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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第二部
35/46

三十二頁

 両軍睨み合い。いつ始まっても、おかしくはない。


 口上は無い。既に、幾度もの使者のやりとりがあり、お互いに引くことがないのは分かっている。叛逆者に掛ける慈悲は無く、邪魔な正統者に掛ける義理も無い。


 号令を掛けたのは、叛逆軍からだった。


「進軍せよ」


 デオン・ジョンドゥーアの厳かな言葉に、彼の部下が伝令を走らせる。戦太鼓が鳴らされ、速やかに命令が行き渡る。


 叛逆軍前列が一歩を踏み出す。


 それを確認した国王軍は戦意を高め、我らが王の号令を待つ。


「……」


 アーサー・シャルルゴンはその様子を見て、その瞳に一瞬、哀しみが過ぎる。だが、それも束の間のこと、既にその表情は厳かに引き締められ、低く命ずる。


「進軍せよ」


 忽ちのうちに、国王軍にも戦太鼓が響き渡る。そして、前列が歩を進める。


 両軍の距離が、徐々に、徐々に、縮まってゆく。


 両軍弓兵部隊が、初撃のために気を昂らせる。


「「構え!」」


 両軍からほぼ同時に、弓兵たちへの号令が響き渡る。


 既に、その距離は弓の間合い。


「「放て!!」」


 やはり、同時に張り詰める弦が解き放たれ、それに番られた矢玉が空に軌跡を描いた。


 その多くが空中でぶつかり合い失速する。隙間を抜けた小勢が、盾を掲げる兵士たちへと降り注ぐ。


「「突撃!」」


 号令は同時。なれど、迅速にその歩みを疾駆に変えたのは、国王軍。


「「「うぉおおおおおお!!!」」」


 幾重にもなった雄叫びが、あたかも怪物の咆哮のように迫り来る。


 叛逆軍は対応に遅れ、怯み、硬直して、無防備にその一撃を受けることとなった。


 ……


「やはり、こちらが劣るか」


 美貌の公爵デオンが呟く。されど、そこに悲嘆はなく、自軍が負けることは想定内のこととして、笑みを浮かべていた。


 それに反応するモノはいない。公爵の側に控えるモノは無表情を保っていた。


「『白騎士』を放て」


 公爵のその言葉に、何人かの部下が行動する。


 白い毛並みの人狼を拘束した台が運ばれ、その爛々とした紅眼を戦場に向けた状態で、その拘束を解く。


「アオォォォォォオオオン!!!」


 遠吠えを一つして、『白騎士』が戦場に駆ける。


 ……


 戦場に響き渡る遠吠えなれど、熱気に当てられた多くの兵は聞き取れなかった。叛逆軍の後方にいた兵が思わず、振り返ったのみ。


 そして、次の間には『白騎士』の進路上にいた叛逆軍が吹き飛ばされた。


 隷属の首輪によって、敵味方の識別はできている。だが、それだけだ。進路上にいて邪魔ならば、味方であろうと蹴散らすのみ。


 既にして、敗戦濃厚であった叛逆軍は、その奇襲にも似た一撃に恐慌をきたす。


 手を出さなければ、国王軍に突っ込んだ『白騎士』に余計な一撃を入れようとする。


 隊長格には、『白騎士』について一応の連絡が入っていたものの、その命令が届く筈もなく、敵対された『白騎士』は容赦無くその兵を吹き飛ばす。そして、国王軍を目指す。


 およそ叛逆軍の一割を犠牲にして、『白騎士』は辿り着く。


人狼(サバト)、だと!?」


 国王軍の中から、そのような驚愕が聞こえる。だが、『白騎士』はそれよりも上だ。


「どこっ、がは!?」


 『白騎士』の動きに目が追いつかず、一人の国王軍兵士が斃れる。


「囲め!」「いや、引け!」


 『白騎士』への対応が分かれる。囲むのは、そのまま人狼(サバト)と判断した者たち。引こうとするのは、それが人狼(サバト)のその先、最凶の魔物の一体、魔天狼(ワルプルギス)と気づいた者たちだ。


「《宝玉》の方を呼べ!敵は、S級の魔物、魔天狼だ!」

「いや、大丈夫だ。ここにいる」

「何を!?……あなたは!?」


 一人が最善の判断をして、伝令を走らせようとする。しかし、それに答える者の声。そちらに振り向けば、そこにいたのは、輝くような白髪に、白黒の反転した眼をした大男。


「ラインハルト様!」


 《七つの宝玉》が一人にして、王国騎士団団長『白玉(ダイヤモンド)』ラインハルト・プラウドルチェ。


「せぇい!!」


 ラインハルトは大剣を振りかぶって、『白騎士』に攻撃する。


 集られる兵士を薙ぎ払っていた『白騎士』は、それに気づかずその一撃を受ける。なれど、それは強靭な毛皮に阻まれる。


「ガァ!!」


 鬱陶しいとばかりに、大剣が弾かれる。


「ぬん!」


 ラインハルトはそれに乗って、間合いを離す。そして、突撃する。


「引け!魔物は、ラインハルト様が引きつけくれる!引くのだ!」


 状況を見た指揮官の号令に、国王軍が引いてゆく。そして、戦場にはぽっかりとした空白が現れ、ラインハルトと『白騎士』だけが残された。


「さてと、【光熱剣】」


 ラインハルトの大剣に、光の熱が灯る。その熱気は視界を歪めるほどの高温だ。


「これだけの大物を相手にするのは、何年振りだろうか」

「グルル……」

「ん?」


 久々の魔物退治に少しばかりの興奮を感じるラインハルトであったが、『白騎士』の唸りと憎悪に濡れた瞳を覗いて、何かを感じ取る。否、感じ取ってしまったと言うべきか。


「これは……」

「ガァ!」


 ラインハルトが思考に意識を向けたところで、『白騎士』が襲い掛かる。


「ぬう!?」


 それをなんとか大剣で防げば、当然、『白騎士』の白毛が光熱に灼かれる。


「ガアアアアア!!」


 それは悲鳴か、それとも憎悪か。


「せい!」


 ラインハルトは『白騎士』を吹き飛ばす。


 しかし、『白騎士』は間髪入れず襲い掛かった。

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