表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第一部
13/46

十二頁

 村長宅での夕食の席。


 並べられているのは、籠に盛られた黒パンに、木皿によそわれた根菜類が中心のスープ。一応、肉もはいっているようだが、細かすぎてよくわからない。

 これでも、辺境の村落の食事としては、贅沢な方だろう。


 村長は人の良さげな初老の男だった。妻には先立たれ、子どもは別に家を建てて暮らしており、既に孫もいるらしい。


「村長さん、この辺りに湖はありますか?」


 和やかな食事の中、エロイースが問い掛ける。それに答えようと村長が食事の手を止めて、村落周辺の地形を思い出すように頭を捻る。


「はて、確かに綺麗な湖がありますが、それがどうかされましたかな?」

「そうですか。いえ、水浴びができないかと思いまして」

「あぁ、なるほど。えぇえぇ、ここの湖はとても澄んでおりましてな、村の者たちも時折、水浴びに出掛けるくらいには安全でもあります。明日にでも行ってみると良いでしょう」

「ありがとうございます」


 特におかしなところもなく会話が終わり、また、食事が再開される。

 しばらくして、今度は村長が口を開いた。


「あぁ、そうだ。皆さんは冒険者なのですよね?」

「えぇ、そうですよ。どうかされましたか?」

「いえ、実はね。狩人たちの話で、森の様子が少しおかしいとのことでして、湖の方に行くなら、ついでに調べていただけないかと」

「なるほど。まぁ、私たちも急ぎの旅ですが、その程度の余裕はありましょう。ただ、急ぎの旅ですので、報酬は要らない代わりに、何もなければそのまま旅立ってしまおうと思うのですが、よろしいですか?」

「えぇ、構いませんよ。このようなところでは、碌な報酬もご用意できませんので、調べていただけるだけありがたいことです」


 レオパルトが対応してその後には、特にこれといったことはなく食事を終え、床に就くのだった。


 ……


 翌朝。朝食をいただいたクロたちは、お礼を言って村を出立した。


 依頼もあったので、一先ず湖の方に向かう。


「それで、イース姐さんは何を気にしていたんですか?」


 クロの問い掛けに、エロイースは笑みを浮かべ答えた。


()()()よ」

「竜卵湖、ですか?しかし、村の様子からは竜が出現したようには思えなかったですが」

「そりゃそうよ。彼らは人前に姿を現さないもの」

「え?」


 竜卵湖とは、魔物の最強種とされる魔竜系の魔物のいくつかの種類が好む産卵場である。基本的には、澄んだ水で森に囲われた湖が好まれる。


 エロイースは、今向かっている湖がそれなのだと言い、そして、人前に姿を現さない、つまり、知能の高い魔竜系であるところを示した。


 ……


 一口に魔竜系と言っても、それらの魔物はさらに三種類に大別される。


 一つ、亜竜。翼竜(ワイバーン)蛇竜(ウァーム)など、逆鱗を持たない本来は竜とは呼ばない爬虫類。


 一つ、三竜。天地海のそれぞれに適応した、飛竜、駆竜、泳竜の三種類の竜。一般的に竜と言えば、この種類だ。逆鱗を持ち、前肢が翼や鰭などそれぞれに適した形状をしていることが多い。


 一つ、真竜(ドラゴン)。竜の中の竜。紛うことなき地上最強の生物。大国の城に匹敵する巨体を持ち、強靭な四肢とは別に空を裂く大翼を羽ばたかせ、逞しい竜尾は古を生きた大樹を思わせる。輝ける竜鱗に覆われ、冠が如き大角を生やすその姿は、正しく王者のそれ。

 特に強大な五種族は、竜鱗の色合いから五色竜と呼ばれる。


 この中で、エロイースが言うように人を避けるような竜は三竜の上位種か、真竜である。亜竜はそもそもの知能が低く、三竜の多くは力を誇示する性質があるため、人という面倒事を避けようとは考えない。

 力を誇示する必要がないほど強く、人を面倒事と認知できる存在は、真竜である可能性が最も高かった。


 ……


 クロたちは何事も無く、湖に辿り着いた。


「わーい!」「こっちこっち!」「やったな!」


 そこでは村の子どもたちが遊んでいた。


「イース姐さん、これ、竜いないでしょ」

「いえ、いるわよ。あの子に注目して」

「「あっ……」」


 ほのぼのとした光景にクロが思わず溢せば、エロイースが一人のまだ幼い少女を杖で示した。そちらを注視したクロとレオパルトは、マヌケな声を上げる。


 その少女はたいへん可愛らしかった。しかし、人間ならばあり得ない容姿をしていた。長く艶やかな髪は、光属性を示すのだろう白金色でありながら、瞳は闇属性を示すような漆黒。

 人間に二つの属性を持った者はいない。光属性の瞳は少々特殊で、眼球に通う血の色が透けて紅く見えることもあるとはいえ、瞳は決して黒ではない。


 つまり、その少女は人間ではない。


「あれ?おじさんたち誰?」


 一人の子どもがクロたちに気づき、ワラワラと集まってくる。


「みんな、こんにちは」

「「「こんにちは!」」」


 エロイースの挨拶に、子どもたちは元気良く応えた。


「何しにきたの?」

「お姉さん、綺麗だね!」

「わかった!水浴びに来たんでしょ」


 優しげに微笑むエロイースに警戒心が弱まり、子どもたちが好き勝手に喋り出す。そんな中、件の少女がクロに近づく。


「お父さん?」


「「「ッ!?」」」


 衝撃の発言にあたりの空気が固まった。


 少女はその様子に小首を傾げている。

『翼竜ワイバーン 脅威度:C

 前足が翼となった蜥蜴。飛行というより滑空している。一応、火を吹ける。刺々しい尻尾で攻撃してくるが、毒はない。傷口が化膿したのを勘違いしたことによる迷信である。


 蛇竜ウァーム 脅威度:C

  巨大な蛇。砂漠地帯で砂中を泳ぐように移動する。

           −魔物図鑑〜魔竜系〜より抜粋』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