『G4』
world of gray 11
「太陽」は、いつも通りギリギリに登校し、なんとなく、それとなく授業を消化し・・昼休み。
この学舎で過ごす時間の中で、一番と言って差し支えない程にお気に入りの時間。
いつも通りペロリと完食し、足早々に何処かへと向かう。
舌に残る物は何も無い。
「火憐」は、去り行く「太陽」の背に瞳を置き、一口の水を飲んだ。
「雫」は言う。
『待てばいい。』
『・・なに、それ。』
ーーーーーーーーーそして、放課後。
『部活どうする?』
『今日は行くよ!二日も休んじゃったしね!』
『そう、じゃあ部室に行きましょう。』
部室、「明希正」は冗談を交えながら「太陽」の心配をしてくれた。
「先輩達」は、いつも通り気さくに話し掛けてくれる。
「真依理」は言った。
『君達の決勝戦の日、決まったぞ!』
「真依理」が「ここ」に来る前に、「生徒会長」から聞かされた話。
その日付は、明日と言う事だった。
部室の皆は、盛り上がりに盛り上がっていた。
そう見えた。
一通り盛り上がり終えると、校外に出る者と部室に残る者二組に別れ、それぞれの作業を行う。
いつもの通りなら「明希正」「雫」「火憐」「太陽」が校外見回り組、「真依理」と「香」が部室に残り雑務を行う。
これが、この倶楽部に定着している一般的で普通の振り分け、共通認識だと皆はそう理解していた。
その流れの中、「太陽」は部室に残ると言い出した。
たまには雑務もやらないと、押し付けてばかりでは申し訳ないからと。
「真依理」の気遣いを押し除けるかの様に、「太陽」は意見した。
この言葉に「真依理」は、気持ち良く『ありがとう』と、そう言った。
続けて「真依理」は、満面の笑みでこう言った。
『さぁ、皆んな!散歩に行くよ!』
「真依理」は「明希正」「雫」「火憐」を引き連れ、部室を後にした。
『どういうつもりですか?』
『どうもこうもないよ。さっき言った通り僕は・・』
『申し訳なく思って・・そんな訳ないですよね?』
『・・聞きたい事があるんだ。』
『なんですか?』
『木崎さんのお母さん、校長先生は何の異能なの?』
『母さんは無能力者ですよ。』
『・・そうなんだ。』
『そんなに驚く事ですか?』
『いや、驚いては、いないよ。』
『うそ。驚いてる。』
『この学舎に関わってる人、全員異能力者だと思ってたから。』
『そうですか。おそらくですが、先生方は皆んな無能力者ですよ。母さんの持ってる教員データをチラッとですが見ましたので、多分間違いないと思います。』
『そうなんだ。・・・じゃあ、理事長は?』
『理事長は・・分かりません。』
『・・そうなんだ。』
『理事長は重大な混沌から、この都を救われた方。何か異能を持たれていても不思議はありませんが・・』
『n.s.w・・理事長は・・いや、理事長だけじゃない。校長も生徒会長も、僕達の知らない何かを隠してる、と思う。』
『そうですね。私もそう思います。』
『木崎さんは気にならないの?校長先生と生徒会長と、一緒に暮らしてるんだよね?』
『気にならない、と言えば嘘になりますね。ですが、一緒に暮らしていたとしても、たとえそれが家族だとしても、知る必要の無い事はあります。
それでも上手くやっていけるのが、家族なんじゃないですかね。』
『・・そう、なのかも知れないね。』
『ガッカリしましたか?』
『いや・・』
『私が思うに、母さんと姉さんは世間が知らない異能力の秘密を知っている、と思う。』
『えっ?』
『何となくです。当てずっぽで言っただけなので気にしないでください。』
その後「太陽」は、「香」に言われるがまま淡々と仕事を進めた。
『これ、生徒がやる事なのかぁ。』
そう思いながらも淡々と手を動かした。
反論の余地は無い。
そもそも生徒のやるべき事も、よく分からないのだから。
