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World of Gray  作者:
『world of gray』
2/45

『A3♯』










world of gray2










『大丈夫かな・・』

『大丈夫だよ、太陽は強い。・・何か一つでも違えば、僕は太陽に負けていたかもしれない。それだけの実力があれば、大抵の事は大丈夫さ。』


不安を口に漏らす「太陽」だったが、「雫」にそう言われると「太陽」は、不思議と『大丈夫』そう思えるのだった。


『総合成績一位の雫さんに、そんな事を言ってもらえるなんて光栄だな!』

『やめてくれよ。・・多分、生徒会長は僕より強いよ。総合成績一位なんて持ち上げられて、道化にでもなった気分だよ。』

『雫は道化なんかじゃないよ。頭もいいし、強い。総合成績一位は雫の実力だ。』


「太陽」は疑問に思った。

「雫」は強い、それは誰もが認めているに違いない。

総合成績一位に相応しいと。


『雫より強いなんて、そんな事あるのか・・』


考え事をしている「太陽」の表情かおを見て「火憐」は言った。


『太陽の異能は五行のどれにも属さない太陽だけの力。生徒会長がどれだけの力を持っていたとしても、気にする事なんかない。』


「太陽」は、今自身がどんな顔をしているのかと少し気になった。

使った事のない筋肉を初めて使った気がした。

「火憐」が「自身」を励まそうとしている、そう思うと「太陽」の顔は、綻んでゆく様であった。


『って言うか、そんなちっちゃい事を気にしてんじゃないわよ!』


別に不安だったわけじゃない。

だけど、励まされるのって悪くない。

「火憐」からのエールに、「太陽」は小さく笑った。







ーーーーーーーーートン、トン。







『失礼します!』


「太陽」は、「火憐」「雫」に言われるがまま扉を叩き、上擦る何かを抑え、その場で声を張る。

ただ部室に入るだけの話だが、妙な感じがした。

大きな声を出す事への抵抗か、将又はたまた別の何かなのか、理由は分からないけれど今迄に無い感覚。

「太陽」は、緊張していた。

後から思えば「雫」か「火憐」が先に部室へと入室して、「自身」を紹介してくれれば良かったのではないかと、そう思った。

が、そう思うと同時に、その時にそう思えていたとしても、そうはならなかっただろうなと、そうも思った。

一生分の「そう」を言った様な気分だが、見慣れない「太陽」のその様子を面白がっている「火憐」と「雫」が「そう」させたのだ。


『どうぞ!』


扉越しに聞こえて来るハキハキとした女性の声。

とても聞き取りやすく、快活。

それまで何処かに持っていた緊張感は、ふと掌から溢れる様。

取手に手を掛け、扉を開く。

部屋に入ると「太陽」は、目だけで辺りをぐるりと見回した。

特に変わった感じは無い。

部室と言えど同じ学舎にある部屋の一つ『まぁ、こんなものだろう』と、落ちる物が落ちる所に落ちるべくして落ちた感じであった。

所謂『腑に落ちた』である。

何かを期待していた訳では無いが、何となくフワッと現実を感じた。

一言添えるなら、ガッカリしたと言う話ではない。

納得したと言うだけの事。


『ここが部室かぁ・・』


あっ、と思った頃には時既に遅し。

心の中で思っていた事が、無意識に言葉として出ていた。

言葉として出したのなら、当然・・かは分からないが其れ相応の何かが起こる。

何処まで声に出していたのかは分からない。

無意識下での事なのだから仕方がない。

焦りは無かったのだが、返って来る言葉に、或いは別の何かに、少し恐怖を感じていた。


『そうだ!ようこそ太陽君!』


「太陽」の吊り上がった肩が落ちる。


『土宮真依理』


この人は倶楽部の中で、唯一一階に教室を持つ生徒。

クラスまでは分からないが、「生徒会長」と同じ学年と言う事になる。

初めましてだけど、そんな感じは全くしない。

ハキハキとしながらも陽気な先輩、とても親しみやすそうな人である。


『お前が太陽か!今日からここのメンバーになるらしいなぁ!聞いてるぜぇ!』


この部屋の扉を開けた時、一番に目に入った人。

部屋の持つ雰囲気から浮いていて、かなり目を惹く見た目をしている。

見た目の特徴については、此処では控えさせて貰いたい。


『白金明希正』


第一印象としてはチャラい人。

そして、なんかギラギラしてる人。

「太陽」の一つ上の学年で、頼れるアニキ感を感じなくもない。


『よろしくお願いします。』


「太陽」は、社交辞令的に挨拶を済ませる。


『あぁ!よろしくな!これからはお前もグレイスの仲間だ!なんか困った事があったらいつでも言ってくれ!力になるぜ!』


『この人、悪い人じゃない!』


と、言葉にはしなかったものの、良い先輩ばかりでホッとしていた。

上手くやっていけそうだと。

「太陽」は、再び辺りに目を凝らす。


『あともう一人、居る筈なのに・・』


ふと、そこまで離れてもいない場所から華奢きゃしゃな声が耳に入る。


『何か困ってる事、あるんですか?』


『いや・・』


『今まで誰も見た事の無い異能を持つ君。そんな君だからこその悩みと言うものがあるのでしょうか?』


『木崎香』


「太陽」と同じ学年でBクラスの生徒。

お隣さんだが、ほぼ面識は無い。

