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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第二部
37/46

三十四頁

 無造作に振るった剣撃が、一人また一人と命を斬り捨てる。


 愉しげに嗤い、返り血を浴びたその様は正に鬼。


 初老の剣士が、国王軍の内を斬り進む。


「あぁ、ようやくようやくだ。ようやく、死合ができようぞ」


「何だ?!コイツは!」「囲め!囲んで、相手にしろ!」「ぐぁあ!?」


 国王軍は必死の形相で、その鬼に挑みかかる。されど、その猛勇は意味を為さず、呆気なく鬼が斬り捨てる。


 心ここに在らずの様子なれど、その鬼が放つ剣撃は、鮮やかに骨肉を斬り離す。


「何処だ、何処にいる。『剣聖』は何処にいる」


「『剣聖』だと!?」「グラナダ様を探している?」「コイツ『剣鬼』じゃないか?」「何!?あの剣狂いだと!」


 鬼の呟きが、その正体を知らしめる。


 S級冒険者『剣鬼』アッシュ・ウォーガレイド。


 剣の極みに至らんと活動する一人の男。


 破った道場、数知れず。


 嘘か真か、剣一本で竜を討つ。


 女も富も名声も投げ捨てて、邁進するは剣の道。


「ふふ、疾く疾くヤりたいなぁ」


 嗤う。そして、斬る。


 正体が知れようと、その剣の前には為す術無し。


「うん?」


 鬼が視界に何かを捉える。


 頂きとの死合を夢想する鬼の、興味を唆る。


「ほう、面白い」


 嗤いが深まる。


 地を砕かんばかりに踏み込んだ。


「はっ?」「えっ?」「ぐっ!?」


 立ち塞がっていた国王軍が、一間に斬り捨てられる。


 それを為した鬼は、(あか)に斬り掛かる。


 紅は僅かに目を見開いて、優雅に剣を合わせる。


 紅の剣身を滑り落ち、鬼の剣が空を斬る。


「ガァアア!」


 側にあった獣が猛る。獲物を()るな、と。


「良いではないか。オマエさんはあちらと(じゃ)れておれ」


 獣の一撃を避け、鬼は獣の背後に立つ。そのような言葉を述べながら、蹴りを入れてやる。


 たたらを踏んだ獣の先に、白い騎士が大剣を構えていた。


「ガァアアアア!!!」


 それへの憎悪が湧き上がる。鬼を忘れて、獣はそれに突き進んだ。


「さて、儂はアッシュ・ウォーガレイドだ。オマエの名前は何だ?」


「名乗られたならば、名乗り返すが礼儀でしょうね。私は、シュバリア王国の武家が一つ、レッドレイジ家が長女にして、王国の象徴《七つの宝玉》が末席、『紅玉(ガーネット)』アスカ・レッドレイジにでございます。以後お見知り置きを」


 紅が、優雅に上品に、カーテシーで礼を執る。


「師はあるか」

「先代『紅玉』モルド・レッドレイジ」


 鬼の問いに、紅が間髪入れず答える。


「故人だったか、残念だ。まぁ、良い。儂は、オマエに決闘を申し込む」

「受けましょう」


 言葉は終わり。


 両者、剣を構える。


 互い同時に、踏み込んだ。


 そして、ぶつかる。


 アッシュが振るうは、剛の剣。


 アスカが振るうは、柔の剣。


 なれど、どちらも同じ攻めの剣。


 互い守りは無い。攻性の剣撃同士がぶつかり合う。


 そこに魅せられるは、荒々しくも美しき剣舞が如く。


 互いの剣は高みに届き、故に無駄が無く、故に調和する。


 アスカの【火愚楽】が、互いの顔を蒼く浮き上がらせる。


 それは酷く幻想的な薄氷舞台で踊る舞踏会。


 ……


「ガァアアアア!!!」


 治療を完了させたラインハルト目掛けて、『白騎士』が突貫する。


「でぇあ!」


 その爪撃に合わせ、ラインハルトは大剣を振るう。


「ぐっ!?」「グゥ!?」


 ラインハルトは魔物の膂力に呻き、『白騎士』は【光熱剣】の熱気に呻く。


「レオ……なのか?」


 大剣と爪で鍔迫り合いながら、ラインハルトがぽつりと呟く。


「!?」


 弾かれるように、『白騎士』が背後に跳ぶ。


 その表情は、驚愕と憎悪と僅かばかりの怯えがあった。


 レオ。レオニダス・プラウドルチェ。


 ラインハルトの息子の名だ。


 ラインハルトの妻子は、八年前に殺されたはずだった。


 ラインハルトが護る王女引き渡しの人質として捕らえられ、国を優先したラインハルトが見捨てた。


 しかし、今ここに息子に似た瞳と動きをした魔人がいる。


 ラインハルトは知る由もないが、それはオリジン教統一派の作為によるものであり、ここにいるのは紛れも無く、レオニダスが魔化した人狼だった。


「すまない……すまなかった!!」


 それを確信したラインハルトのとった行動は、謝罪。


 それに対するレオニダスの反応は、怒り、だった。


「アオオォォォォォォォオオオオオオオオン!!!」


 今更、謝るな!


 信念を貫け!


 そんな姿は見たくなかった!


 騎士として、父として、ラインハルトに理想を見たレオニダスからすれば、それはラインハルトへの侮辱だった。


 理性が飛ぶ。あったはずの残滓さえも魔に呑まれた。


「ガァアア!!!!」


 憎悪一色に染まったその瞳が、ラインハルトにもそれを悟らせる。


「クソ親父、か」


 もう一人の義息(むすこ)に言われたそれを、ラインハルトは自嘲気味に呟いた。


 あぁ、その通りだ。


 私は、父親失格だ。


 だからこそ、貫くと決めたはず。


 ここに未練を断ち斬ろう。


「来い!」


 【光熱剣】にさらなる魔力を注ぐ。


 熱き輝きが高まり、視界を歪める。


「ッ!!」


 レオニダスが踏み込む。


 交差は一瞬。


 ラインハルトの頬に赤い線が四本。


 レオニダスの首が落ちた。


「相変わらず、戦いは苦手、か」

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