「香」は言った。
『もうやる事も無いですし、先に帰っても良いですよ。先輩達も、そろそろ帰って来る頃だと思いますので。』
「太陽」は、ありったけの感謝を伝え荷物をまとめる。
『じゃあ、また。』
下校、その道を行く「雫」と「火憐」。
「雫」は言った。
『気になる?』
『別に。』
『嘘だな。』
『・・・』
『じゃあ、今から行ってみる?』
『行くって、どこに?』
『太陽の家。』
「太陽」はB学舎へと、やって来ていた。
この間とは違い時間が早い、そこそこ人が残っている。
内装はA舎と似たり寄ったり、そう迷う事無く職員室を目指す。
『僕の事、探してる?』
そこに立っていたのは「理事長」だった。
言葉を詰まらせる「太陽」。
この「人」に用があるのは間違いない、この人を探していた、なのに言葉が纏まらない。
そう自覚すると、ふと息は抜け、言葉が追い付いてくる。
「太陽」は、ゆっくりと口を開く。
その頃「雫」と「火憐」はーーーーーー
『ここが太陽の家?』
『だと思う。』
『えっ?太陽の家行こって言い出したの雫じゃん!』
『住所を知ってるだけで、来た事はないから。』
『本当に合ってる?』
『多分・・』
「雫」は汗を握りしめ、「太陽」の家だと思われる其の家の戸を叩いた。
すると、部屋の奥の方から聞こえる様な透明感のある女性の声がした。
「雫」はノブに手を掛ける。
『すいません。ドアが壊れていて、今は開ける事が出来ないんです。このままでもいいですか?』
「雫」は、戸越しに用件を伝えた。
『太陽、いますか?先生に頼まれて宿題のプリントを持って来たんですけど!』
気の毒に歪む「火憐」の表情。
『太陽は、帰って来るなり「学舎に忘れ物をした」って、飛び出して行きましたが・・そのプリントの事だったのかしら。入れ違いになったのかも知れませんね。』
「雫」と「火憐」は顔を見合わせる。
戸越しに軽く頭を下げ、二人はその場を後にした。
『どういう事?』
『僕達は学舎から太陽の家に向かって歩いて来た。多分太陽も僕達と同じ道を使うはずだ。なのにすれ違ってない。と言う事は太陽が行った学舎はおそらく、B舎だ。』
場面は戻り「太陽」と「理事長」は、この間「ここ」の生徒達と「理事長」が花火をしていた競技場へと場所を移していた。
フィールド中央に立つ二人、柔らかな風が吹き抜ける。
二言三言世間話を交わすと、「太陽」は本題を切り出した。
『理事長も知ってますよね?僕に記憶がない事?』
『知ってるよ。太陽君の記憶は僕が消したんだから。』
「理事長」は、もう一度言った。
『いや、聞こえてないんじゃなくて、言ってる事の理解が追いつかなくて・・』
『まぁ、そうだよね。無理もない。君の記憶は後で戻してあげるから、心配しないで。』
『そんなこと出来るんですか?・・なら、なんでもっと早く返してくれなかったんですか!?・・そもそもなんで記憶を消したりしたんですか!?』
『矢継ぎ早だな・・すまない。もちろん理由はある。が、先ず初めに言っておくよ、君に記憶を返せば僕は消える。』
『どういう事ですか?』
『言葉の通りだよ。だから、僕の用が済むまで記憶は返せなかった。僕の話にもう少し付き合ってくれ、済めば返すよ。』
『記憶を何だと思ってるんですか?授業中に貸し借りする消しゴムとは違うんですよ・・』
『分かってる。』
『理事長の異能って・・・』
『僕の異能は・・記憶と記録に干渉する力、かな。』
『五行に属さない力、理事長も・・』
『僕の力はこの世界のものじゃない。まぁそれは、異能全てに言える事だけどね。』
『・・異能って、なんなんですか?』
『皆んなが言う所の異能、五行の力は『天ノ月姫』の力が分散したもの。』
『あまの・・』
「雫」と「火憐」はB舎を練り歩いていた。
『本当に太陽こっちに来てんの?』
