プロローグ
初めまして、お久しぶりです。
まぁ、まだまだ若輩の身ですからほとんどの方が、初めましてですかね?
この作品は、百話いかないくらいの短めで完結する予定となっております。
現在、書き溜めは第一部まで、出来上がっており、おそらく第二部を細々と不定期更新してゆくことになるでしょう。
それまでは短いですが、毎日更新致します。
ではではどうぞ、拙作をお楽しみいただければ幸いでございます!
田舎町ラナックは、アリバナ王国という小国の西方に位置している。
国境からそれなりに遠く、肥沃な森林に囲まれ、過不足無い資源によって、それなりの生活を営む町の住民たちは、大らかな性格の者が多く、余所者にも居心地の良い風土であった。
近隣諸国の者で、都市の煩雑な生活に疲れた者たちが隠居を考える土地として、まず、頭に浮かぶ土地と言えば、その長閑さがイメージできるだろうか。
ラナックに豊かさを齎している肥沃な森林ではあるが、当然、その豊かさを求めるのは人間ばかりではない。柔らかな草木を求める草食動物やその肉を求める肉食動物が集まってくるのは、自然の摂理であろう。
その中でも、一際、人間たちにとって厄介であるのが魔物であった。魔物は、通常、臆病な動物たちと違って、とても凶暴であり、その身に蓄えた魔力がその力を高めている。一説には、魔力というのは欲望の発露であるとされ、魔物が凶暴であるのは、欲望の強い人間の自業自得との話もあるが、人里近くの魔物よりも、深山幽谷の魔境に棲まう魔物たちの方が強大であるので、高尚な人間はその話を眉唾ものと受け入れない。
まぁ、そのようなことは魔物を狩って日銭を稼いでいる冒険者たちには関係の無いことである。
そう、冒険者。ラナックが豊かであるのは、彼らが凶暴な魔物を狩り、森林の資源を採取しているからであった。
魔物に対抗し得る彼らは、当然、その多くが荒くれ者である。ラナックのような土地ならば、郷土愛によって活動している者もいようが、ほとんどの人間は死と隣り合わせである仕事をしようなどとは思うまい。都市に所属する冒険者の多くは、孤児や農家の次男三男坊である。
そんなお世辞にも素行が良い、教養があるとは言えない彼らは、放置してしまえば、忽ち問題を起こす集団である。何せ、魔物を討伐する彼らは、魔物の魔力の幾らかをその身に蓄え、一般人では到底敵わぬ理不尽な武力を持ち得るからだ。
まぁ、烏合の衆ではあるだろうから、その問題というのは、国家転覆などの大惨事になることは稀である。しかし、ないとは言えない以上、国家がこれを危惧するのは当然であり、いくつかの大国の協議を経て、冒険者を管理する組織が構築された。
それが冒険者ギルドである。若い芽のうちから管理することで、弱みを握るなり、恩を売るなりして、反抗心の起こらぬようにするのである。
ラナックにも冒険者ギルドは当然、設置されていた。
そこに所属する者のほとんどは顔見知りである。この世で最も単純な力を持つ割に、気の良い連中の集まりであった。
今、西部劇に見るようなスイングドアを押して、ギルドに帰還した人物もまた、ここ数年、ラナックで活動している冒険者であった。
ザンバラに切られた黒髪は大して手入れをしていないのか、くすんでいて堅そうな印象を受ける。髪よりかは、潤んだ黒瞳もどこか虚であった。髭の手入れはしているようにも見えるが、顎髭だけは無精髭のように残されている。中肉中背の立派なおっさんであった。これで鉄剣と革鎧を身につけていなければ、冒険者とは誰も思わないだろう。
「おう、帰ったか」
幾人かギルドに併設された酒場に屯していた者たちが、おっさんに声を掛ける。おっさんもそれに合わせて、手を挙げて応えた。
「クロさん、お帰りなさい」
「あぁ、確認を頼む」
そばかすはあるものの素朴な可愛さを持った受付嬢もまた、おっさんの帰還を迎える。おっさん、あらためクロは、言葉少なに応えて幾らかの魔石を木製カウンターの上に載せる。
魔石は、魔物の体内で凝固した魔力であるとされ、魔道具の動力として使用されている。また、冒険者ギルドでは魔物の討伐証明となる物品であった。
「はい、確認しました」
「……?」
「クロさん、そろそろ昇格試験の方を……」
「あ〜、メンドーだからパス」
「そこを何とか!」
「パスだ、パス。早く報酬を渡してくれ」
いつもの光景であった。冒険者は魔物の危険度に応じた闘級制度を採用しており、上からS・A・B・C・D・E・F・Gの八段階となっている。
クロは、D級冒険者であり、これは順調に活動をしていれば、自然と到達する闘級であった。C級以上にはそれ相応の実力が求められ、昇格試験が課されている。通常の冒険者は名声や富を求めて積極的に挑戦するのだが、クロは何らかの事情でそれを辞退していた。
それで付いた綽名が
「諦めろ、『懶』のクロの名は伊達じゃねえ」
懶。怠け者という意味である。
……
その後、クロは受付嬢の懇願を躱して、ギルドを去った。
行きつけの静かな酒場に脚を伸ばす。
カランカラン。扉に付けられた鈴が店主に来店を告げる。
「いらっしゃい、客が来てるよ」
「なに?」
店主の指し示す方を見れば、カウンターに座る艶やかな紫髪の優男がグラスを片手に微笑を浮かべ、空いた片手を振っている。
ラフな恰好の男だ。耳には黒い十字架のピアスがあり、軽薄そうな印象を受ける。
「はぁ、何の用だ?レオパルト」
「まぁ、座りなよ」
クロは面倒くさそうに、レオパルトの隣に座る。店主は沈黙を保って、クロの前にグラスを置いた。中身は、いつもの安酒である。
『正と負、中庸
欲望を象る魔力は、喜びや愛をはじめとした正の欲望、怒りや嘆きをはじめとした負の欲望と象る欲望によってその性質を変える。
正の欲望を象る魔力に影響されることを神化と呼び、神化した存在は優しく穏やかな善性を獲得する。
負の欲望を象る魔力に影響されることを魔化と呼び、魔化した存在は凶暴で狡猾な悪性を獲得する。
正の魔力はその身に留めようとし、負の魔力はなるべく排そうとするため、欲望の強い人里近くでは、正と負が混じり合い力の弱い魔物が、人里から遠くでは負の魔力の濃度が上昇し、力の強い魔物が棲息することになる。
なお、欲望を象らない中庸な魔力に影響されることは精霊化と呼び、自然との調和を図る性質を獲得する。
−魔物図鑑〜基礎知識〜より抜粋』
こんな感じで、作中では明かさない予定の細々とした設定を豆知識的に時折、紹介していこうと思います。
なお、作中では言及しないため、若干の齟齬出る可能性があります。




