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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第一部
3/46

二頁

「【沈黙(サイレンス)】」


 レオパルトが防音の結界魔法を唱えた。これによって、二人の周囲で発生した音が洞窟の奥に伝わることはないだろう。


「なんだ、お前ら!?」

「見張りはどうした!?」


 しばらく進めば、幾人かの人間が屯していた。足音も無く、突然の登場に彼らはひどく狼狽し、その隙を突かれて抵抗する間も無く、全滅した。


「範囲内だったか?」

「勿論、気づかれていないはずさ」


 簡潔に確認し二人はさらに奥へと進んだ。


 ……


 数回程、似たような状況を繰り返せば、二人は洞窟の最奥に辿り着いた。


 いくら音を漏らさなかったからといって、ずっと気づかれないということはないだろう。案の定、最奥では洞窟内の気配の変化を察知した者たちが、警戒心を露わにして待ち受けていた。


「誰だ?俺たちが〔暁の騎士団〕と知っての蛮勇か!?」


 この地のリーダーらしき男が、組織の名を虎の威として怒鳴りつける。

 しかし、それを受けたクロたちに全く動揺した様子はなかった。


「おい、あいつ何か言ってるぞ」

「そうみたいだね。結界のせいで何言ってるか、わかんないけど」


 いやそもそも受け取っていなかった。


「まぁ、もう無意味だし解除っと」


 レオパルトのその言葉とともに、クロたちにもリーダーの怒声が聞こえる。


「無視すんじゃねぇ!!お前らやっちまえ!」


 ちょうど良く手下を嗾けるところだった。


 クロとレオパルトはすぐさま散開して、戦闘のスペースを確保する。


 クロの元に最初に迫ったのは、戦斧を構える大男だった。


「せりゃあ!!」


 気合一閃。大振りの兜割を危なげなく回避して、クロは左手にバスタードソードを握り一閃。大男の頸動脈を断ち斬った。


 一方では、レオパルトに迫っていたのは短剣使いの小男だった。

 両手の短剣を順手逆手と器用に回して猛攻を仕掛ける小男だったが、レオパルトは飄々とそれを躱してみせる。


「隙あり」


 レイピアを握るレオパルトの右手が小男の視界から消える。次の瞬間には、小男の心臓に突き刺さっていたレイピア。

 小男が一矢報いようと食いしばったその時には、スルリと後方に下がっており、最早、短剣は届かなかった。


 残りのメンバーも敢え無く、クロとレオパルトの剣の錆となる。

 残されたのは、リーダーただ一人。


「どうする?」


 レオパルトの問い掛けに、リーダーは


「ァァァァァアアア!!」


 無謀にも一心不乱な突撃を試みた。狙いに定めたのは、どうやらクロの方であった。しかし


「【重圧】」


 クロの行使した重力増幅魔法によって、呆気なく地に伏した。


「クソ、クソぉ……折角、マトモな戦い方を学んだってぇのにあんまりダァ!」

「お前が学んだのは騎士道だ。犯罪に使えば、鈍って当然」


 リーダーの喚き声に、クロが言葉を投げた。


 リーダーたちの使った武術は、確かに祖国の騎士たちが学ぶ武術だった。かつて、祖国の騎士団に所属していたクロにはそれがわかった。

 どうやら、レオパルトの言っていた祖国復興の話は、強ち嘘ではないのかもしれない。目の前にいるような末端はともかく、組織の中核には祖国の騎士団出身者がいるのだろう。そうでなければ、彼らが覚えのある戦い方をしたりはしないだろう。


「何が騎士道だ!だからシュバリア王国は転覆したんだろうがぁ!」

「アァ?」

「ヒッ!?」


 リーダーが咄嗟に口にしたのは、クロたちの祖国を侮辱する言葉。クロはそれを聞いて思わず睨みつける。腹の内に隠していた激情が溢れ出し、リーダーは蛇に睨まれた蛙のように縮こまった。


「まぁまぁ、落ち着けクロ」

「……フン」


 レオパルトが肩を叩いて宥めれば、しばらくはリーダーを睨みつけていたものの、クロは視線を外しそっぽを向いた。


「それで、お前らはここでは、何をしていたんだい?」

「ま、麻薬の栽培だよ。それを売って組織の資金源にしてたんだ」

「ふーん、それで販路は?」

「商業都市マチャルアに集められる。そこからどうなるかは俺は知らない」

「なるほど」


 すっかり観念したリーダーは、レオパルトの尋問にあっさりと答えていく。情報を根こそぎ聞き出した後は、洞窟内の証拠品の幾らかを確保して、リーダーは縄で縛り、二人はラナックへの帰路についた。


 ……


 ラナックに到着した二人は、リーダーと証拠品を町の衛兵たちに引き渡した。後のことは、町長をはじめとした町の行政機関がどうにかするだろう。


 二人は再会の場であった静かな酒場に来店していた。


「次の行き先はマチャルアか?」

「そうだな。どうするお前も来るか?」


 クロの問い掛けに、あっさりと応えてレオパルトは誘いの言葉を発した。

 クロの方はすぐには答えず、グラスに注がれた安酒を呷った。


「……そう、だな。俺も気になるところだ、一緒に行こう」

「そうか、いや、喜ばしいことだ。お前がいれば、頼りになる」


 ゆっくりとクロがレオパルトの誘いを了承する。レオパルトも静かにそれを喜び、グラスを掲げた。意味を察したクロも僅かに笑みを浮かべ、グラスを掲げる。


「祖国に」

「あぁ、祖国に」

「「乾杯」」


 グラスのぶつかり合う小気味良い音が、静かな酒場に響いた。

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