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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第二部
29/46

二十六頁

 旧シュバリア王国、王都キャメロッテ。そこにほど近い森。


 葉陰に隠れて進む数人の人影があった。


 闇属性を表すザンバラな黒髪とどこか虚な黒瞳をした冒険者風のおっさん。


 樹属性を表す艶やかな深い濃緑色のストレートヘアとタレ目をした蠱惑的な魔女風の美女。


 そして、白金色の髪に黒い瞳をしたまだ幼なげな少女。


 なんとも言えない変わった組み合わせに見えるこの一行は、シュバリア王国の最高戦力《七つの宝玉》の一員、『黒玉(オニキス)』ハルト・サースロウス、『翠玉(エメラルド)』エロイース・ラストアーンの二人と、魔物の最強種である魔竜系の中にあって最強とされる白金竜(プラチナドラゴン)の子竜が人化したハクであった。


 先に立つのは、目的地を知るエロイース。その後を、ハルトが、ハクを肩車して歩いていた。


 悠然と歩いていた一行が、不意に脚を止める。


 そして、一行が目をやった茂みから、何かが飛び出してきた。


「【絡みつく茨(ソーン・バインド)】」


 しかし、それはエロイースの行使した魔法によって、蛇のように絡みつく茨に拘束された。


「キチキチキチ……」


 どこか無機質な苦悶の鳴き声を上げたそれは、人間大の蟷螂であった。


 魔化した虫である魔蟲系の例に漏れず巨大化したそれは、一般人では到底、敵わない脅威度Dの殺人蟷螂(キラーマンティス)だ。

 二本の鎌肢の刃は、殺人に充分な恐るべき斬れ味を備え、また、身体の各所は強靭な甲殻に覆われながらも、昆虫特有の敏捷性まで備えた森林の難敵である。


 しかし、エロイースの拘束魔法は、昆虫特有の敏捷性に余裕で対応し、また、その巨体に由来する膂力を抑えつける充分な力を発揮していた。


「絞め殺しなさい」


「キチキチキチ……キチ……」


 エロイースの言葉に応じて、茨は殺人蟷螂を絞め殺した。殺人蟷螂は最期の時まで捕らえ損ねたばかりか、自身を害する人間たちに敵意を向けていた。


 ……


 殺人蟷螂の襲撃から、さらに幾度かの魔物の襲撃を受けながら、一行は遂に目的地へと辿り着いた。


 そこは、森の奥に切り立った崖の壁。蔓蔦に覆われて一見しては、何も無いような場所であった。


「【植物操作プラント・コントロール】」


 エロイースが魔法を行使して、崖の一角を覆う蔓蔦を退ける。そこには、上手く隠蔽された洞穴の入口がぽっかりと穴を空けて現れ出でた。


「さ、行きましょ?」


 エロイースの言葉に、ハルトが頷いて返答する。ハルトの頭に凭れ掛かって居眠りしていたハクが、その揺れに起こされ、欠伸をする。


 その様子に微笑しながら、エロイースが脚を進める。それに続いて、ハルトもまた、脚を進めれば、心地よい揺れに、ハクはまた夢の世界へと旅立った。


 暗がりの洞穴を進めば、やがて、その先に明かりがあるのが見えてくる。さらに、進めば、それは魔道具を用いた灯りであることが明らかになった。


 そんな人の手が入ったこと明らかな洞穴の最奥にあったのは、なんと小さな洞穴にしては広大な空間とそこのほとんどを使って建てられた木製の家屋であった。


 その家屋の庭で何やら作業をしている貴婦人がおり、また、家屋の扉には騎士装束に身を包んだ老爺が佇んでいた。


 庭いじりをする貴婦人は、その行動が本来、庶民のすることであるにも関わらず、どこか気品に溢れ、その所作一つ一つが優雅であった。


 老爺の方は、既に前線を退いた身であろうに、木肌のような焦茶色の瞳から油断無き厳しい視線を洞穴の入口の方に向け、また、鍛え抜かれた肉体は棒で支えられたかのように直立し、覇気溢れる姿を堂々と曝け出していた。


「王妃殿下」

「何かしら、グラナダ?」


 老爺がハルトたちの姿を認め、貴婦人を呼ぶ。貴婦人は、煌めく銀糸の如き長髪を靡かせながら、忠実なる老騎士に振り向く。


 老騎士の言葉の通り、この貴婦人は、シュバリア王国の王妃。国王の配偶者であった。


「あら?エロイースじゃない。久しぶりね?元気だったかしら?」


 王妃の言葉は、反乱軍から隠れての潜伏生活をしていたとは思えない、とても暢気なものだった。


「えぇ、勿論です、殿下。殿下もお元気そうで良うございました。遅ればせながら、お迎えに上がりました」


 エロイースが、そんな暢気な言葉に特に思うところ無く、言葉を返す。そして、腰を折って礼とした。それに合わせて、ハルトもそうしたかったのだが、ハクを肩車していたため、頭を下げるに留まってしまった。


「あら、可愛らしい子を連れていますね、ハルト。貴方ももう、そんな年頃ですか」


 それに注目した王妃の言葉は、ハルトを幼き頃より知っているが故のものだ。その視線はとても優しげであった。


「いえ、殿下。ハクは、竜の子です。殿下の思っているところとは少し違います」

「まぁ、そうなのですね」


 片手を頬に当てながら小首を傾げる王妃の姿と、変わらぬ生暖かい視線に、ハルトは自分の言葉が正しく届いたのか、疑問であった。


「ヴァニティアルメ卿。隠居の身でありながら、国王陛下、王妃殿下の護衛をしていただき、誠にありがとうございます」

「なんの。この老骨、王国のためとなるならば、この剣を振るって、命を落とそうと何の悔いもありません」


 ハルトが、王妃に振り回されている間に、エロイースが老騎士に声を掛ける。それに老騎士も好々爺とした笑みで応じた。


 この老騎士の正体は、元シュバリア王国騎士団長『剣聖』グラナダ・ヴァニティアルメ。『最高の騎士』ラインハルト・プラウドルチェの前任であり、『王国の守護神』と諸外国に畏れられ、自国で敬われた英雄である。

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