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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第一部
26/46

二十五頁

 果たして、レオパルトがハルトに求めたのは、理解者であることだったのだろうか。


 しかし、現実として、ハルトとレオパルトは異なっている。


 底辺ではあったが仲間のいたハルトは、孤独を知らない。


 施設で人間性を排除するように成長したレオパルトは、孤独だった。


 ハルトは神を信じない。人を信じ、故に、理想家である。


 レオパルトは人を信じない。神を信じ、故に、理想家である。


 似ているようで、彼らは根本的に異なっている。


 地上からラインハルトの【穿光(レイザー)】が放たれる。


 それは、呆然としていたレオパルトを貫き消失させる。


 すかさず、ハルトは【空間把握】以外の魔法を解除して、探知範囲を最大化した。


「見つけた」


 その呟きを終える頃には、レオパルトのカラダが一つ形成されていた。


「待ってくれ!ハルトォオオオオ!!」


 遂に、レオパルトは領都へと牙を剥く。


 だが、ハルトに迷いは無い。


 大上段に構えた重剣を斬り下ろすのは、空を覆う黒雲の中に見つけたレオパルトの魔石。


 領都を心配する必要は無い。


「【断空】」


「ァァァァァアアア!!!!!」


 ハルトの斬撃が空間を斬る。黒雲を縦一文字に斬り裂いて、その中に隠された魔石をも正確無比に斬り砕いた。


 レオパルトが断末魔を轟かせる。


 最期の轟雷が、領都へと降り注ぐ。


 だが、それは彼女の魔法に防がれることになる。


 ……


 領都は、レッドレイジ家の屋敷の庭。


「【大樹の守護者ガーディアン・オブ・ザ・ツリー】」


 エロイースが魔法を唱えれば、庭から一本の樹が急速に成長していく。やがて、大樹は空高く聳え立ち、その枝葉は領都全体を覆い隠した。


 それが避雷針となって、レオパルトの轟雷は防がれた。


 ……


「あ、ぁぁ……ぅ……」


 残滓が僅かな音を遺して、レオパルトが消滅した。


 斬り裂かれた黒雲が晴れてゆく。


「終わったな」


 地上に戻ったハルトの肩を、ラインハルトが叩いた。


「あぁ」


 ハルトが短く応じた。


「お疲れ様です、サースロウス卿」

「あぁ、お疲れ」


 合流したレヴィアからの労いにも、やはり、軽く応じた。


 それでも重ねた月日があった。


 そこに嘘があったとしても、過ごした時は本物だ。


 どうか神の元に、アイツが帰ることができていますように。


 ハルトは、そう心の中で柄にも無く祈った。


 ……


「良くやった、お前たち」


 屋敷に戻れば、開口一番、王女からお褒めの言葉が齎された。


「この調子で、王権復興にも力を貸してくれ」


「「「「はっ」」」」


 《七つの宝玉》が片膝をつき、返答した。


 『白玉(ダイヤモンド)』ラインハルト・プラウドルチェ。


 『黒玉(オニキス)』ハルト・サースロウス。


 『翠玉(エメラルド)』エロイース・ラストアーン。


 『蒼玉(サファイア)』レヴィア・エンヴィナンナ。


 三つの宝玉は喪われた。だが、まだ四つ、世界屈指の実力者が揃っている。


 王女アナスタシア・シャルルゴンの脳内には、三つの空席を埋める人材が二人ほど浮かんでいる。


 一人は、すぐにでも登用できる。


 もう一人は、行方知れずだ。


 だが、一先ずは充分。戦力が足りないわけではない。万全を期すならば、七つ揃えるべきだ。それでこそ、王国の最高戦力。しかし、無い物ねだりなど無意味であるし、何より『最高』と『最強』は揃っているのだ。


 これで勝てないならば、それは自分に王の器がないときだ。


「くくく……」


 思わず、王女に似つかわしくない笑声が漏れる。


 面白いと思った。自分を試せるまたとない機会だ。


 だが、その機会は割とあっさりと奪われることを、王女はまだ知らない。


 ……


「キネア」

「クロさん!あ……えっと、ハルトさん?」


 キネアは、情報過多で気絶してから客室の方で休んでいた。

 そして、目を覚ましてから少し経ったくらいのところで、ハルトが訪れたのだった。


「ん、あぁ、悪いな。あの頃は、目立ちたくなかったんだ。改めて、《七つの宝玉》の一人、『黒玉』ハルト・サースロウスだ」


 キネアの様子に、ハルトは改めて名乗り上げる。


 それを受けたキネアは、ハルトをどこか遠くに感じてしまった。


 シュバリア王国の《七つの宝玉》と言えば、この辺りで知らぬ者はいない最強格の騎士たちだ。そして、『黒玉』はその中で、『最強の騎士』とされる人物。


 それが目の前にいる。


 知っているはずだ。だが、それはクロとして。


 ハルト・サースロウスとしての彼は、どうだろうか。


「あぁ、それでなんだが、まだ、マチャルアには行けそうにないんだ」


 言いにくそうに、しかし、はっきりとハルトは告げた。

 キネアとて、わかっていたことだ。先の王女との会話で、そうなるとは思っていた。そもそも、自分がマチャルアに戻ることができるかも怪しい。


 しかし、それらのことは今は関係なかった。


 キネアにとって重要だったのは、あの約束をハルト・サースロウスが果たそうとしているその事実だけだ。


 ハルト・サースロウスとクロに違いはないことの証明のように感じられた。


「ハルトさん」

「ん?」

「私、王女殿下の侍女になろうと思います」

「え?いや、どうやって」


 キネアの突然の発言に、ハルトが戸惑う。しかし、キネアは止まらない。


「今から、王女殿下とお話してきます」


 善は急げとばかりに、キネアが部屋を飛び出していった。

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