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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第二部
30/46

二十七頁

「どうかしたのか、グラナダ?」


 ハルトたちの再会の騒がしさに、小屋の中にいた者の厳めしい声が聞こえる。そして、小屋の扉を開けて、一人の初老の男が堂々と現れた。


「陛下、お迎えに上がりました」


 その男の姿を捉えるか否かの時には、既にハルトとエロイース、グラナダは片膝をついて跪く。そして、代表してエロイースが口を開いた。


「おぉ、エロイースか。そうか、では《宝玉》が揃ったと考えて相違ないか」


 再会の驚きなど無く、男は滑らかにエロイースが果たしただろう仕事の可否を問う。


「いえ、残念ながら。三つの《宝玉》を喪いました」


「そうか……」


 訃報に沈痛な表情を見せる男。だが、それも僅かなこと。


 初老の男、すなわち、シュバリア王国の当代国王アーサー・シャルルゴンは、長き潜伏生活で草臥れた衣服の与える印象さえも跳ね除けて、誰もが従うのではないかというほどの威厳を、表情や仕種から放ち始める。


「良くやった、エロイース。父祖より引き継ぎし我が国を、余の代で終わらせては、死んでも死に切れないところであった。さぁ、ラインハルトの元に向かおうぞ。国を取り戻す時だ」


「「「はっ!」」」


 国王の言の葉に、三人の騎士が一足早く、力強く応じた。


 ……


「全く、エロイースの奴も人が悪い。父上たちが生きているのならば、さっさとそう言ってくれれば良いものを。大舞台を前に、取らぬ魔獣で皮算用をしてしまったではないか」


 そう言って、悪態を吐くのは、シュバリア王国第一王女アナスタシア・シャルルゴンである。自室のソファにマフィアのボスのような体勢で座っていた。背凭れに両腕を回して大きくスペースを使ったその座り方は、王女としての淑やかを台無しにしていた。


 両親の行方不明によって、既に見切りをつけていた彼女は、自身の才能の限界を試せるだろう王権復興の大舞台に様々な想いを馳せていた。

 しかし、いざ戦力が整ったところで、エロイースが国王と王妃の生存とその所在を知らせたために、彼女は自由裁量でことに及ぶことができなくなったのだ。


 結局、場所を知るエロイースと、転移魔法で即座に帰還できるハクとその保護者であるハルトを迎えに行かせることとなった。


「まぁまぁ、御両親が健在で良かったですよ。殿下も本当はそのように思っておられるのでしょう?」


 そう言って、アナスタシアの前にあるテーブルに、紅茶の注がれたティーカップを置くのは、無事に王女殿下付きの侍女となったキネア・シュパイカーだった。


 初めの頃は、王女にあるまじき振る舞いの数々に振り回されていた彼女だが、今ではすっかりその振る舞いの影に隠れた優しさを察して、ニコニコと笑みを浮かべていた。また、大商会会長の孫娘だけあって、礼儀作法や奉仕技術については、そこらの貴族の側付きを凌ぐものがあった。


「はぁ、その通りだよ、キネア。……うん、美味しい」


 キネアの言葉にキッと睨みつけるものの、そこにはニコニコと表情を崩さない完璧な侍女がいるだけだ。完敗とばかりに、アナスタシアは溜息を吐いて、キネアの用意した紅茶を口に含み、いつも通りの美味しさに、感謝を含んだ賛辞を述べた。


「お褒めに預かり光栄です」


 キネアは、その様子にニコニコ顔をさらに、喜色に溢れた様子に染め上げた。


 ……


 レッドレイジ家の屋敷の庭。そこに突如として、幾人かの人影が現れる。


 それは当然、ハクの転移魔法によって現れたハルトたちであった。


「ほう、これが転移魔法か。あぁ、確かに、レッドレイジの屋敷だな」


 軍事に経済、転移魔法の価値は計り知れない。アーサーは、一国の王として様々な考えが頭を過ぎる。されど、ハルトに甘えるハクの様子を見て、『最強の騎士』を敵に回すほどではないか、とその表情を柔らげた。


「あぁ!陛下、ご無事で何よりにございます!」


 そして、彼らの登場に即座に反応した男がいた。ハルトたちが出発した時より、この庭で鍛錬の傍ら待ち続けていた忠義者。


 アーサーの前に跪くその大柄な男こそ、シュバリア王国騎士団の団長であり、『最高の騎士』と称される『白玉(ダイヤモンド)』ラインハルト・プラウドルチェであった。


「おぉ、ラインハルト。お前の方も無事で何よりだ。して、我が娘は何処かな?」


 懐かしい友との再会もそこそこに、やはり、アーサーも人の親。娘の所在を尋ねる。


「ここですよ、父上」


 そこへアナスタシア本人の声が聞こえる。そちらへ目を向ければ、二階の自室の窓を開けて顔を覗かせるアナスタシアの姿があった。


「おぉ、アナスタシア!元気そうだな!」

「父上もご壮健そうで何よりです。私もすぐに、そちらへ向かいますね」


 先程の様子はどこへやら、アナスタシアが王女に相応しい優雅な所作で言葉を紡ぐ。アーサーは、娘の本性を知ってか知らずか、その無事な姿に嬉しそうな様子を見せていた。


「おぉ、そうか!いや、玄関(エントランス)で落ち合おうではないか。外にいつまでも、いるものではないからな」

「わかりました。それでは、一先ず失礼致します」


 王族父娘の会話によって、一行は場所を変えるため、動き始める。

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