『E2』
world of light1
『この世界は平和だ、退屈な程に平和。
この世界は自由だ、大空を羽ばたく鳥の様に自由。
もう少し窮屈でもいいくらいだ。もう少しくらい・・・』
『この世界は争いばかり。
何の因果か力を持つ者は引き合い、より強い力に引かれていく。
ぶつかり争う螺旋の宿命。』
瞳に映るは何処までも続く白。肌で感じるは底無しの冷血。
一度の瞬きで世界は彩られ、次の瞬間、身体を吹き抜けてゆく柔らかな風。
優しい音に耳を預け、瞳は様々を映し出す。
「月姫」は、小さく微笑んだ。
そして其処に、静かに舞い爆ぜた。
『さよなら、月姫。』
「太陽」と「銀河」は、その場に立ち尽くす。
足元に揺れる緑は、二人の何かを映し出すかの様に風に吹かれている。
ふと目を流すと、其処には一人の「女」が立っていた。
「女」は二人に声を掛けた。
『家の敷地内で、何をされているのですか?』
「太陽」は気を荒立て「女」を追い返そうとするが、「銀河」は「太陽」へと目配せ、「女」に謝罪をする。
「女」は、立ち去ろうとする「銀河達」を呼び止めた。しかし、その声届かず二人の背中は空に溶けゆく。
黒いローブに身を包んだ怪しい二人。姿のみならず雰囲気も独特で、何処か違う世界を見ている様な目をしている二人。
理解の出来ない何かを「女」は感じていた。
『この世界は平和だ、退屈な程に平和。
この世界は自由だ、大空を羽ばたく鳥の様に自由。
退屈な時間が悠久である世界。
自分が退屈していると言う事に気付く、その感情を持つ事に、どれだけの時間が掛かったのかは分からない。
日の変わり目なんて、今までに一度も感じた事が無い。
だけどその日は、ハッキリと日の変わりを感じた。
今日が終わり、明日が始まる、一日を感じた。』
都、其処にそれは起きた。
目を覚ますと、其処は明るく熱い光に満ちていた。
その景色に、視界と意識は魅せられた。
暫くするとその光は消え、少しの間ボーッとしていた。
すると、次第に身体は熱くなり、何かが高鳴る様だった。
その時の「朱夏」には聞こえなかった、玄関を開ける音、誰かが廊下を走る音、そこには「友」が立っていた。
『白金千秋』
落ち着いた雰囲気を持ち、何処か冷めている様にも見える「朱夏」とは違い、明るく元気、少し煩く感じる時もあるくらい腕白な男。
彼は血相をかいて「朱夏」の部屋へと飛び込んで来た。
『大丈夫か?』
そう言った「千秋」の右腕は、肩から指先まで肉肌感が無く、まるで金属の様であった。
自身の身体に何が起こっているのか、二人には全く分からない。
『あいつらにも、何か起きてるんじゃないか?』
二人は、まだほんの少し燻るその部屋を後にする。
向かう先は、友の家。
道中、右手を閉じたり開いたりしている「千秋」に「朱夏」は言った。
『その腕、元に戻るのか?』
『さぁあ、どうだろう・・今の所、戻せそうな感じは全くしねえな!』
『まぁ、別にこのままでもいいけどよ!対して困んねえし!』
『困るだろ、普通。』
『俺達はもう普通じゃない!』
『確かに、そうだな。』
『朱夏の方が困るだろ?部屋、あんなになっちまって・・』
『俺は別に・・体はいつもと変わらないし、ある程度言う事を聞く『異変』みたいだからさ。』
『言う事?』
『あぁ、分からないけど・・使う使わない、強く弱くを選べる感じって言うの?なんかそんな感じがした。』
『そっか。訳分かんねえけど、ひとつハッキリした事がある。』
『何か分かったのか?』
『この異変には種類がある。俺も朱夏もおかしな事になってるけど症状がまるで違う、人によってこの異変は現れ方が違うって事だ。』
『あいつらもまた、俺達とは違った異変が?』
