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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第二部
39/46

三十六頁

 レヴィアの行使した防御魔法は、その名の通り硝子のように向こうが透けて見えている。


 そこから見るに、襲撃者たちは未だ屋敷の敷地内には侵入していない。外にいた兵士は矢に討たれてしまっていた。


「一先ず、屋敷に向かいましょう」

「そうね。貴女に任せるわ、レヴィア」


 レヴィアの発言に、王妃が応える。


 レヴィアは自身の防御魔法にさらに干渉して、屋敷まで続く道をつくる。


 騎士の国の人間である王族だ。戦場では一瞬が命取りになると理解して、しかし、ドレスが走りづらいのもあって、王妃と王女は小走りで屋敷に向かう。それにレヴィアとキネアもついて行く。


 屋敷の扉を開ければ、そこにはレッドレイジ家嫡男がいた。


「ご無事で何よりで御座います、王妃殿下、王女殿下」

「戦いが終わるまで、無事ではないわね」


 アナスタシアの皮肉めいた返答に、レッドレイジ家嫡男の顔が引き攣った。


「はっ、王女殿下の仰る通りに御座います。速やかな事態の解決を目指す所存です」


 何とか持ち直したレッドレイジ家嫡男がそう言うと、王妃は一つ頷いて口を開く。


「レヴィア、貴女が出なさい」

「承知致しました。キネアさん」

「はい!?」


 レヴィアは王妃の命令に頷いて、キネアに呼び掛ける。それを予測していなかったキネアの返事は少し上擦っていたが、気にせずにレヴィアは口を開く。


「万が一の場合は、貴女も戦うことになります。ご覚悟を」

「……はい、ありがとうございます」


 キネアの返答に満足したのか否か、無表情でわからないが、一つ頷いて、レヴィアは屋敷の外にに出ていった。


 ……


「【氷硝子(アイスグラス)()城壁(ランパート)】」


 外に出たレヴィアは、防御魔法を屋敷を囲うように展開する。


 そして、それを合図とするかのように、今まで降り注いでいた矢の雨が止まる。


「「「おおおお!!」」」


 次の瞬間、雄叫びを上げた傭兵たちが突撃する。


「【氷柱乱舞】」


 静かな詠唱が魔法を紡ぐ。


 数十の鋭利な氷柱が、屋敷の門に殺到していた傭兵たちに襲い掛かる。


「ぐっ!?」「がぁ!」「マジかよ!?」


「怯むなぁ!!王族の首を取ったヤツには、金貨十枚くれてやるぞ!!」


 この世界において、魔法は特権だ。あらゆる事象に対する理解のために、教育を受けねばまともに扱うことはできない。そのため、そのほとんどが庶民階級出身の傭兵たちからすれば、厄介な代物である。


 しかし、ガンダの率いる傭兵団は歴戦の猛者。使えないなりに魔法への対処は心得ている。そこに、特別報酬の話が乗っかれば、士気は否応無く向上する。


「広がれ!的を絞らせるな!」

「チッ!なんだこの氷壁は壊せねぇぞ!」

「相手は一人だ!詠唱の隙を与えるな!」


 傭兵たちは数に任せて行動した。


 広がることで的を絞らせず、間断なく攻撃して隙を作らない。さらに、レヴィアを無視して標的を優先する者もいる。


 レヴィアとて、流石に屋敷の裏手に回った者に対処することはできない。世界有数の実力者である《宝玉》の魔法とて、いつかは突破されるだろうが、そこは自身の実力を信じるほかない。


「おら!」「せい!」「とりゃあ!」


 間断なく迫る傭兵を、レヴィアは体術のみで回避してゆく。


 しかし、それは魔法を放つ隙が無いということにはならない。


「このまま、押し切れ!!」


 何とも雑な指示が飛ぶ。しかし、それは傭兵たちに優勢であるかのような感覚を与え、士気を維持する上で悪手とも言えない。


 ただ、相手が悪かった。


「【激流剣】」

「「「は……?」」」


 レヴィアが柄しかない奇妙な剣を握ったかと思えば、魔法によって水流の刀身が形作られる。


 傭兵たちからすれば、魔法を使う隙などなかったはず、そう思っているからこそ、意識に空隙が生まれる。


 振るわれた【激流剣】。それは伸長することで、レヴィアの周囲にいた傭兵の首を刈り取った。


「撤退だ!」


 それを見たガンダは即座に、撤退の指示を出す。


 傭兵たちも、レヴィアの圧倒的な実力を理解して、我先にと撤退して行く。


 レヴィアはそれを静かに見守った。


 ……


「ボス、随分あっさり撤退しましたね」

「あんな化け物とやり合いたかねぇよ」

「そりゃ、そうですけどねぇ」


 撤退の道中、若い団員がガンダに話し掛ける。


「そもそもだ。今回の依頼は撤退しても失敗じゃねぇんだ」

「えっ、それどんな依頼ですか?」

「そりゃ、オマエ、陽動に決まってんだろ」


 ……


「撤退して行くわね」

「そのようですね」


 王妃の言葉にレッドレイジ家嫡男が頷く。ここは屋敷の三階に位置するベランダである。そこから、戦況を確認していた。


 撤退して行く傭兵団に、空気が弛緩してゆく。


「キネア、お茶を淹れてきてくれ」

「かしこまりました」


 アナスタシアがキネアにそんな指示を出す。


 それによって、外を見ていたキネアの視線が屋敷の方に向かい、違和感を抱かせる。


 一人の兵士が未だ、緊張しているように感じられ、次の瞬間。


「!?」


 こちらに向かって突撃する。その手には、短剣。


 キネアの思考に空白が生まれ、短剣が突き刺さる。


「!?」


 暗殺者の表情に驚愕が生まれる。キネアは思考力を取り戻し、そして、魔法を行使する。


「【砂散弾(サンド・ショット)】!」


 空気中の塵が寄り集まってできた砂が、暗殺者の顔面に近距離で叩き込まれた。


 そこに他の兵士が駆けつけ、目を潰された暗殺者を確保する。


「キネア!大丈夫か!?」

「はい、大丈夫です」


 王妃たちもその騒ぎに気づき、アナスタシアがキネアを心配する。

 それに対して、キネアはあっさりと答え、それを為した理由を服の中から取り出す。


「これのおかげで」

「そう言えば、そうだったな。エロイースから護法の首飾りを受け取っていたな」


 護法の首飾り。それは、着用者の危機に応じて結界を展開する魔道具である。

 キネアはこれを、エロイースから念のために受け取っていた。


「他に潜んでいないとも限らん。お茶は良いから、しばらく側にいろ」

「はい、かしこまりました」


 それからレヴィアとも合流し、その後は何事も無く王妃たちは戦争の終わりを待つのであった。

『戦場のハイエナ

 ガンダ・スクツオフ率いる傭兵団の名称。略奪行為を主な収入源とする傭兵稼業を皮肉ってハイエナとしたらしい。』


考えてたんだが、出す機会がなかった……


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