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第Ⅰ6話

 ワラシはもうお父ちゃんの顔を舐めなくなった。ツムジに噛みつかれて以来、回数は減っていたが、それでも以前は月に一度くらい、例えば早朝、ツムジが目覚める前などに寄ってきて舐めていた。それが数ヶ月に一度となり、今ではもう舐めることを忘れてしまったようだ。寝る場所もお母ちゃんの寝床の、しかも足の周囲に限定され、お父ちゃんに接近することも難しくなった。お父ちゃんはそのことに思い至ると淋しくなるのだった。代りのようにカティアが、殆ど毎晩のようにお父ちゃんの顔を舐めている。

 皮膚疾患の話が前に出たが、ワラシとツムジがひどい。二匹とも、腹の皮膚のいつも掻く部分は黒く変色している。耳の内側の皮膚も一部黒く変色し、カサブタのように硬化していて、よく後ろ足で掻いている。お父ちゃんが原因を心理的なストレスと考えていることは既に述べた。ツムジはストレスを抱えこみやすい気質だし、ワラシにはツムジがストレス源になっている。お父ちゃんはそんなふうに考えて気分を沈ませるが、人間の健康に必要なものを日頃から探求して入手しているお母ちゃんは、乳酸菌生成エキスで腸内状態を改善するサプリメントや、玄米を発酵させて酵素を発生させた栄養食品などがワンちゃんにも有益として、食事に混ぜて食べさせ、或いは疾患部に塗布するのだ。

 カティアには皮膚疾患がない。お父ちゃんはカティアにはストレスが少ないからだと考えている。ストレスを抱えこまない気質だ。ツムジとワラシの間でどちらにも囚われず、独自性を維持して生きている。もう一つ考えられる理由は食べ物にたいする嗜好。カティアは刺身が大好きなのだ。他の物を鼻先に持っていくと、先ずじっくり嗅いで、食えそうだと判断するとおもむろに口を開けるカティアだが、刺身はパックンだ。パクッ、パクッ、と一呑みだ。ツムジとは対照的で、ツムジは生ものはだめ。牛肉の薄切りさえ、生では食べない。しかし他のものは、果物でもお菓子でも、何でもパクッ、だ。ダボハゼのように。カティアの生もの嗜好と皮膚の良好さとは関連があるのでは、とお父ちゃんは思うのだ。

 カティアの生もの好きにはウンチ食いというオマケもついている。また、床に落ちていたバアバの入れ歯を舐め、齧り、損傷するという行為にもつながっている。


 

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