『・・あそこ見て、誰かいる。』
「銀河」は、一拍置き話を進める。
『僕達三人は、違う世界からこの世界へとやって来た。僕達の元居た世界は、この世界の様な平和な所ではなくてね。出会えば争い、何かを奪い合っていた。
其れが当たり前の日常で、其れに違和感を感じる者など先ず居ない。
この力は自身に与えられた時間を使う。何かを奪おうとすれば同時に、何かに奪われる。
この世界は、そんな無駄な争いの中で見つけた、僕達の元居た世界とは全く異なる概念を持つ世界。
この世界に着いて間も無くして、月姫は自身に残された時間を全て使いきり、塵となって消えた。
その塵は言わば月姫のエネルギーそのもの。それが散って、この都を覆った。
その事によって、この世界は異能の力を身に付けた。
これが、異能力の始まりだ。』
『・・・なんで、僕の記憶を。』
『太陽君は、少しやんちゃでね。危なくて一緒に行動出来なかった。・・って言うのは冗談で、ただのエゴだよ。だけど、記憶が無いってだけでこうも人は変わるものなんだね。』
『・・これから、どうするんですか?』
『そうだね、単刀直入に言うよ。太陽に「この」世界を任せたい。』
『僕が、ですか・・』
『あぁ。君にしか頼めない事だ。』
『僕にそんな事、出来る訳ない。』
『今は、本当の力を忘れているからね。』
『本当の力?』
『とても強い力だ。使い方を間違えないでくれ。間違っても、この世界を壊す様な事は、してはいけないよ。』
『そんな事する訳ない!』
『・・能力は、何処の世界にも必要の無いものなのかも知れない。だけど、この力を信じたい。僕達の身体は、必要な力で出来ていると。
ただ奪うだけじゃない力の可能性。・・・太陽君に、もうひとつだけ頼みたい事がある。」
『なんですか?』
『僕はこれから、君に記憶を返す。僕に残されている時間を考えれば、間違いなく僕は消えるだろう。そうなった時、月姫の時と同じ事にならない様、僕のエネルギーを打ち消して欲しい。』
ーーーーーーーーーーーー銀河。
『記憶戻ったみたいだな。すごく懐かしい気がする、太陽にそう呼ばれるのわ。』
『そんな事よりも、その身体・・』
『あぁ、もうじき消えるな。』
『銀河・・』
『太陽には、良い友達が沢山出来た。今も太陽の事を心配して、ここまで来てくれてる「仲間」がいる。上手くやれるさ。後の事、任せたぞ。』
薄くなっていく「銀河」の身体。
きらきらと輝く小さな粒となって、静かに天へと溶けていく。
震える拳、揺れる肩、激しく乱れる息を整え、「太陽」は呟いた。
『いるんだろ?出てこいよ。』
「太陽」の其の小さな呼び掛けで姿を見せる「火憐」と「雫」。
二人は、うまく「太陽」の目が見られないで居る様だった。
気の掛け方も分からない。だけど、何か言葉を掛けなければと「火憐」は落ち着かないでいる様だった。
そんな「火憐」を横目に「雫」は沈黙していた。
「太陽」は意外にも堂々として見える。
何かを振り絞り「火憐」は言った。
『何か力になれる事があったら言って、力になるから。』
『俺は、用が済んだら元居た世界へ帰る。力になってもらう事なんて何も無い。』
『・・元居た世界って、争いばかりの世界なんでしょ?そんな危ない所に帰るより、このまま、この世界に居た方がいいんじゃないの? 』
『俺からすれば、此処に居るのと何も変わらない。この世界の奴らは、戦う力が無かったから争わなかっただけで、戦う力があれば争う。
元居た世界では全員が戦う力を持っている、だから争う。この世界も何れ(いずれ)はそうなる。』
『そんな事ない!』
「雫」が、この沈黙を切り裂く。
『これから、どうするの?』
『さぁな。』
「太陽」は「雫」と「火憐」に背を向け、とぼとぼと歩き出す。
刹那、その背は闇に攫われた。




