僕と戦った後に、まだ二人で楽しそうに試合してましたから。』
『火憐とは戦わなかったのかい?』
『ええ。疲れていたのか、試合を眺めているだけでしたね。』
「銀河」と「太陽」は一先ず学舎を建て、中を見て回る。
より良い構造が思い付いたらその場を修正、これを繰り返していたその時、荒野に「菫たち」がやって来た。
「雫」は横目にそれを見る。
「菫たち」はB舎の競技場と成る場所を決め、それぞれの担う努めを分配していた。
次の作業に取り掛かろうとした其の時、皆が一斉に瞬き一つしなくなった。
でもそれは、前もって言ってあった事。
この世界で動ける者を制限し、より効率的に作業を進める為にと。
しかし、実際に動けているのは「菫」と「彩」だけ。
「香」も動ける前提で話を進めていたので、報告も兼ね「銀河」に、相談に来たと言う状況である。
此処で「銀河」は、「雫」に話を振る。
『何か手伝える事はないかって言ってたよね?』
『はい。』
『だったら丁度良い仕事が今出来た。都の皆が何処の誰で、誰が能力に目覚めていて、誰が目覚めていないのか、それが分かる地図の作成を三人でやって欲しい。』
『分かりました。』
『疲れている所申し訳ないね。』
『いえ。』
「菫」「彩」「雫」は、その場を後にした。
「太陽」は、言った。
『何で三人にそんな事頼むんだ?俺達二人で・・銀河一人でも十分にやれる事じゃねえか。銀河がその気になればこの世界で動ける奴なんて誰もいないんだからやりたい放題だろ。』
『そうだね。確認の為に、もう一度同じ作業をする事になるかも知れないし、今頼んだ事は無駄な事なのかも知れない。
だけど、この世界で生きて行くのは、この世界の者達だ。なるべく多く色んな事を、この世界の者達にやってもらった方が、この世界の為になる。
その瞬間は意味が無く無駄な事の様に思えても、後々に残る物があればその時、全ての事は繋がっていて意味がある、意味があった事なのだと思える。』
『そう言うもんかねぇ。』
『意味って、行動の前には見えづらい物なんだ。意味の無い事はしない、意味だけを見て行動する、それ自体は悪い事じゃない。寧ろ賢くも思える。
だけど、ひとつ間違えばこれは、少し傲慢な事の様にも思える。
賢い行動にこだわると、行動回数は自然と少なくなるだろう。効率的、と取る事も出来るかも知れない。本当に賢い者なら、それで良いのかも知れない。
だけど、俺は其処まで賢くない。行動しないと碌なアイデアも出ない。
だからこそより多く行動し、色んな物事にぶち当たること、そう言った行動の後に意味を見い出している。
食べた事の無い食べ物の味を、食べる前から分かる人は中々いないだろう。』
そう言うと「銀河」は、小さく笑った。
『食べたからこそ、それの味が分かる。食べてみなければ味は分からない、行動したからこその意味。』
『ああ。』
『で、何食ったんだ?』
『カレーライス、とかかな。』
『美味かったのか?』
『美味かったね!』
『それが結果って訳だ・・』
『ん?』
『俺、メシなんて食った事ねえぞ・・』
『あ、ごめん・・今度、一緒に行こうか。』
『結果ってのは、出すものじゃなく着いてくるもの、そう言う側面もあるって事か。』
『何か言ったかい?』
『なんでもない。』
『今度、そのナンとかって食べ物、食いに連れて行け。』




