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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第一部
9/46

八頁

「どうして貴方がここにいるのでしょう?」

「それはこちらのセリフだな」


 レヴィアの言葉は事務的だ。表情は動かず、声に抑揚は無い。ただ、小首を傾げる仕草だけが人間的で、だからこそ、人間らしくない。


「十年前、私と団長は、王女殿下の視察の護衛任務についておりました」

「そうだったな」


 レヴィアは会話をする気があまり無いらしい。自分の言うべきことを語る。

 それに慣れているクロは、特に何を思うでもなく、相槌を打った。


「ですから、私たちは王女殿下を保護しております。貴方も、協力してください、サースロウス卿」

「それは、〔暁の騎士団〕のことか?」

「はい、その通りです」


 やはり、レヴィアは無表情だった。


「断る」

「何故でしょうか?」

「あんたは、末端が犯罪行為をしていることを知っているか?」

「なるほど、相変わらずの理想家ということですか。はい、把握しております。しかし、国家にせよ、組織にせよ、光があれば、影があるものです」


 なるほど、とは言うが、相変わらず、とも言うのだから、レヴィアにとってクロの返答は予測できていたことだろう。それを示すように、やはり、無表情。まるで、感情が凍りついているかのように、平坦だった。


「突破します。【激流剣】」


 レヴィアが右手に構えたのは、刀身の無い剣、すなわち、柄である。そして、彼女が魔法を唱えれば、その柄に水で象られた刃が顕現する。

 それは一見して、ただの水に見えるかもしれない。だが、それは間違いである。水の刀身は、激流を閉じ込めた代物であり、刃を交わせば、鉄の刀身を削り斬り飛ばす程の威力を備えている。さらに


「っ危ね!?」


 レヴィアがその場を動くことなく、縦に剣を振るった。そして、クロが直前までいた場所を破壊した。


 水で象った刀身の形状は自由自在。振りに合わせて刀身を伸ばすのは序の口、鞭のような撓りを生むこともできる。


 先に述べた通り、クロの剣は鉄を超える強度を誇り、異常な重量を備えている。そのため、レヴィアの【激流剣】を迎え撃つことは容易であり、しかし、水の刀身であるが故にそれだけでは意味が無かった。

 だからこそ、レヴィアは【激流剣】を選択した。


 また、レヴィアがクロを脳天から断つように、剣を振る。

 防ぐことはできない。受け止めれば、鞭のような撓りでクロを撃つことも、そのまま、クロの剣を通過して、再び、水の刀身を伸ばすことでクロの身体を貫くこともできるからだ。クロは避ける他にない。


「大人しくする気はねぇ、みたいだな」

「祖国のためです」

「それを言い訳にすることは赦されねぇ!」


 レヴィアの猛攻を、クロは掻い潜る。徐々に、クロとレヴィアの間合いが縮まる。


 レヴィアには致命的な隙があった。薙ぎ払いの動作を取り入れることができなかったのだ。


 クロの魔法、【重圧】を警戒してのことである。

 重力を増幅して、凡ゆるモノを地に平伏させるその魔法は、縦の攻撃であれば、威力を増幅するだけだが、横の攻撃の悉くが無効化されてしまうのだ。


 遂に、レヴィアがクロの間合いへと入る。


 クロの構えは剣を両手で握った大上段。それは、クロが騎士時代に多用した十八番。


「【重撃】」

「【凍てつく刃(フリーズ・エッジ)】」


 クロの魔法がただでさえ重い剣撃をさらに重くする。


 レヴィアが咄嗟に選んだのは、水の刀身を鉄よりも硬く凍てつかせての防御。


 果たして、結果は


「うっ……」


 氷の刀身は砕かれ、レヴィアの左肩が骨折する。


「流石は、『黒玉(オニキス)』。最強の騎士です。腕は衰えていないようです」

「今はしがないD級冒険者だ」


 決着はついた。その判断の元、クロが拘束魔法を行使しようとした時、隙をつかれた。


「甘い」


 レヴィアの()()()クロの腹に撃ち込まれる。


「ぐっ!?」


 レヴィアの左肩は何事もなかったかのように、再生していた。


「また会いましょう、サースロウス卿」


 そう言い残して、レヴィアが、嘔吐くクロの横をすり抜けて行く。


「待っ……!」


 予測し得なかった奇襲に、クロのダメージは深くはないがキツかった。

 言葉も中途半端にしか出てこない。


「【黒道】」


 瞬間移動を強行する。しかし


「【氷床】【氷柱乱舞】」

「おわっ!?」


 床が凍てつき足を滑らせ、クロは体勢を崩す。そこへ容赦の無い氷柱の矢衾が襲い来る。


「ちっ!」


 クロは不恰好ながらもどうにか対応する。擦り傷ができたものの、行動に支障は無い。だが


「いねぇ」


 見れば、【氷床】が道のように続いている。おそらく、氷上を滑走して速度を上げたのだ。


 背後から複数の足音。どうやらレオパルトらが来たようだ。


「クロ!レヴィアは?」

「逃しちまった」

「そうか……いや、お前が無事で良かったよ。しかし、参ったな。証拠品は全て凍らせて砕かれていた。残っていた者もどうやら下っ端のようだった」


 どうやら、どこからか情報が漏れていたらしい。〔暁の騎士団〕の拠点はもぬけの殻だった。


「仕方ない。一旦、戻ろう」


 レオパルトのその言葉に応じて、冒険者たちは来た道を戻っていった。


 ……


「ふむ、レヴィアの魔力が遠ざかったわね?でも、ハルトくんとレオパルトくんはいるみたいだし、そちらに会えば、良いわよね?」


 商業都市に程近い森の中。


 年齢不詳の美女が独り言ちる。


 腰まで伸びた艶やかなストレートヘアとどこか蠱惑的なタレ目の瞳の色は、樹属性を示す豊かな深い濃緑色。


 左の目元には、チャームポイントの泣き黒子。


 長身で豊満な肉体を浮かび上がらせるが、露出の無い淡い青のドレスに身を包み、その上に明るい茶系のケープを羽織っている。

 右手に握るのは未だ生きた木の如き長杖。そして、頭に被るのは、鍔付きのとんがり帽子とくれば、誰もが魔女を連想するだろう。


「さてと、まずは街に辿り着かなくちゃ」


 クロたちの元へ、新たな再会が齎されようとしていた。


 その再会の名は、エロイース・ラストアーン。


 《七つの宝玉》が一人、『翠玉(エメラルド)』。


 謎多き女である。

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