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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第一部
14/46

十三頁

「ハルトくん、あなた……」

「お前、いつの間に……」


 衝撃から立ち直ったが早かったのは、エロイースとレオパルトであった。流れるように、からかい混じりの驚愕の表情を作って口を開く。もちろん、後退りも忘れない。


「やめんか!そんなわけないだろ!嬢ちゃん、俺はあんたのお父さんじゃないぞ」


 それによって、クロも強制的に立ち直り、エロイースたちに叫んだ後、少女に向き直る。


「違うの?じゃあ、パパ?」

「どうしてそうなる!?」「「プッ!!」」


 クロのツッコミとエロイースとレオパルトの吹き出し笑いが聞こえたのは、同時だった。

 少女はクロに父親であることを否定されて、悲しむでも無く小首を傾げている。


「おじさん、ハクちゃんのパパなのぉ?」

「ハク、良かったな!」

「良かったよねぇ」

「ねぇ」


 そして、子どもたちは少女、どうやらハクと言うらしいの言葉を信じて、クロを父親扱いし始めた。


「待て待つんだ!俺はまだ、父親になるような歳じゃねぇ!」


「えぇ、でも、ハクちゃんが」

「そうだ、ハクが嘘つくわけねぇ!」

「そうだ、そうだ!」

「おじさんはハクのお父さんだ!」


 クロの叫びは、子どもたちの純心によって呆気なく潰された。


「ハクちゃんって言うの?」

「うん」


 そんな中、エロイースがハクに声を掛ける。


「どうして、ハルトくんをお父さんだって言うのかな?」

「だって、ハクと同じニオイがする」

「ニオイ?」

「うん」


 その言葉に、エロイースは自身の知識を思い返す。


 魔物の多くは、生物と何ら変わらない存在だ。魔力によって、通常の生物とは一線を画す強さを持つがそれだけ。

 しかし、高位の魔物は魔力に強く影響されている分、魔力の感知能力が高いと言う。竜がそれをニオイと表現しても何らおかしくはない。


 おそらく、ハクはクロの闇属性魔力を感じたのだろう。後は、純粋にクロとの相性が良かったからだろうか。


 ともかく、懐いてくれるのならば、問題は少ない。エロイースは、そのように考えることにした。


「ハクちゃん、私たちと一緒に来る?」

「?」


 ハクは小首を傾げる。しかし、それよりも子どもたちの方が敏感に反応した。


「ハクちゃん、連れて行っちゃうの?」

「ハクは、俺たちの友だちだぞ!」

「人攫いだ!」

「誘拐は犯罪なんだぞ!」


 ハクは、とても好かれていた。


「別に攫うわけじゃねぇ。ここにいるのは、危険なんだ」

「「「えっ?」」」


「う、ウソだ!」

「そ、そうだ、そうだ!」


 クロの言葉に、子どもたちは一瞬、驚くも、すぐに勢いを取り戻す。


「あんたら、嬢ちゃんが竜であることを知ってるな?」

「な、何のことだ!」

「そうだ!ハクは人間だ!」

「ハクちゃんは可愛い女の子よ!」


「じゃあ、白い髪と黒い瞳はなんなんだ?」

「うっ……」

「それは……」

「ハクちゃんは、人間よ!」


 子どもたちだって、属性色の知識はある。よく理解できていない年少組はまだ騒がしいが、年長組は言葉に詰まり大人しくなる。それに釣られて、年少組たちも段々と大人しくなった。


「嬢ちゃんは……どうした?」


 クロが子どもたちの説得を続ける中、ハクがクロの服の袖を引っ張った。そして


「ハク」

「へ?」

「嬢ちゃん、じゃない」


 呼ばれ方を気にした。


「いや、あの」

「ハク」

「……」

「ハク」

「……ハク」

「うん」


 クロに名前を呼ばれて、ハクはとても嬉しそうに笑った。


「……ハクは竜だな」

「うん」


 クロは、何事もなかったように言葉を再開する。周りはそれを生暖かく見つめていた。

 それはともかく、当人であるハクが自身を人でないことを認めた。


「そして、ハクはまだ、幼い。気配が漏れて、森の獣たちの様子がおかしい。これを知れば、村の大人たちはハクをいじめるだろう。お互いのために、ハクはここを離れた方が良いんだ」


 子どもたちは静かだった。俯く者、涙を溜める者、様々だが、一様にハクとの別れを理解していた。


「ハクは、パパについて行く」

「……せめて、お父さんにしてくれ」

「うん、お父さん」


 ハクが嬉しげに綻んだ。


 なお、ここでお兄さんと指定すれば、ハクはクロのことをお兄さんと呼んでくれただろうが、クロがそれを知る日は来ない。なんなら、名前でも良かった。


「ハクちゃん、元気でね」

「元気でな!」

「また会おうぜ!」


「うん!みんな、バイバイ」

「「「さよなら、ハク!」」ちゃん!」


 ハクの明確な一言によって、泣きながら笑う子どもたちが別れの挨拶を告げる。


 そして、クロたちは旅の続きを再開……はしなかった。


「あっ、私、水浴びしたいから、ハルトくんたちは見張りお願いね?」


 それはともかく、エロイースが水浴びしたいのは、本当のことであった。


 なお、覗こうとするレオパルトと、クロと子どもたちによる攻防があったことをここに記す。


 その決着は、大人気なく魔法を使ったレオパルトがクロたちを突破して、エロイースの魔法に敢えなく捕まったのであった。


 もちろん、クロとレオパルトはこの結果をわかっており、ハクと子どもたちとの思い出づくりなのであった。

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