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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第一部
17/46

十六頁

「レヴィア!レヴィアは何処だ!」


 大声で人を呼ぶのは、鍛え込まれた大柄な男だった。背には、身の丈より少し短い程度の大剣を負っている。


 光属性を示す輝くような白髪を短く切り揃え、髭は全て剃られているが彫りの深いために濃い顔には、白黒の反転した眼が眼光鋭く存在している。


 白黒の反転した眼は、ある人物の特徴として有名であり、それ故に光属性の高い適性を表す色合いだ。


 そして、この大男こそ、その由来の人物そのものであった。


 シュバリア王国が誇った騎士七名の内の一人。


 《七つの宝玉》であり、騎士団の団長であったこの男こそ、『最高の騎士』と名高い『白玉(ダイヤモンド)』。


 ラインハルト・プラウドルチェ。


「プラウドルチェ卿、そう大声を出されてはかないません。もう少し、匿われているご自覚を」

「むっ、すまない、レッドレイジ卿。貴殿には本当に感謝しているのだ。殿下のみならず、我らまで匿ってもらい」

「いやいや、王国貴族として当然のことだ。王権復興まであと少し、それまでの辛抱だ」


 ラインハルトに声を掛けたのは、この屋敷の主人。炎属性を示す赤髪と赤瞳をした恰幅の良い男だった。


 十年前のクーデター。ラインハルトは、レヴィアと共に王女の視察の護衛任務に当たっていた。

 そして、クーデターの報を聞いたラインハルトは、王女の命を優先して、忠誠心高き武家として有名だったレッドレイジ家を頼った。

 もちろん、王女の命を優先したのは、万が一を考えてのことであり、王都を護る《宝玉》メンバーの力を信頼してのことであり、レッドレイジ家を頼ったのは、忠誠心ばかりではなく、《宝玉》メンバーのモルド・レッドレイジの実家であり、多少の信頼があったからだ。


 果たして、その選択が正解だったのかは不明だ。


 事実として、シュバリア王国は転覆してしまい、十年もの雌伏の時を過ごすことになった。

 〔暁の騎士団〕という犯罪組織紛いで資金を獲得する羽目になり、腹の内に逸物ありそうな王国貴族にも協力を仰ぐことになってしまっている。


 不安要素は、大きかった。


「廊下の真ん中で何を話しているの?」

「殿下!」「これはこれは、本日もご機嫌麗しゅうございます、王女殿下」

「ご機嫌よう、レッドレイジ卿。それで、何の騒ぎかしら、騎士団長?」


 可愛らしくも品格と威厳を備えた、白銀色の長髪と瞳をした少女が新たに現れる。この少女こそ、シュバリア王国の王家血統直系、確認されている最後の生き残りの王女であった。


「はっ、それがエンヴィナンナ卿が何処にもありませんので、探しておりました」

「あぁ、レヴィアね。私がおつかいを頼んだのよ。ごめんなさいね」

「いえ、事情がわかれば何の問題もありません」


 ラインハルトの用事も解決して、その場は解散の流れとなった。


 ……


 グラが殺される時より、時間は僅かに遡る。


 クロとハクは相変わらず、食べ歩きをしていた。


「ん?」

「お父さん?」


 クロの視界にチラッと映ったのは、見覚えのある蒼銀色の髪とメイド服だった。


「行くぞ」

「うん」


 ハクの手を引いて、クロはそれを追いかけた。


 それは路地裏に入る。当然、クロたちも続いた。


 そこにいたのは、クロの予想通りの人物。


 『蒼玉(サファイア)』レヴィア・エンヴィナンナ。


「サースロウス卿、王女殿下からの命令を届けに参りました」

「殿下から?」


 レヴィアは淡々と、クロが子連れであることも気にせず、用件だけを述べる。


「はい、決闘によって団長を止めるように、とのことです」

「どういうことだ?」

「それはーー」


 レヴィアが詳細を述べようとしたところで、爆発音が響き渡った。


「話は後だ」

「わかりました」


 二人は迷うこと無く、爆発音の元へと動いた。ハクは、クロの腕に抱えられている。


「?」


 抱っこされた状態では、ハクの視線は自然と後ろを向く。そして、レヴィアはクロの後について駆けていた。

 二人の視線が交わり、ハクがニコッと笑いかける。レヴィアはただ小首を傾げた。


「急ぐぞ、【浮遊(フロート)】」

「はい、【氷床】」


 クロが反重力魔法により浮き上がり水路すらも道とすれば、レヴィアも水路の一部を一瞬で凍りつかせて足場を作って追いかける。なお、凍りつかせるのは、足が接する本当に僅かな面積だけだ。水路の機能を麻痺させないための配慮である。


 ……


 やがて、薄暗い区画に辿り着いた。どうやら、そこに建てられた小屋が炎上している。


 近くにいたのか、既にレオパルトとエロイースがいた。


「どうした!?」


 クロが声を掛けながら、駆け寄る。


 エロイースがしゃがみ込んでいて、その視線の先にあったのは、死体だ。


「……グラ?」

「えぇ、グラくんよ。生命の灯火(ランプ・オブ・ライフ)の方も確認したから、間違いないわ」


 そう言って、灯りの無いランプをエロイースがクロに示した。


「そん、な……誰が?」

「……モルドだ」


 半ば無意識のクロの問い掛けに、レオパルトが死人の名を口にした。


「だが、モルドは死んだはずじゃ」

「死体を確認したわけじゃ無い。魔道具は誤魔化す手段がいくつかある。それに、私はこの目で確認した。確実に死んだことを見届けるためなのか、ジッと佇んでいたモルドの姿を」


 淡々と極力感情を表に出さないように、レオパルトが語る。


「離れるわよ。すぐに、聖騎士たちがやってくるわ。面倒事は避けなきゃ」

「だが、グラの弔いが」

「ここは、聖都よ。丁重に葬ってくれるわよ。それで、納得しなさい」


 エロイースの強い言葉に、クロは頷くしかなかった。

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