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決闘の場は、領都の外に設置された。両者、魔法を使い、全力で戦うルールとなったからだ。屋敷の庭などでは、流れ弾が怖い。
ハルトとラインハルトが、互いに三歩ほどの距離を空けて向かい合う。
王女たちは離れたところで観戦だ。流れ弾を、《宝玉》の誰かが防ぐのだろう。なお、王女だけは椅子を持ち込んでいる。
「ではこれより!シュバリア王国騎士団団長ラインハルト・プラウドルチェ対シュバリア王国騎士団副団長ハルト・サースロウスの決闘を始める!両者、騎士道精神に則り正々堂々と全力を持って戦うように!」
審判役は、領主だった。ハルトたちからは、かなり離れているので、レオパルトの【拡声】の魔法で声を届けている。
ハルトが構えるのは、愛用の重剣。
ラインハルトが構えるのは、赤みがかった金色をした大剣。
両者共に得物は重量級。魔法による増減が自在である分、そこはハルトが有利。後は、剣と魔法次第。
「はじめ!!」
「【黒闇】」「【瞬光】」
開始の合図とともに、両者が補助魔法を行使した。
ハルトの魔法は、ハルトを中心として世界を闇で覆ったか、に見えた。
ラインハルトの魔法は、ラインハルトを光速に変えた。
ラインハルトの鋒が、既にハルトの心臓に狙いを定めている。だが
「【重撃】」
光速で動いているはずのラインハルトの大剣を、ハルトは愛剣によって弾いてみせた。重い衝突音が響き渡る。
ハルトの行使した魔法【黒闇】は、空間拡大の効果がある。
空間拡大とは、すなわち、空間希釈ともされ、距離を引き伸ばす効果だ。
何故、それでラインハルトの光速行動に対抗できているのか。
光速は、一秒で世界を七周半できると言われるが、ハルトが引き伸ばした距離は、世界の七周半を超えた距離。つまり、体感として光速が常識の範疇に収まるように、空間を拡大したのだ。
ただ、それだけでは反応できるだけだ。光速に動く物体と接触すれば、大半の物は弾け飛ぶ。だからこその【重撃】。自身の攻撃を極限まで重くすることで、やはり、光速に対抗する。
この決闘。ただの剣術勝負に限っても、ハルトが二つ、ラインハルトが一つの魔法を行使するため、魔力消費的にラインハルトが有利であるかのように見える。
「【黒道】」
「ッ!?」
膨大な距離を、ハルトは瞬間移動によって潰すことができる。
光と闇の勝負でありながら、速さでは闇が勝っていた。
「【重撃】」
ラインハルトの背後からの兜割。
【瞬光】の出力を上げることで、ラインハルトの大剣が挟まれる。
重い衝突音。そして、今度は衝撃波すらも発生させた。
大地が捲れ上がる。だがそれでも、両者は鍔迫り合っていた。
「【重圧】」
「ぐっ……!?」
ハルトによるさらなる追い討ち。ラインハルトに増幅された重力が襲い掛かる。
「だが、だが、私は負けるわけにはいかんのだ!うぉおおおお!!」
ラインハルトが気合で押し返す。そして、ハルトの剣を滑り落とした。
「ちっ!」
ハルトは舌打ちをしながらも、崩れた体勢を立て直すことより、ラインハルトの次の行動を観察した。
「【光熱剣】」
ラインハルトの大剣が、輝きを帯びる。それだけではない。その輝きは、太陽にも迫る熱を帯びていた。
通常の鉄剣では、攻撃に使う前に融けるだけの付与魔法。
だが、ラインハルトの大剣は赤みがかった金色の金属で造られている。その金属こそ、神鉄。
扱える職人が現存する中では、世界で最も素晴らしい魔鉱石。物理強度、魔法耐性共に高い冒険者憧れの代物だ。
高い魔法耐性故に、ラインハルトの魔法の熱にも耐えられる。
「【隔壁】【空間把握】」
ハルトが行使したのは、空間を固定する絶対防御の結界魔法。だがそれは、光さえも通さない空間であり、ハルトとラインハルトの間に黒い壁をつくって視界を遮る。そのため、探知魔法も続けて行使した。
ラインハルトは動くことを躊躇った。それを把握して、ハルトは悠々と体勢を立て直す。
沈黙が続く。
「ハルト」
「何だ?」
膠着した状況で、ラインハルトはハルトへと声を掛ける。
「私は、道を違えているか?」
「……」
「妻のために、息子たちのために、アイツらの犠牲を無駄にしないために!王権復興に動いたはずだ!動けていたはずだ!そんな私の何処が間違っている!」
それは独白だ。ハルトに語りかけているようで、ラインハルトは自身に言葉を向けている。
「……あんたが一番、理解しているはずだ」
「認めない、認められない!私は勝つ!そして、王権復興を果たしてみせる!」
ラインハルトが動くのを、ハルトはしっかりと把握していた。
ハルトから見て、右側から【隔壁】を避けてラインハルトが飛び出した。
「【穿光】!」
ラインハルトは【光熱剣】の付与された大剣を右手に持ち、左手をハルトに向けて魔法を放つ。
それは、光の熱線。貫かれたモノは、当然、綺麗な穴を開けることになるだろう。
「【引力球】」
ハルトが行使したのは、引力を発生させる黒い球体。それが【穿光】を引き寄せ、軌道を変える。
意味を無くした【隔壁】を解除して、負担を減らしながら、ハルトがラインハルトに右手を向ける。
「【圧壊】」
【引力球】によく似た闇色の球体。だがそれは、もっと破壊的なチカラだ。
『魔法について
【瞬光】
自身を光速化する魔法ではあるが、実際には、
光の性質ではなく、時間概念への干渉による加速
である。 』
『金属について
魔鉱石:魔力に影響を受けた鉱物のこと。
霊銀ミスリル
蒼みがかった銀色をした魔鉱石。魔鉱石にして
は、やや強度に劣るが、軽く魔法耐性や魔力伝導率
には優れている。東方では、アポイタカラと呼ばれ
る。
神鉄オリハルコン
緋みがかった金色をした魔鉱石。現代の加工技術
で扱える上では、最高の魔鉱石。強度・魔法耐性と
もに優れるが、重い。東方では、ヒヒイロカネと呼
ばれる。
覇金アダマス
星空色の魔鉱石。加工技術は喪失してしまってい
るが、世界最高の魔鉱石。神鉄以上の強度・魔法耐
性を誇り、重さもバランスが保たれている。
神霊鋼
神鉄と霊銀の合金。黄金比配合では、青銅のよう
な輝きを放つとされるが、そのレシピは喪失してい
る。性質は、良いとこ取り、重量調整ができる。
隕鉄メテオライト
木目鋼の主原料である魔鉱石。強度に優れるが、
魔力伝導率は無いに等しく、また、非常に重い。そ
のため、木目状の模様を特徴とする合金、木目鋼に
加工される。
鬼金オーガ・メタル
妖鬼系の魔力に影響された金属。ほとんどの場合
は、鉄と大差ないが、長く生きた個体のそれは、神
鉄にも匹敵する強度を獲得するとされる。性質は元
の金属のモノを基本的には引き継ぐが、魔力伝導率
は妖鬼系の魔力に調整されているためか、非常に悪
い。 』
金属については、霊銀、神鉄、覇金の三大金属さえわかっていれば、大丈夫。後は、オマケ。




