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亡国の騎士道  作者: 龍崎 明
第一部
10/46

九頁

 翌日。不完全燃焼ながらも、冒険者ギルドによってマチャルアに潜む〔暁の騎士団〕は撃退されたとの判断が下された。これは報酬を渋った際に、多くの冒険者が不満を溜め込むためとの事情もあったが、クロとレオパルトが先に壊滅させていた田舎町ラナックの拠点の存在により、マチャルアの拠点の価値が低下しており、鮮やかな撤退に、完全放棄されたものと考えられたためである。

 なお、情報の漏洩による内通者が疑われたものの、その証拠を掴むことはできなかった。


 逃走したレヴィア・エンヴィナンナの行方も知れず、〔暁の騎士団〕捜索は振り出しに戻った。


 そのため、クロとレオパルトは足止めを余儀なくされ、未だにシュパイカー商家の厄介になっていた。レオパルトが一から情報収集に勤しむ中、クロは協力者との良好な関係を維持するため、キネアの外出の護衛を請け負っていた。つまり、デートである。


「クロさん、このヌイグルミ、可愛いですよね?ね?」


 キネアが推している何だかよくわからないがお世辞にも可愛くは無いヌイグルミを見て、クロは苦笑する他ない。


「ん、まぁ、そう、だな?」

「そうですよねぇ。どうしよっかな?買っちゃおうかな?」

「ふぇふぇふぇ、お嬢ちゃん、買ってくれるのかい?今回はどうにも売れ行きが悪くてねぇ。それは私の孫娘が縫った物なんだよ、どうだい今ならこっちの櫛もオマケしたげるよ?」


 ヌイグルミをはじめとした雑多な商品を並べた露店の店番は、善良そうな老婆であった。ただ、この老婆もたぶん、注目のヌイグルミについて可愛いとは思っていない。櫛をオマケしたと思えば、その他にも色々とオマケしようとした。商魂逞しいというよりも、よくわからない物を売りつける罪悪感からくる行動のように思える。


「わぁ、いっぱいオマケしてもらっちゃいましたねぇ。得したなぁ」

「そうだな、良い婆さんだった」

「はい!」


 結局、ヌイグルミに対して数十点のオマケがついてきた。そのため、袋に入ってはいるものの不安定な山となって、クロの両手に抱えられていた。ただ、クロは魔法によって調整しているので、これが崩れることはない。なんなら、宙に浮かせることもできる。

 なお、最終的な値段は、キネアの良心によって釣り合う程度になっており、老婆も損はしていない。


「そろそろお昼ですね。クロさんはお腹空きましたか?」

「あぁ、そうだな。屋台にするか、それとも喫茶店か?」

「うーん、屋台にしましょう!」


 そう言って、二人は屋台の集まる広場へと歩いていった。


「クロさんは座って待っていてください!私がテキトーに買ってきます!」

「あっちょ……」


 荷物を抱えるクロに配慮したのか、キネアがクロの静止も聞かず屋台に突撃してゆく。一応、名目上は護衛であるが、目に見える位置にはいるので良いか、とクロはキネアの指示に従って席を確保した。


 席は広場中央にある噴水に程近いベンチである。荷物を脇に置いて、クロはキネアを目で追い掛ける。


 噴水は見事な彫刻で飾られていた。噴水の題材としては一般的な水の精霊、水婦(ウェンディーネ)を模しているようで、薄衣を纏う美しき貴婦人たちが水浴びをしているように見える。


