表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第二部
31/46

二十八頁

 レッドレイジ邸の玄関(エントランス)は、他の貴族と同様に広く荘厳だ。それは、玄関という場が客を最初に迎える空間であり、また、その主人の力を示す空間であるからだ。あまりに見窄らしい玄関では、客を不快にし、その主人を蔑ませる結果になるだろう。


 ラインハルトが率先して動き、玄関扉を押し開ける。そして、玄関に入れば、目の前に居たのは、アーサーが愛してやまない一人娘の姿とその傍に跪く忠臣の姿があった。


「アナ「アナ!」……」


 アーサーが改めて、娘に声を掛けようとしたところ、それを遮って娘に飛び掛かる銀煌の姿を視界の端に捉えた。


「母上!」


 そして、娘もまた、父を放置して、銀煌の正体である自身の母と熱い抱擁を交わした。


「全く……」


「はは、王妃殿下は相変わらずのようでございますな」


 これが他国での出来事であったならば、この場にいる誰もが顔を青ざめさせただろう事態だ。

 絶対者であるはずの、国王を差し置いて何らかの言動を行うなど、どのような身分であれ、決して、赦されるようなことはない。


 しかし、シュバリア王国では常の光景だ。もちろん、公の場では問題視される。しかし、今のような状況ならば、それは自然なことなのだ。それは、国王と王妃の関係が良好であるという個人的な理由のみならず、王国全体が学ぶ騎士道精神においてあるべき姿だからだ。

 騎士道とは、シュバリア王国において、愛するモノを守護することだ。故に、シュバリア王国の国王もまた、愛するモノを守護する立場にある。国王が護るべきモノとは、当然、国民もそうであるが、より近く自身の家族もまた、当然に護るべき対象だ。近きモノを護れずして、より遠くのモノ護ることは叶わない。また、守護されることを信ずることもできないだろう。

 さらには、愛するモノの行いを赦せぬことなどあるだろうか。いや、多くの人が赦すと答えるだろう。故に、この国は、それが護るべきモノである限りは寛容なのだ。


「レッドレイジ卿」

「はっ!」


 母娘の再会はそっとしておくことにして、アーサーは己の責務を果たすこととした。

 声を掛けられたレッドレイジ卿は、武家の者らしく力強く応えた。


「今まで良く、我が娘を護ってくれた。其方の忠心は、我が国においても、易々とは得難き宝であろう」

「勿体無き御言葉であります、陛下。陛下の御息女で在らせられます、アナスタシア殿下を御護り致しますことは、陛下の臣なれば当然のこと。陛下のご壮健なる姿、王妃殿下の御喜びこそ、何よりの褒賞でございます」

「おぉ、そうか、そう言ってくれるか、レッドレイジ卿。なればこそ、祖国復興の暁には、其方には一等の褒賞を授けることを約束しよう」

「はっ!ありがたき幸せにございます。祖国復興の折には、我がレッドレイジ家も微力ながら、全力のご助力を致しましょう」


 レッドレイジ卿の瞳に浮かぶのは、敬愛、忠義、忠誠、畏怖……あらゆる好感情を、アーサーに向けていた。


「こ、国王陛下!」


 と、そこへ上擦った声で呼び掛ける者がいた。


 その者は、まさに灼熱の業火の如き鮮やかな髪色に、勝気そうな吊り上がり気味の眼をした美少女だった。


「こ、これ、アスカ!?自ら国王陛下にお声掛けするなど、なんたる無礼!即刻、謝罪しなさい!」


 これに慌てたのは、レッドレイジ卿だ。何を隠そうこのアスカなる少女は、レッドレイジ卿の娘なのだ。


「良い、レッドレイジ卿。この場は、公式のものではない」

「はっ!陛下の寛大なる御心に、深く感謝申し上げます」


 慌てるレッドレイジ卿を、アーサーが宥める。そして、アスカへと目を向ける。


「何だ、レッドレイジの娘よ、申してみよ」

「はい!……《七つの宝玉》が一人にして、我が伯父、『紅玉(ガーネット)』モルド・レッドレイジの遺志を、どうか、どうかこの私に引き継がせていただきたい!」


 アーサーの言葉に促され、アスカは覚悟を決めて、一息に自らの願いを申し出て、頭を深々と下げて跪く。

 それは、すなわち、王国の象徴にして、最強の戦力たる一席を自らに寄越せと言ったのと同じこと。どれほど、このアスカという少女が、伯父であるモルドに尊崇や敬愛の念を抱いていたとしても、野心を疑われることは必至である。


「陛下、発言をお許しいただけないでしょうか」


 後先考えぬ少女の言葉にどうしたものかと思案していた国王の耳に、愛する娘の声が届いた。その顔を見れば、そこには父祖より受け継がれてきた王威の片鱗が見受けられた。


(なるほど。お前の臣か、アナスタシア。良かろう)


「良い、許す。申してみよ、アナスタシア」

「はい、そこなるアスカ・レッドレイジは、私がこの邸に匿われて十年の間、並々ならぬ忠心を私に示して参りました。また、その実力は、我が国の騎士団長たるラインハルト様もお認めになる程の代物でございます」


「ほう、相違ないか、ラインハルト?」

「はっ、王女殿下の御言葉の通りにございます。アスカの実力は、モルドに迫るものがございます」

「ふむ」


「それだけではございません。アスカの、モルドへの想いは、恋人の愛情、騎士の忠心、信者の崇拝に迫る強きものにございます。故にこそ、モルドの遺志を継ぐ彼女は、心強く本来の実力以上の力を発揮致しましょう。どうか、私からも、アスカ・レッドレイジの『紅玉』着任を進言致します」


 そこまで告げると、アナスタシアはアスカの隣に跪き、深々と頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