十三頁
「ハルトくん、あなた……」
「お前、いつの間に……」
衝撃から立ち直ったが早かったのは、エロイースとレオパルトであった。流れるように、からかい混じりの驚愕の表情を作って口を開く。もちろん、後退りも忘れない。
「やめんか!そんなわけないだろ!嬢ちゃん、俺はあんたのお父さんじゃないぞ」
それによって、クロも強制的に立ち直り、エロイースたちに叫んだ後、少女に向き直る。
「違うの?じゃあ、パパ?」
「どうしてそうなる!?」「「プッ!!」」
クロのツッコミとエロイースとレオパルトの吹き出し笑いが聞こえたのは、同時だった。
少女はクロに父親であることを否定されて、悲しむでも無く小首を傾げている。
「おじさん、ハクちゃんのパパなのぉ?」
「ハク、良かったな!」
「良かったよねぇ」
「ねぇ」
そして、子どもたちは少女、どうやらハクと言うらしいの言葉を信じて、クロを父親扱いし始めた。
「待て待つんだ!俺はまだ、父親になるような歳じゃねぇ!」
「えぇ、でも、ハクちゃんが」
「そうだ、ハクが嘘つくわけねぇ!」
「そうだ、そうだ!」
「おじさんはハクのお父さんだ!」
クロの叫びは、子どもたちの純心によって呆気なく潰された。
「ハクちゃんって言うの?」
「うん」
そんな中、エロイースがハクに声を掛ける。
「どうして、ハルトくんをお父さんだって言うのかな?」
「だって、ハクと同じニオイがする」
「ニオイ?」
「うん」
その言葉に、エロイースは自身の知識を思い返す。
魔物の多くは、生物と何ら変わらない存在だ。魔力によって、通常の生物とは一線を画す強さを持つがそれだけ。
しかし、高位の魔物は魔力に強く影響されている分、魔力の感知能力が高いと言う。竜がそれをニオイと表現しても何らおかしくはない。
おそらく、ハクはクロの闇属性魔力を感じたのだろう。後は、純粋にクロとの相性が良かったからだろうか。
ともかく、懐いてくれるのならば、問題は少ない。エロイースは、そのように考えることにした。
「ハクちゃん、私たちと一緒に来る?」
「?」
ハクは小首を傾げる。しかし、それよりも子どもたちの方が敏感に反応した。
「ハクちゃん、連れて行っちゃうの?」
「ハクは、俺たちの友だちだぞ!」
「人攫いだ!」
「誘拐は犯罪なんだぞ!」
ハクは、とても好かれていた。
「別に攫うわけじゃねぇ。ここにいるのは、危険なんだ」
「「「えっ?」」」
「う、ウソだ!」
「そ、そうだ、そうだ!」
クロの言葉に、子どもたちは一瞬、驚くも、すぐに勢いを取り戻す。
「あんたら、嬢ちゃんが竜であることを知ってるな?」
「な、何のことだ!」
「そうだ!ハクは人間だ!」
「ハクちゃんは可愛い女の子よ!」
「じゃあ、白い髪と黒い瞳はなんなんだ?」
「うっ……」
「それは……」
「ハクちゃんは、人間よ!」
子どもたちだって、属性色の知識はある。よく理解できていない年少組はまだ騒がしいが、年長組は言葉に詰まり大人しくなる。それに釣られて、年少組たちも段々と大人しくなった。
「嬢ちゃんは……どうした?」
クロが子どもたちの説得を続ける中、ハクがクロの服の袖を引っ張った。そして
「ハク」
「へ?」
「嬢ちゃん、じゃない」
呼ばれ方を気にした。
「いや、あの」
「ハク」
「……」
「ハク」
「……ハク」
「うん」
クロに名前を呼ばれて、ハクはとても嬉しそうに笑った。
「……ハクは竜だな」
「うん」
クロは、何事もなかったように言葉を再開する。周りはそれを生暖かく見つめていた。
それはともかく、当人であるハクが自身を人でないことを認めた。
「そして、ハクはまだ、幼い。気配が漏れて、森の獣たちの様子がおかしい。これを知れば、村の大人たちはハクをいじめるだろう。お互いのために、ハクはここを離れた方が良いんだ」
子どもたちは静かだった。俯く者、涙を溜める者、様々だが、一様にハクとの別れを理解していた。
「ハクは、パパについて行く」
「……せめて、お父さんにしてくれ」
「うん、お父さん」
ハクが嬉しげに綻んだ。
なお、ここでお兄さんと指定すれば、ハクはクロのことをお兄さんと呼んでくれただろうが、クロがそれを知る日は来ない。なんなら、名前でも良かった。
「ハクちゃん、元気でね」
「元気でな!」
「また会おうぜ!」
「うん!みんな、バイバイ」
「「「さよなら、ハク!」」ちゃん!」
ハクの明確な一言によって、泣きながら笑う子どもたちが別れの挨拶を告げる。
そして、クロたちは旅の続きを再開……はしなかった。
「あっ、私、水浴びしたいから、ハルトくんたちは見張りお願いね?」
それはともかく、エロイースが水浴びしたいのは、本当のことであった。
なお、覗こうとするレオパルトと、クロと子どもたちによる攻防があったことをここに記す。
その決着は、大人気なく魔法を使ったレオパルトがクロたちを突破して、エロイースの魔法に敢えなく捕まったのであった。
もちろん、クロとレオパルトはこの結果をわかっており、ハクと子どもたちとの思い出づくりなのであった。