 それを眺める美女がいた。あまりの美しさに人が避けて通っている。その様は一幅の絵画のようですらあった。

 キネアを追い掛けていた視界の端に、クロもその女性を捉えた。


 樹属性のロングヘアに魔女を思わせる恰好。


「イース姐さん?」


 クロの声に反応して、美女が優雅に振り向いた。そして、甘く気まぐれな声で言葉を紡ぐ。


「あら、ハルトくんじゃない?久しぶりねぇ」

「……今はクロと名乗っています」


 さも偶然であるかのように振る舞うエロイースに、クロが胡乱げな視線を投げる。しかし、エロイースはニコニコと微笑むだけで、悪意の欠片もなさそうである。

 〔暁の騎士団〕にレヴィアがいたため、無条件に信用することはできないが、果たして、エロイースはどちらであろうか。


「安直ねぇ。せめて、シュバルツとかにすれば良いのに」

「メンドーだったので、安直な方が覚えやすいですし」

「ふ〜ん?」


 嫋やかな足取りで、エロイースはクロに近づいた。ちょうどそこへ、キネアが串料理を抱えて戻ってきた。


「お待たせしました!クロさん!」

「あら、可愛らしいわねぇ。クロくんの彼女さん?」

「え、違いますよ〜……って、誰ですかこの美人さんはぁああ!?」


 エロイースのからかいに対して満更でもなさそうな反応を示した後、キネアはさっきまでいなかったエロイースに飛び上がるほどの驚愕の反応を示した。

 なお、投げ出された串料理はクロが魔法で回収した。


「私?私は、エロイース・ラストアーン。クロくんとは同郷で小さい頃からお世話している仲よ?」

「はえ?」


 キネアはエロイースの魅惑的な声に当てられて、フリーズしてしまった。


「イース姐さん、また研究に明け暮れてましたね?」

「あら、よくわかったわね?」

「そりゃ、嬢ちゃんがこの状態になればねぇ?」

「うーん?あっ、魔力漏れしてる?」


 クロの呆れ声に、エロイースは唇に指先を当てながら首を捻り、その理由を思いついた。


「はぁ……」


 クロは溜息を吐いて、エロイースが相変わらずであり、おそらく〔暁の騎士団〕に関係無いと結論付けた。


 エロイース・ラストアーン。紛う事なき魔法の天才。根っからの研究肌。


 シュバリア王国で活躍していた時にも、古代から生きる魔女だの、団長に惚れた淫魔だのと噂が立つほどに謎めいた美女。


 容姿はここ数十年全く変わらず、その魔力は常に魅了のチカラを秘めている。


 そして、研究に明け暮れていると、魔力制御が疎かになり、日常生活で誰彼構わず魅了してしまう厄介な存在である。


 つまり、〔暁の騎士団〕に彼女が所属していれば、事態はもっと酷いことになっていて然るべきなのである。


 というのが、クロがエロイースの疑いを払拭した理由であった。

『精霊

 広義には魔物に含まれる。魔石を核として、魔力のみで仮初のカラダを象る。世界の意思の具象とされる。なお、精霊の魔石は、精霊石と呼ばれ、魔力でカラダを象る精霊は魔物と違い、精霊石の状態では休眠しているに過ぎず、魔力を供給すれば復活または覚醒する。


火蜥蜴サラマンダー

 火の精霊。赤い蜥蜴の姿で現れるが、そのカラダは火である。火山などにおり、直情的な性格。

水婦ウェンディーネ

 水の精霊。薄衣を纏う貴婦人の姿で現れるが、そのカラダは水である。湖沼などにおり、気まぐれな性格。

風子シルフ

 風の精霊。中性的な子どもの姿で現れるが、そのカラダは空気である。峡谷などにおり、無邪気な性格。 

土小人ノーム

 土の精霊。小さな人の姿で現れるが、そのカラダは土である。砂漠などにおり、温厚な性格。

木乙女ドライアド

 木の精霊。少女の姿で現れるが、そのカラダは植物である。森林などにおり、天然な性格。

天鳥フェニクス

 光の精霊。輝く鳥の姿で現れるが、そのカラダは光である。天空におり、明るい性格。

冥犬ケルベロス

 闇の精霊。漆黒の三つ首犬の姿で現れるが、そのカラダは闇である。地底におり、暗い性格。

         −魔物図鑑〜基礎知識〜より抜粋』

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