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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第一部
4/46

三頁

 だだっ広い草原に敷かれた街道は、多くの人の往来によって踏み固められただけの荒れた道であった。その道を走り行く人影が二つ。


 ラナックからマチャルアに移動中のクロとレオパルトであった。

 二人の表情に疲れた様子はなく、それどころかどこか晴々としていた。


 彼らの次なる目的地、商業都市マチャルアは、田舎町ラナックの所属するアリバナ王国の西の隣国、ランスロ王国の都市の一つである。

 国境を越えるわけであるから、当然、通常はどこかのキャラバンに相乗りするなり、そうでなくとも馬を買うべき距離となる。


 しかし、二人はクロの知り合いへの挨拶なり、旅支度なりを整えると、ラナックからここまで自らの脚で移動して来ていた。

 これは、二人が長年の魔物討伐によって蓄えた魔力のために常人離れした身体能力を有するが故であり、実際、馬よりも早く長く走ることが可能であった。


 既に旅の道程は、国境を越えて次なる人里こそがマチャルアであるという最終盤である。


「キャーー!!」


 唐突に聞こえてきたのは、女性の悲鳴。


 クロたちはそれに素早く反応して、前方を注視する。見れば、魔物に襲われている馬車が一台。


「先に行く」

「わかった」


 短く言葉を交わして、クロが瞬間移動魔法を発動させる。


「【黒道】」


 一瞬にして、クロの姿が馬車の側に現れる。


 それを見た者は、突然の出来事に驚き、思考に空白ができた。それは魔物とて例外ではない。


 どうやら魔物は、草原に生息する中では一般的な狗鬼(コボルト)であった。妖鬼系の魔物としては、森に生息する小鬼(ゴブリン)と同等かそれ以下の雑魚である。

 とはいえ、妖鬼系の特徴である人型故の知能の高さは厄介で、道具を使い、群れを成すために一般人では忽ちのうちに彼らの餌になってしまうだろう。


 今ここにも、短い角を一本生やした犬のような頭部の狗鬼たちが数十匹ほど群れている。


「ふっ!」


 クロは近場にいた狗鬼の首を斬る。


「ワォ?……ワォォオオオン!!」


 狗鬼の最大の特徴は仲間意識の高さである。小鬼であれば、自分たちよりも強い敵に出逢えば、仲間を肉盾にしてでも我先にと逃げ出すが、彼らは敵討ちに熱心で、仲間のためならば死も厭わぬほど勇敢である。連携力も高く、慢心の強い若い冒険者が、小鬼と同じ感覚で挑んで死亡する話は、ベテラン冒険者の酒の肴の一つであった。


 この群れも例に漏れず、仲間意識は高いようであった。リーダーらしき個体の叫びに、狗鬼たちは我先にとクロへと襲い掛かる。


 冒険者の遺品らしき錆びた刃がクロに迫る。


「危ない!?」


 悲鳴の主らしき女性の声がした。


 しかし、女性が想像しただろう事態は現実とはならない。


「はっ!」


 クロの無造作に払った一振りが、狗鬼を数匹纏めて吹き飛ばす。


「嘘っ!?」


 あまりに綺麗に吹き飛んだものだから、女性から思わずといった声が漏れる。


「しっ!」


 そこからは呆気ないものである。全く危なげなく、クロの剣閃が狗鬼の悉くを斬滅した。


 レオパルトが追いつく頃には、撲殺か斬殺された狗鬼の死体が無造作に転がっているだけだった。


 ……


「本当に、ありがとうございました!」


 勢い良くそう言って頭を下げる女性は、名をキネア・シュパイカーと言う。

 地属性を表した艶やかな金髪ポニーテールと金瞳に、可愛らしい容姿と豊かな双丘を備えた美少女であった。


 彼女はシュパイカー商家当代の孫娘にあたり、今は家の商売の手伝い兼修行の最中らしい。馬車の荷台には、多くの商品らしき物が載っている。

 護衛がいないのは、彼女が護衛代まで仕入れに使った挙句、シュパイカー商家が商業都市マチャルアに拠点を構えるほどには、それなりに大きな家であるために強力な魔法が使え、この草原の魔物の出没頻度が低かったからであった。


「いや〜、行きは何も出なかったので、つい」


 頭を片手で掻きながら、若干の羞恥に顔を紅くするキネア。その様子に、毒気を抜かれながらも、元騎士としてクロが口を開く。


「いくら魔法が使えるからといって、実戦を経験していない奴が、魔物と戦うのは無謀だ。シュパイカー商家がそれなりに有名なら、後払いでも受けてくれる冒険者もいただろうに。今後は、危機管理をしっかりするんだな。命あっての物種だからな?」

「はい、仰る通りですぅ……」


 クロの言葉に消沈するキネア。それをニヤニヤと眺めていたレオパルトが、手を叩いて注目を集める。


「さて、いつまでもここに留まっていても仕方ない。ここからは私たちが護衛してあげるから、移動を再開しようか」

「ご、護衛してくださるんですか?」


 どうやらレオパルトの方は後からやって来たため、あまり信用されていないらしい。キネアは、レオパルトの顔を見た後、すぐにクロの方を向いて問い掛ける。


「そうだな。この後、さらに不運が重なって死なれても、寝覚めが悪いからな。護衛してやる」

「あ、ありがとうございます!都市に着いたらお礼はいたしますので、よろしくお願いします!」

「あ、あぁ」


 喜びのままにクロの手を握り、それをブンブンと上下に振るキネア。それに対して、少々引き気味のクロが可笑しくて、レオパルトは片手で口元を隠しながらも身を震わせていた。

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