2-17 テンション高いね君たち
紆余曲折あったけどやっとここモリヤミに着いたんだなぁ(しみじみ)
まさかユウキパーティー在籍時に培われたであろう土下座がここで生きてくるとは思わなかった。あいつらは俺が監視しとかないと何しでかすか分からないことが分かったのだけが今日の収穫だな。
よつばと旅をしはじめて今日で10日ぐらい経つのかな。まさかここまで生き残って来れるとは思わなかった。
本当はこの遠回りの道を通らなければ3日ぐらいで道を制覇してそうだけど、俺としてはユウキ達やエリック達に会いたくないからな。これはもう仕方ないね。
マールの故郷は港町らしく、いろんな魚介類が食べれるらしい。俺達はそこに来ていた。モリヤミの都にもうすぐ着く。
「なんとなく浜の匂いがしてきた。これがいわゆる地中海ってやつか!」
波のさざめきが疲れきった心身を癒してくれる。正直心地いい。
「誰もいない海はなんかいいな」
「波の音が響いてなんか落ち着くね~」
「せっかくだしここでゆっくりしていくか! せっかく誰もいないんだし!」
「さんせ~い!」
◇
この時ハルトは思った。この浜風が心地いい......少しだけ眠りたいと。
この時よつばは段々とこっちに近づいてくる『何か』に怯えていた。
この時マールは何を思ったのか思考放棄しており顔も身体もボケっとしていた。
この時ガドラは夢の中でジュンティルを愛でながら愛くるしくかわいい子供を探し求めていた。
◇
「……ソイ…….ソイヤソイヤ」
今日は平和だなぁ。こんな雲一つ無い晴天で昼寝するの最高に心地いいだろうなぁ……
「ソイヤソイヤソイヤソイヤ!」
なぜだろう。脳内から幻聴が語りかけている。多分、身体の限界がここで来たのだろう。これは目を瞑れば確実に愉快な夢の世界にレッツゴーできそうだ。
「ソイヤソイヤソイヤソイヤ!」
いや幻聴じゃないな。なんだよ誰かソイヤソイヤ祭りでもブームなんかな?
「さっきからうるさいぞ……」
ボヤいても効果は今ひとつと言わんばかりにますます音量が増すこの掛け声。俺は重たい身体を無理矢理動かし騒音の元凶を叩き潰そうと盾を持った所で……俺は今起きてることに目を疑った。
「ソイヤソイヤソイヤソイヤ! ソイヤソイヤソイヤソイヤ! ソイヤソイヤソイヤソイヤ!」
うわぁぁぁぁぁぁなんだこいつらぁぁぁ!? 船が突っ込んできただとぉぉぉぉぉ!?
「マジテンションアゲアケー! しょうちゃんでーす!」
「バイブス高くてヤバめー! ネズだよー!」
「そして私がこの光雷丸の船長! 大判海鳴様だ!」
文字通り船が俺達に突っ込んできた……初対面だけどさっそく君達に恐怖を抱いている。
呆気に取られている俺達一同を尻目にアイツらは凄いテンションが上がっている。
「yeah! 完璧に決まったぜ!」
「マジアガるんですけどー!」
「こりゃリピ確定でしょ!」
「あれ? 異世界の言葉ではなしてます?」
なんだろう......俺とは違う人種の人間達だ! ていうかこの顔どこかで......
◇
思い出した! アイツは幼馴染の......
「お前、白崎ネズやろ! 確か少し前にバトミントンで一回戦敗退したという」
締め上げてやろうかと言いながら実際に首を締め上げてきた。これだよこれこれ! このヘッドロック、感触は間違いない!(俺も大概Mッケあるよな?)
「俺は世界ランク8位様だぞ!」
うん。凄いけど絶妙に中途半端だ。誇張抜きで凄いんだけどね。
白崎麗斗、通称ネズ。バトミントンという新しい競技を自らの手で作り出し世界に広めたという行動力とカリスマの化身だ。巷では新たにベースボールなる競技も布教してるとかしてないとか......
「待てい! お前こそ......合格するだけでもキツい盾使いの試験を合格して、その後有望株のパーティーに勧誘された......ハルトか? なんだこの包帯! ほれ!」
あっさりと解放してくれたネズ。だがしかし、さっきの関節技でもう俺の身体は限界が近いぞ。
死に体の身体を振り絞りなんでネズがここにいるのかを聞いてみると、それは自分が予想した通りの傍若無人な理由だった。
「実はプルルンド帝国から指南役として呼ばれててなぁ。漁師ついでに一走りしてやろうとな」
「は、はあ」
やっぱりコイツの思考回路が分からない。何がどうしてそうなったらこうなるのか?
