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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第一部
7/46

六頁

 《七つの宝玉》


 かつて、精強な騎士団を有することで栄えた小国、シュバリア王国が誇った最強の騎士七名の総称であった。

 その由来は、騎士七名が、それぞれの魔法属性の専門家であったために、各属性のシンボルカラーに対応した宝石の称号を贈られていたことにある。


 しかし、十年前。シュバリア王国は、クーデターによって転覆。その際に、《七つの宝玉》のメンバーのほとんどは行方不明となっている。

 そんな中、唯一、世間の表舞台に立っているのが、国家転覆後、冒険者として活動し、瞬く間にS級と成ったレオパルト・グリーディアであった。


 彼が贈られたのは、嵐属性のシンボルカラーである紫に対応した『紫玉(アメジスト)』の称号であった。


 今でも、旧シュバリア王国で英雄視されている彼の元には、クーデター後、国として纏まり損ねた故に、権力闘争に明け暮れる貴族たちから勧誘の手紙が送られていると言う。


 そして、彼を味方につけた者は、たとえ外様であっても、豊かなシュバリア王国を治める上で重要な領地や権力を握ることができるだろうと、一部の野心家たちの間では噂になっていた。


 マーリンの脳裏にもまた、彼の利用価値が一瞬過ぎる。だが、旧シュバリア王国の土地は、ランスロ王国から遠く、レオパルトの機嫌を損ねることのリスクを考慮すれば、そのような野心は捨てるべきであると判断した。


 しかし、だからといって僅かな好奇心までも捨てられるわけではない。


「では、クロ殿は……」

「俺はしがないD級冒険者ですよ」

「……では、そういうことにしておきましょう」


 レオパルトと共にいるクロの正体を探るも、クロのあまりの威圧感に口を噤む。しかし、これでマーリンには正体を知られてしまったことだろう。


 まぁ、そこは問題ではない。マーリンならば、不用意に口を滑らせることはないだろうから、言質を取ることが重要なのである。

 クロは半ば言い訳的に、自身の無用心な行動をそのように理屈付けた。


「それで、頼みたいことなのですがね?」

「はい、何でしょうか?」


 レオパルトによって話は本筋へと戻る。マーリンもまた、商人としての見事な切替で対応した。


「〔暁の騎士団〕をご存知でしょうか?」

「〔暁の騎士団〕……確か、シュバリア王国の復興を謳うレジスタンス。ただ、その実態は闇市などでの用心棒をメインに活動している犯罪組織、でしたかな?」

「はい、それで私はギルドから、その組織の壊滅を依頼されていましてね」

「なるほど、この街に拠点があるのですな?」

「えぇ、そういうことです。マーリンさんには是非とも情報収集の協力をお願いしたく思います」

「わかりました。シュパイカー商家の全力をもって協力させていただきます」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」


 その様なやり取りで、レオパルトとマーリンは固く握手して場を締めた。


 ……


 翌日。クロたちは、シュパイカー商家の客間で一夜を明かした。


 クロが身支度をちょうど終えたところで、ノックが聞こえる。そして、クロの返事を待たずに、扉は開かれた。


「クロさん、おはようございます!」


 そこにいたのは、キネアであった。朝から元気いっぱいの様子で挨拶する。


「あぁ、おはよう。しかし、返事を聞かずに、扉を開いては、ノックの意味がないぞ」

「あぅ、ごめんなさい……あの!お祈りに行きませんか?」

「わかった、行こう」

「やったー!」


 クロの注意に消沈したものの、すぐさま元気を取り戻して、キネアはクロの元を訪れた用事を口にした。特に用事のないクロはそれに了承を示し立ち上がる。舞い上がるキネアに手を引かれて、部屋を出ていった。


 ……


 キネアの言うお祈りとは、教会での朝の礼拝のことだろう。


 この世界の宗教は、教義に多少の違いがあるものの、概ねは『原初の意思』と呼ばれる神を崇めるオリジン教のみが存在する。


 世界中でオリジン教だけが崇められている理由は諸説あるが、主な理由は魔法とされる。

 魔法は、意思を具象化する力であり、故に意思が神聖視されてきたのだろうとされる。


 創世神話においては、『はじまりは時空すらもない虚無に生まれた意思だった。意思はやがて、時空を創り出し、その時空に混沌とした物質を置き、運動を与えた。運動を得た物質は、やがて世界へと変化し、そこに生命が誕生したのだ。そして、知恵得た我らは、この世界を創りし意思を神と崇めることにしたのである。』と記されている。

 すなわち、時空は光と闇を、混沌とした物質は地と嵐を、運動は炎と氷を、生命は樹の属性を表しており、魔法に関連している。


 また、オリジン教の象徴(シンボル)は十字架である。

 十字架は原罪を表しており、オリジン教において原罪とは、人間が分化した罪とされる。


 かつて、楽園にあった人間たちは『原初の意思』の元に、統一された意思として存在していたが、楽園に生える禁断の果実を悪魔に唆されて食べてしまったことで、個々の意思を持ち、欲望を持ち、価値観の違いを生み、相争う醜い存在になってしまったのだと言う。


 故に、オリジン教の教義の第一は融和であり、争うことを禁じている。


 ……


「あれ、レオパルトさん?」

「うん?あぁ、あいつは熱心な信徒だからな。祈りに来たんだろう」

「そうなんですね」


 シュパイカー商家の程近く、上流階級の区画にあるためか、どこか品のある教会を訪れたクロとキネアは、レオパルトの姿を見つける。

 彼の方はそれに気づかずに、祈りを終えたところなのか教会から離れていった。


「朝食もまだだ。俺たちも手早く済ませて帰ろう」

「クロさんは、そこまで信心深くなさそうですね?」

「まぁ、あまり興味はないな」

「そんなことじゃ、死後に神様と同化できませんよ?輪廻の牢獄に囚われたままになっちゃいます」

「死後、か。どちらでも良いかなぁ」


 そんな他愛も無い会話をしながら、クロたちは教会に入っていった。

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