記憶の限りでは全く無いのだが、流石にお隣さんと言う事もあり、何かしらはあったのかも知れないと言う意味を込めて『ほぼ』と言いたい。

袖振り合うも多生の縁である。

この場合に限って言えば、多生と言うよりかは、多少と言う方が正しいのかも知れないが・・それは兎も角として、彼女はこの部屋ととてもよく馴染んでいる。

それは良くも悪くもである。

この先の事は何となくで感じ取って貰いたい。


『珍しくよく話すじゃあねぇかぁ?』


『白金先輩っ!』と、心で叫ぶ。

何時間にも感じる数秒の沈黙。


『不安なんてないです!頑張ります!』


「太陽」は、その場の空気を切り裂くかの様に返事をした。

特に変な空気が漂っていたと言う訳は無い。

「太陽」からすると間違いなく漂っていたのだが、そこに居る皆の顔色を見て、それは勘違いだったのだと思い知らされたのだ。


『よし!じゃあ、見回り行くか!』


「明希正」は、唐突に立ち上がり言った。

この唐突と言うのも「太陽」の勘違いである。


『太陽はどうするんですか?今日は初日だし・・』


心配そうな顔をしている「火憐」に「明希正」は言った。


『なんだぁ?心配してんのかぁ?』


『別に心配なんか・・』


『大丈夫!こいつも男だ!・・そもそも、そんな物騒な世の中でもねーしな。』


『そう、ですね・・』




「太陽」「雫」「火憐」「明希正」の四人は見回りに行く事になり、「真依理」と「香」は部室に残る事となった。

校内での活動も、もちろんと言うべきか無い訳では無い。

「香」は静かに作業に取り掛かる。

「真依理」は『いってらっしゃい』と、笑顔で四人を送り出した。




『みんな行ってしまったね。』


『そうですね。』


『申し訳ない、香くんにはいつも面倒な仕事をさせてしまって。」


『いえ。』




校舎を出る四人。

「明希正」の言った通り学舎近辺は勿論の事、この都は平和そのもの。

異能なんて力に目醒め様ものなら、誰かしらは派手に暴れ出しそうなものだけど、特にそう言った話も聞かない。

異能に目醒めた、とは言っても大抵の人はCランク。

Cランクくらいであれば、力としての実用性はかなり低い。

だけど、悪用すれば厄介なのは間違いない力。


『しっかりと警戒はしなければ。』


「太陽」はそう、心に言い聞かせた。







どれくらいの時間が経ったのであろうか。

それなりに辺りを練り歩いたかと思う。

疲労感が体にそう教えてくれている。

何事も無く見回りを終え、皆は部室へと帰って来た。


『どうだった?』


『平和でした。』


『それは良かった!』


そう言うと「真依理」は大きく笑った。

「香」は徐に立ち上がり、机の上に広がる書類を束ね、側面を二回程打つ。

綺麗に纏められた書類を引き出しへと仕舞うと『お疲れ様でした』と、そう一言言い残し部室を去って行く。


『俺達も帰るか!』


『はい!』


「太陽」の、今日一番のガッツが見て取れる良い返事。

「雫」は小さく笑い、「火憐」は呆れた様に表情を崩した。







『今日は、まあまあ・・結構・・・かなり疲れた。』


「雫」が『お疲れ様』と言ってくれた。

「火憐」は『だらしないわね』と言ってくれた。

二人は、あまり疲れている様には見えない。

慣れたらしい。


『僕もいつかは慣れるのかな。にしても、今日は本当に長い一日だったなーーーーーーーーー。』


天を仰ぎ、思い耽る「太陽」。


『明日は三ヶ月ぶりの異能力試験。』


「火憐」がふと言葉を言い放つ。

「太陽」は思い出した。

明日は月の下旬、試験の日。

異能力者が異能で戦い、思う存分異能力を使える日。


『明日も長い一日になりそうだな・・』


そう思うと「太陽」の疲労は加速した。


『気合い入れなさいよ!』


「太陽」は気持ち半分上の空で言葉を返す。


『本気で来ないと軽い火傷じゃすまないわよ。』


「太陽」は何も言い返さなかった、言い返せなかった。

「太陽」は少し、気合いが入った様な気がした。


『明日は頑張ろう。じゃあ、また明日。』


「雫」は「太陽」や「火憐」が歩いている方向とは別の方向へと足を向けた。


『うん、また明日。』


少しの間、自分の家へと帰って行く「雫」の後ろ姿を眺めていた。


再び歩く。

特に会話をする事も無く、ただ歩いた。

「火憐」と道が別れる其の時、「火憐」から何かを渡された。


『これ、御守りだよな?なんで御守りなんだ?』


『太陽が、異能力総合試験で二位が取れる様に。』


『二位?なんで二位なんだよ?普通一位だろ、こういうのって。』


『一位はダメよ、私に決まってるんだから。』


「太陽」は、込み上げる感情を吐息と飲み込み、感謝の言葉を口にした。


『どういたしまして。』


「火憐」と道を別れ、足取り重く一人来た道を行く。

歩きながら「火憐」から貰った御守りに視線を送る。

紅色の生地に、金色の糸で刺繍がされている。

なにが刺繍されているのかは、正しくは分からない。が、鳥の様な物なのだろうか。

見た事の無い御守り、手作り感満載の代物である。

「太陽」は思い出した。

今日は珍しく遅刻しかけていた事、その原因が昨日の徹夜だと言う事を。










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