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ドラゴンさんこんにちは

「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!!! ラックうううう!!! 早く召喚しろおおおお!!!」


「待ってくれえええ!!!!! リキャストまであと十秒だ!!」


 俺はパーティメンバーに時間稼ぎを頼む。始めに召喚したスライムはとうの昔にウォーウルフの胃の中だ。


「死ぬうううう!!! 死んじゃううう!!!」


「ラックうう!!!」


「いっけええええ!!! 『サモン』!!」


 召喚陣が空間に現れる。


 ズドオオオオンン!


 大音響と共に巨体がその場に出てくる、当たりか!


「グオオおおおおお」


 俺は早速召喚された生き物を見てみる。それはどこからどう見てもドラゴンだった。


「フン」


 すかさず俺のスキルの一つの鑑定をするとそれが災害級のモンスターであるアークドラゴンであることが分かった。ウォーウルフは鼻息程度のブレスで焦げ跡になって消えた。そう、敵は倒したんだ。


「ふう……助かった!」


「ラック!! てめえは初めっから本気を出せよ!」


「そんなこと言われても……『ランダム召喚』なのはみんな知ってるだろ!」


「開き直ってんじゃねえよ! 死ぬかと思フゴオ!」


 俺に文句をつけようとした今回のリーダー、ガウルはアークドラゴンの爪先で弾かれ吹っ飛んだ。気の毒に……


「フン、人間風情が主に偉そうに言うでない。して、主は我を呼ぶほどの敵を用意したのだろうな?」


 俺は気まずそうに焦げ跡を指さす。


「主、まさかとは思うがあの()()相手に呼んだのではあるまい? ワレと釣り合う相手と言えば魔王級の相手だぞ」


 大変申し訳ないのだが本当のことを説明する。


「その……貴方は私のスキルの『ランダム召喚』で来たんですよ、それでですね、私たちが戦っていたのはそこで消し炭になった……」


 気まずい、ウォーウルフはそこそこのベテランパーティーなら倒せてしかるべき相手だ。一方アークドラゴンといえば王立騎士団が総出で討伐に出るような魔物だ。


「冗談を言うな、ワレを召喚できるほどの術者があの犬一匹に苦戦するはずがなかろう」


 言葉を介すアークドラゴンさんに俺のスキルを説明する。どこかの何かを完全に()()()()召喚するランダム召喚、戦力になる魔物を期待して使用したら貴方が出てきたと完全な情報開示をする。そして申し訳ないが同意の下でしか帰還が出来ないので呼び出したのは申し訳ないが帰っていただけないかとお願いをする。土下座だった。


 今は亡き両親が俺につけてくれた名前であるラック(幸運)という名はあまり神様に考慮されなかったらしい、こんな事が割とよく起きる。そのせいで高位モンスターに帰還していただく際の土下座にもすっかり磨きがかかってしまっている。


「ふむ、しかし主は我が害を加えることが出来ないような呪詛がかかっておるぞ? 主はそれなりの術者ではないのか?」


「いえ、俺には危害を加えられないんですが、それ以外にはそうでもないので……」


「ふむ……」


 ドラゴンの目が怪しく光った、あ、失言したかな。


「つまり我は主以外であればここに居る全員を屠ることも出来ると?」


「お願いします! ここは黙って帰ってください!」


 再びの土下座、頼むから何も言わずに帰ってくれ。


「まあよい、そこの人間」


「ひゃい!」


 ガウルはすくみ上がってびくつきながらアークドラゴンさんに向く。


「貴様からは黄金の気配がするな、それで手を打ってやろうではないか」


「え!? コレは今回の報酬の手付金で……」


「貴様は主と違うぞ? あの犬のようになりたいのか?」


「済みませんでしたあああ!!」


 ガウルが金貨の入った袋を投げてよこす。その中身を検分してちゃんと金貨が入っていることを確認したようだ。


「ふむ、いいだろう。今回はコレで許してやろう。次に呼ぶときは我にふさわしい敵を用意しておけ」


「では帰還をおねがいします」


 ぱあっと光の粒子になってドラゴンの巨体が消えていく。もちろんその手に握られた金貨の袋と一緒にだ。


 ドラゴンが完全に消えてからその場はようやく静寂を取り戻し、ギルドへの帰還と報告の準備が出来たのだった。


 ギルドにて。


「お前ふざけんなよラック!! 死ぬかと思ったぞ! しかも報酬の半分が消えたじゃねえか!」


「だから言ったじゃないか、何が出るか分からないから気をつけろって」


 俺の弁明もさっぱり用をなさず爆発物を見るような目で俺はギルド中の視線を集めていた。


「だからってスライムの次がドラゴンだなんて思わねえだろ! あんなもの呼ぶなら素直に上級冒険者雇った方が安全なんだよ!」


 ウォーウルフ討伐依頼の手付金である金貨五枚がドラゴンと一緒に消えたことで俺たちの報酬は成功報酬である金貨五枚になった。報酬の半分はドラゴンさんが持っていってしまった計算だ。


 俺はつくづく生まれたときに与えられたのがランダム召喚だったことに神を恨まずにはいられない。俺はランダムで『何か』を呼び出すことが出来る。そう、完全にランダムなのだ。召喚士は何を召喚するかでランクが決まる。スライムやゴブリンなら下級、ドラゴンや精霊なら上級だ。そして俺は呼び出すものが決まっていない。


 俺が生まれたときにスキルを見た司祭様は酷く困惑をし、このスキルの説明をして、俺が特定のスキルを生かした職業に就くことは不可能だろうと言った。それを聞いた両親は、せめて俺が召喚するものが役に立つように幸運を意味するラックと言う名前をつけた。十五歳の今、幸運を感じたことは滅多に無かった。


「お前を信じた俺がバカだったよ! 金貨は全員一枚ずつだ! そしてラック、お前にも金貨はやるがそれが手切れ金だ、もうお前とは組まないからな!」


 そう言って何度目か分からない別れを俺はあっさりと果たしてしまった。


 この能力だが完全に運任せなので無茶振りをされたパーティが俺を誘ってひたすら現場で召喚を繰り返すと言うことが多かった。せめてもの救いは俺の召喚スキルのリキャストが普通の召喚士より圧倒的に早い三十秒ということだ。この高速召喚を使って当たりのモンスターが出てくるまでみんなが俺を守りながら召喚を連発するのが基本戦術だった。


 俺は金貨一枚を払ってお釣りを受け取りエールを一杯頼んだ。こんな日は飲んで忘れてしまうに限る。


「うぃー……クソ……なんでこんなスキルなんだよ……」


 記憶も曖昧なまま俺はこの町の宿になんとか歩いていった。懐にあるお釣りは銀貨九枚に銅貨九枚、夜盗が狙うには十分な金額だが俺が何を呼び出すか分からないので襲おうなどと考える酔狂なやつもいなかった。


 もしかしたらドラゴンが出てくるかもしれない相手に金貨一枚にもならないお金目当てで狙うのは割に合わない。


 そうして無事に宿にたどり着くと俺はバタリとベッドに倒れ込んで眠ってしまった。


「ちくしょう……何で俺は……」


 最後まで考えることが出来ず意識は泥の中に沈んでいった。

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