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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第二部
42/46

三十九頁

 瘴気は、黒い靄となって瞬く間に戦場に拡がった。


 当然、その様子はハルトたちも確認することができた。


「何だ、あれは?」


 誰の呟きだったろうか。しかし、その正体を確かめる間はなかった。


「ぐっ!?」


 瘴気によって視界の悪い中、誰かが呻き声を上げる。


「どうした!?」


 それを聞いた部隊長が大声で問うた。


「し、死体が!?死体が!?」

「落ち着け!死体がどうした!?」


 慌てた様子の言葉に、部隊長が力強く発声して落ち着かせようとする。


「死体が動いています!」

「何!?」


 その言葉を受けて、部隊長は思い出した。そういえば、自身の隣には今しがた討ち果たしたばかりの敵兵がいたはずだと。


「っ!」


 思わず、そちらを振り向く。そこには、脚を断たれたがために、腕を使って這いずり寄ろうとしている敵兵の死体の姿があった。


屍霊(リビングデッド)か?」


 動く死体の様子に直近の危険は無いと思い、その正体を看破しようと思考に集中した。


「ぐっ!?」


 しかし、直ぐにその思考は途切れる。背後から近づいてきたもう一つの死体に殴られたのだ。


「くそっ!?」


 背後に向かって、大雑把に剣を振る。確かな手応えを感じながら、部隊長はほとんど殴り飛ばしたような死体の姿を確認しようと視線を彷徨わせる。


 死体は直ぐに見つかった。ノロノロと起きあがろうとするそれに素早く近寄り、部隊長は死体の脚を斬り落とした。そして、心臓の辺りを抉る。


「魔石が無い。こいつら屍鬼(ゾンビ)じゃねぇのか?」


 そこまで確認したところで、突風が吹き抜ける。それにより、瘴気が散らされ、視界が開けた。


「これは、本陣の魔法か。……なっ!?」


 突風の正体を呟きながら、部隊長が開けた視界を確認し、絶句した。


 そこにあった光景は、正に阿鼻叫喚の地獄絵図。


 敵味方関係無く、死者の群れに襲われる生者の姿だった。


 冷静に反撃する者もいるが、大半の者が生前に肩を並べた味方の死体にまで襲われたため混乱していた。


「くそっ!?」


 悪態を吐きながら、部隊長は直近の部下の助太刀に向かう。


 ……


「これは……」


 思わずハルトの口から言葉が漏れる。


 ただ、冷静にその光景の原因を探した。この冒涜的な光景への怒りはある。だが、国王の護衛にいる自分が飛び出すわけにはいかないと、拳を堅く握り締めた。


「ひでぇ光景だ」


 とそこに聞こえる低い声。


 グラナダの代わりに戻ったラインハルトだ。


「どうやら死霊術(ネクロマンシー)のようね」


 さらに、エロイースもいる。そして、魔法の造詣に深く精通する魔女は、この光景の原因を言い当てる。


「あそこに浮いているのが、おそらく死霊術師(ネクロマンサー)。そして、叛逆の首魁デオン・ジョンドゥーアね」


 エロイースの指し示す先に、確かにいた。


「デオン、何故?」


 アーサーは、かつての友が邪法に手を染めた姿を見て、痛ましげに呟く。何かを掴むように、手を伸ばそうとするも、我に返って頭を振る。


「プラウドルチェ卿とラストアーン卿は魔法により戦場の対処を、サースロウス卿は余の護衛任務を離れ、ジョンドゥーア公爵改め死霊術師デオンを討て」

「「「はっ!」」」


 アーサーはすぐさま対処の命令を下す。三人の騎士は声を揃えて了解の呼気を発した。


「お父さん?ハクは?」

「ハクは、ここに居てくれ。直ぐに済む」

「わかった」


 ハクの問い掛けにハルトが答え、ハクはそれに素直に従った。


「【黒道】」


 そして、ハルトは移動魔法を唱え、その場から姿を消した。


「さて、もう一踏ん張りといくか」


 ラインハルトが大剣を鋒を空に向け、胸の前に構える。それはどこか祈るように見えた。


「【千里眼(ヴィジョン)】」


 補助魔法により戦場を俯瞰する。


「敵味方識別。敵性体捕捉。標準補正術式展開。【流星光雨(ミーティア・レイン)】!」


 大剣の鋒に光が集まり、ラインハルトの魔法が構築されてゆく。そして、充分な魔力を与えられたそれが解き放たれる。


 花火のように上空に放たれた光球は、雲よりも高い位置で停止する。


 次の瞬間。弾けるように、光球から無数の光線が降り注いだ。


 それは、次々と戦場の死体を過たず貫いていった。


 戦場の兵士たちは、その光景に見入り、魅入られ、混乱を鎮めてゆく。


「【安静香(リラックス・アロマ)】」


 そこに、エロイースの魔法が効果を発揮する。


 安静効果のある香りが戦場を漂い、兵士たちの混乱がさらに鎮まっていった。


 ……


「【浮遊(フロート)】」


 デオンの目の前に瞬間移動したハルトは、一先ずデオンの浮遊に合わせ、魔法を行使した。


 そこに、ラインハルトの【流星光雨】が煌めく。


「やぁ、サースロウス卿。久しぶりだね」


 どこか白々しく、友好的に微笑を浮かべてデオンが言葉を発する。


「ジョンドゥーア卿。何故、裏切った」


 ハルトは挨拶を返さず、ただ確認しなければならないことを尋ねた。


「何故、ね。では、君は何故、忠誠を誓っているんだい?」


 どこか狂気的に、目を見開いたニヤニヤ顔で、デオンが問い掛け返す。


「俺は別に、忠誠を誓ってるつもりは無い。最初は、親父への義理だった。今度は、取引があった。それだけだ」

「ふ〜ん。じゃあ、私と取引しないか?」


 かくんと身体を腰で折り、デオンは下から見上げるようにしながら提案する。


「断る」

「何故だい?」

「それは俺の騎士道に反するからだ」


 ばね仕掛けのようにデオンが体勢を戻した。

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