『かも。アイツらも心配だ!急ごう!』
歩き慣れたその道も、急いでいる時はやけに遠く感じるもの。
「朱夏」は「千秋」に、肩に捕まる様に言った。
「千秋」が「朱夏」の両肩に手を置くと、身体が一気に前に出る。
「千秋」は、「朱夏」の背中にしがみ付く。
「朱夏」の足からは、火が噴き出していた。
今まで体感した事の無いスピードに、二人のテンションは爆ぜる様であった。
『おぉ〜!はえーーーー!何だよこれぇーーーーー?」
『今思いついた!少しでも速くなればと思ってさ!』
『すげーじゃん!これならあっと言う間に着いちまうな!』
「朱夏」の足から噴き出る火は止まる。
そこは、見慣れた友達の家。
家の前には人が立っていた。
『土宮真央』
気さくな奴だが、意外と繊細な所がある女。
一緒に居ると凄く楽しいし、気が楽だ。
だけど、少し無理をしているのではないかと、時折気に掛かる事もある。
突然やってきた「朱夏たち」に、「真央」は社交的な驚きを口にする。
そして、何処かに何かが落ちる様な、合点がいった、そんな顔をする。
『大丈夫か?』
『やっぱり、朱夏達も・・』
そう言うと「真央」は、両手を差し出す。
掌に出来る土砂団子。
やがてそれは掌から溢れ、地へとボトボト落ちる。
『なんか起きたらこんなになっててさ、部屋の中泥んこで最悪って感じ!まぁでもこの通り、止めようと思えば止まるし、大丈夫と言えば大丈夫かな!』
手を払う「真央」。
「朱夏」は言った。
『春華と美冬にも何かが起きてるかも知れない。』
『二人なら今うちにいるけど?』
『大丈夫だったのか?』
『もちろん、みんな仲良くおかしな事になってる!』
そう言うと「真央」は笑う。
その日、二人は「真央」の家に泊まっていた。
そして今は、お風呂に入っているそうだ。
起きたら三人仲良く泥まみれだったらしい。
部屋と体を綺麗にしたら、「朱夏」と「千秋」の家へと向かう予定だったので、来てくれて良かったと。
「美冬」の異変は水の生成、拡大。
「春華」の異変は植物の生成、生長。
『初め見た時はびっくりしたし、少し怖かったけど、泥んこになってる二人を見てたらなんか面白くなっちゃって!
部屋も泥んこ、花とか咲いちゃっててさぁ「なにぃ〜私達これから植物園でもするのぉ〜」って!
そんな事考えてたら、何も怖くなくなっちゃったよ!だから私達は大丈夫!』
そう話す「真央」の元へと、二人はやって来た。
『青木春華』
半径数メートルに、マイナスイオンを撒き散らしながら、生活をしているかの様な女。
「春華」一人その場に居ると、全体の空気が良くなる気がする。
少しふわふわとしている様にも感じられるが、胆っ玉の座った強い奴。
『玄乃美冬』
普段から口数が少なく、掴みどころのない女。
でも、そんな彼女が居るからこそ、正される空気もある。
言葉にしないだけで、一番熱い奴なのかも知れない。
「千秋」は言った。
『取り敢えずは、皆んな無事で良かった!』
「春華」は言う。
『このくらい、なんて事ないですよぉ!』
「真央」は言う。
『そうね!これくらいの事があった方が、面白いかも知れない!』
「千秋」は言う。
『これくらいかぁ!俺達、なかなかクレイジーになって来たんじゃねぇかぁ?何かワクワクして来たな!』
「朱夏」は言った。
『ワクワク・・・ああ!』
其処に、いつものメンバーは集まった。
「朱夏」「千秋」「真央」「春華」「美冬」五人全員の体に、異変は起きていた。
何が起きているのか、これからどうなるのか、それらは何一つとして分からないけれど、特にこれと言った不安は何処にも感じない。
あるのは『これを待っていた』と、そう感じる喜びにも似たものだけ。
『楽しみだな。これからが。』




