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キネアたちが入室する。なお、クロとレオパルトは騎士時代の癖なのかなんなのか、キネアの左右斜め後方にそれぞれ控えていた。
部屋はどうやら書斎であるらしい。黒檀製らしき机と革張りの椅子が一つずつ、壁は本棚となってぎっしりと書類や書物が整理され収まっていた。物静かな佇まいの観葉植物が窓際に飾られ、床を硬めの絨毯が覆っていた。
実用性と気品を両立させた、成功をおさめた商人らしい部屋と言えるだろう。
そんな洗練された部屋にいたのは、三人。
キネアたちから見て、左側。書斎机の斜め前に控えた男女二人。
そして、この部屋にある唯一の椅子に深く腰掛ける初老の男である。
男女は、キネアの姿に笑みを浮かべ、次いで登場したクロたちに怪訝な様子。初老の男は、表情を動かさなかった。
「ただいま戻りました、お祖父様、お母様、お父様」
「おぉ、お帰り!キネア!」
「あなたが無事で何よりだわ!」
男女、キネアの両親が勢い良く娘の帰還の挨拶に応える。そして、お祖父様と呼ばれた初老の男。シュパイカー商家当代の方は
「よく戻った、キネア。それで仕入れはどうだった?」
感情の無い事務的な言葉を発した。
「はい、お祖父様。仕入れは概ね成功いたしました」
「ほう」
「それは凄い!流石、俺の娘だ!」
「なんて立派なんでしょう!」
ギロリと睨むような視線が当代から放たれるも、キネアがそれを感じ取る間も無く、両親の褒め殺しが始まった。
「えぇい!少しは黙らんか!まだ、報告の途中じゃろうが!」
当代は青筋を浮かべ、息子夫婦を怒鳴りつけた。
「し、しかし、父さん、キネアは初めて一人での仕入れに成功を……」
「そ、そうですわ、お父さん。少しばかり褒めても問題は……」
「お前たちがそうやって甘やかすから、儂が厳しくせにゃならんのだろうが!儂だって、本当は孫娘が可愛くて仕方ないわぁ!えぇい!話が進まぬから、お前たちは部屋から出ろ!」
当代のあまりの剣幕に、息子夫婦は早々に白旗を上げて、いそいそと退室していった。なお、キネアはその様子はいつものことらしく、動揺は些かもなかった。
「はぁ、それではキネア。後ろの方たちのことも含めて、改めて報告しなさい」
「はい、お祖父様」
場を仕切り直した当代に従って、キネアは事の経緯を報告した。
「なるほど。まずは、クロ殿、レオパルト殿、孫娘の命をお救いいただき、誠にありがとうございました」
話を聞き終えた当代が深々と頭を下げる。
「つきましては、この街に滞在する間の宿はこちらで手配させていただきます。また、何か協力できることがあれば、遠慮せず申してください。この老骨が必ずや力になりましょう」
「有難い申し出です。是非、よろしくお願いします。ところで、お名前を伺っても?」
当代の言葉に、レオパルトが対応した。クロの方は、場慣れしていないのか、直立不動であった。
「おぉ、これは失礼いたしました。儂は、シュパイカー商家当代のマーリン・シュパイカーと申します。よろしくお願いします」
「はい、マーリンさん、よろしくお願いします」
「さて、レオパルト殿。少々、お待ちいただきたい」
「えぇ、構いませんよ」
「ありがとうございます」
自己紹介を終えて、マーリンは孫娘に向き直る。
「キネア」
「はい!」
「護衛代まで仕入れに使うとは、勉強は算数からやり直した方が良いようだなぁ?」
「えぇ!?」
祖父から孫娘への説教が始まった。
……
「次からは気をつけるように」
「はい!」
小一時間ほど説教が続けられたものの、キネアの返事は明るい。所々に祖父馬鹿の入った説教では、それも当たり前だろう。マーリンは、今ひとつ強く言えてはいなかった。
そこへ部屋の扉がノックされた。
「入れ」
マーリンは入室を許可すれば、扉を開けて入室したのはアルネだった。
「どうしたアルネ?」
「そろそろ終わった頃合いかと思いまして。お嬢様への説教はできましたか、大旦那様?」
「あ、あぁ、もちろんだ」
アルネの問い掛けに、言い澱むマーリン。その姿は、先程のキネアの様子にそっくりだった。
「その様子では、やはり足りなさそうですね。お嬢様をお借りしますよ?」
「いや、それは……」
「お借りしますよ?」
「……わかった」
どうやらキネアはアルネからのお小言を頂戴するらしい。
「えぇ!?お祖父様、お助けー!!」
「ほら、行きますよ、お嬢様」
アルネが一番怖いらしく、キネアが必死に祖父に助けを求めるも、祖父は憐れな孫娘と目を合わせようとは決してしなかった。
「オッホン……それで、お二人へのお礼なのだが」
何事もなかったかのように、マーリンは話を進めようとする。クロたちも特に突っ込む気はなく、それに乗っかった。
「さて、まずはこちらを私のギルドカードです」
「うむ」
レオパルトがマーリンに、掌サイズの鉄板を渡す。それは冒険者ギルドが発行している冒険者の身分証であった。俗に、ギルドカードと呼ばれている。
「S級ですと!?それでレオパルトということは、まさか!貴方は、『紫玉』?」
「えぇ、そうです」
「なんと!あのシュバリア王国が誇った最強の騎士七名、《七つの宝玉》のお一人に出会えるとは!年甲斐も無く運命を感じてしまいますなぁ!」
レオパルトの正体を知って、マーリンが上機嫌に笑った。
『冒険者の闘級と魔物の対応
S級:英雄。大国規模。
A級:天才。都市規模。
B級:秀才。街規模。
C級:一流。村規模。
D級:ベテラン。護衛依頼も一応、いける。
E級:いっぱし。一般人では困難な戦い。
F級:駆け出し。村の力自慢くらいならいける。
G級:一般人。ほとんど無害。子どもだと危険なこともある。 』
だいたいです、だいたい。




