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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第一部
16/46

十五頁

 ハクに乗っての移動は順調だった。


 当初は、あまりの速度に突風や寒気などの問題もあったが、レオパルトの結界魔法によって快適な環境が保たれている。


 一月は掛かるはずだった道程は大幅に短縮され、十日も飛行を続ければ、目的地に到着した。


 神聖オリジン教国。


 オリジン教総本山であり、聖都オリジナルングとその周辺を国土とする都市国家。


 表面上の国力は当然ながら大国に及ばず、されど、世界各地のオリジン教徒たちに連なる権威が、絶対不可侵の聖域を成立させていた。


 その影響力は、世界に及ぶ宗教国家である。


 上空から見た聖都は、綺麗な円形をしている湾岸都市だ。別名を水の都と呼び、都市内に引かれた水路がそのまま、都市内の主要道路となっている。その現実離れした風景が、ここを聖なる都としてより一層、印象付けていた。

 そして、その風景が、陸路海路の双方から多くの巡礼者が訪れる観光都市としての側面をも形造っていた。


 さらに、中央には世界最大の宗教建築、オリジナル大聖堂が神々しい雰囲気を醸し出している。


「ふむ、やっぱり、グラくんの魔力が感じられないわね?」

「何?」

「まぁ、消えたのは今朝だから、ここにいるのは確実よ。手分けして探しましょう」


 エロイースの呟きに、クロが反応する。その後に続くエロイースの言葉に納得して、それ以上のことはなかった。


 クロたちから隠れたのか、何らかの偶然か。それは会えば、わかるだろう。


「ハク、都市からは少し離れて降りてくれ」

『うん』


 ハクの姿は、ハク自身の光属性の隠蔽魔法で見えなくなっているものの、唐突に都市近くに人間が現れては要らぬ用事が発生してしまう。

 それをここ十日の旅路で、身を持って経験したクロは、ハクにそう声を掛けた。


 一行は適当な平地に降り立ち、無事に聖都へと入っていった。


 ……


 宿を確保した後、レオパルトは冒険者ギルドへ、エロイースは魔力の残滓を追って、それぞれの手法でグラ・グラトニン捜索を開始した。


 そんな中、クロとハクはというと


「お父さん、あれ食べたい!」

「わかったわかった、そう急かすな」


 食べ歩きをしていた。これまでの旅路でハクはすっかり屋台の食べ歩きにハマってしまったのだ。正体が竜であるハクの胃袋は底無しで、好きにさせると財布の中身はすっからかんになる。十日の旅路では、そのため、テキトーな討伐依頼で路銀を稼ぐ時も含まれた。


 別に、サボっているわけでは無い。探知魔法によって、足で探しているのだ。効率が悪く、ハクの食べ歩きのついでであることは否めないのだが、クロは別にサボっているわけでは無いのだ。


「美味いな」

「うん、美味しい」


 何かの肉の串焼きを片手に、クロの顔が僅かに綻ぶ。


 広場の椅子に座って、行儀良くしていると言えば聞こえは良いが、やはり、サボっているのかもしれない。


「次は何にする?」

「うーん、あれも美味しそう!」


 クロの問いに、ハクは無邪気に答えた。


 ……


 クロたちが聖都に辿り着いてから、一週間ほど経った。


 クロたちは、未だにグラの手掛かりを掴めていない。

 既に、聖都を出たのかもしれなかった。


 だが、事実は異なる。


 《七つの宝玉》が一人、『橙玉(トパーズ)』グラ・グラトニンは未だに聖都に留まっていた。


 そこは聖都にいくつかある薄暗い区画。水路を引き入れている関係上、流れの速さの調整などもあって、聖都は少々複雑な都市構造となっていた。

 そのため、巡礼者向けの水路から一つ逸れれば、そこには居住信徒たちも一人では全ては把握することのできない迷路ができあがっている。


 ここもそんな迷路のうちのいくつか、周囲の住居の関係で日光の届かない場所だった。


「いつまでここに、居なきゃならないんだろう」


 粗末な小屋の中で、グラは独り言ちた。


 グラは、十年前のクーデターの後、ある事情からオリジン教に身を寄せていた。そして、クロたちが聖都に到着する前日に、自らの命を狙う者の存在を知らされたのだ。

 もちろん、《七つの宝玉》として強大なチカラを持つグラは、当初、応戦の構えを示していた。しかし、《七つの宝玉》であることを知った上で、命を狙う者たちであり、正攻法でくる可能性は低い。暗殺の警戒もあるからなどの説得によって、グラはここに隠れることになった。


「なに、もう終わりですよ」

「司祭様!……え?」


 そこに届いたのは、彼をここに匿った司祭の声、そして、彼の心臓を貫く刃だった。


 それを見て、それを実行した人間の顔を見て、グラの目が見開かれる。驚愕だった。


「なんで?なんで?なんで?……やだ、やだ……死にたく、ない!?」

「大丈夫。『原初の意思』の元に帰るだけなのですから」

「やだ、やだよぉ……たすけ、て……ハルト(にい)……」


 グラの瞳から光が消えた。彼が最期に頼ったのは、不器用で優しい憧れの騎士だった。


「後のことはわかるな」

「はっ」


 グラを殺した男が、冷酷な声で告げる。


「全ては神の元に!」

「全ては神の元に」


 陶酔したように聖句を告げる男に、司祭は静かに聖句で返した。

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