俺がこの世界に生を受けた瞬間からの永遠の謎に頭を悩ませていると、神出鬼没なネズはいつのまにかマールにある提案をしていた。
「勝利とかは別にどうでもいいけど、確かに練習という身体を痛めつける行為には興味がそそられるね」
「そんな君に素晴らしい提案をしよう。君もバトミントンを始めてみないか?」
「ヤ☆ダ」
「見れば分かる。君の強さ、天性のものだ。その闘気が練り上げられている。天才的だ」
「それより練習をやってくれない? ボクはもうウズウズしてるんだ」
なんか絶妙に話が噛み合ってないな。バトミントン仲間を増やしたいネズVSただドM野郎のエルフと言ったところか。
そんなにバトミントン仲間が欲しいんだなネズは。行動力の高さは相変わらずのようだ。
「はいはーい! 光雷丸の皆さん! 美味しくないけどよく飛ぶムネノリ特製のパイだよ~」
「……もう何が来ても驚かんぞ。美味しくないって自分で言うんかいとかよく飛ぶとかどういう意味かとかツッコミたいことがいっぱいあるがな」
もう1人船に乗っていた船員が言うにはこの人は専属ではなくただ乗り合わせたコックらしい。今回は食材調達のためにわざわざ船に乗り込んだということだから驚きだ。モリヤミで店を構えているからぜひ一度ということだ。
ついでにその船員にとある人についての居場所をさりげなく聞いてみた。だっていくら追放されて殺されかけたとはいえ、元は旅仲間だったのもあり気になってしまうのが本音だ。
できれば会いたくはないのも本音だが、どこか話し合ったら和解できるんじゃないかって思ってしまい踏ん切りがついてないのも本音。俺は矛盾の塊だ。
「ユウキね~! ん~パリピ友達って感じ? 少し前に横暴な領主を倒して街を救ったという武勇伝を語っていたね! さすがパレンラトス王国の勇者に選ばれた人だよね~!」
「俺達ができないことを平然とやってのける!」
「そこに痺れる憧れる!」
ああ......アイツら順調に勇者道を突き進んでるんだなぁ。ユウキ達......
「あとユウキ一行は野暮用があってモリヤミ近くを通ると聞きましたな」
……は? ユウキ達がここ、モリヤミに向かってる?
「な、なんだって!?」
「どうもユウキ殿はパレンラトス王国の国王陛下の弟様に会う予定らしいな」
「そういえば……確かそんなこと言っていた気がしなくもないのですの……」
「ハウァァァァァ!?」
よつばの王女視点の考察によると、パレンラトス王国の別荘地があるようだったが、幸いにもその建物は『整備されていてパレンラトス王国の首都から直で行ける大通りの道』に近い場所にあるらしく、ここの道とは大分遠くの場所だった。
ご存知の通り我々一行はわざわざ遠回り、すなわちプルルンド帝国にも行けるけど塗装もロクにされてない山道海道を進んでいたわけだけど、この判断は一応正解だったようだ。
わざわざこの道を選んだ理由はエリックやユウキに関わりたくないから。だってユウキ達に出会ったりしたら確実にロクな目に遭わんだろうし、エリックはまあ単純に高圧的な態度が気に入らないから。
とりあえずこちらから近づかない限りユウキ達と接触することは無いだろう。不幸中の幸いとして情報を得ておけて良かった。今のうちにいろいろ策を練ろう。
◇
「それで結局あたくし達になんの用で接触してきたんですの?」
「モリヤミにある冒険者の街は流通網が充実してるじゃん。もしかしたら同業者かなぁって声をかけてみたんよ! ウケるw!」
(落ち着きなさい王女よつばよ。この人がいくら私をイライラさせようと平常心だけは保つのですの)
あっ……よつばから微かなオーラが、怖。頑張ってネズ。コイツを怒らせたら最悪不敬罪で処刑されるぞ~。
「そうだ! いまいちパリピの道に乗れてない男よ。せっかくあの街寄るんだし明日空いてる~?」
ああ、白崎と同じ船に乗ってた人だ。俺ではなくガドラに話しかけている。
「え? そりゃあまあモリヤミについたわけだし多少は」
「初対面だけど気にせず話を持ちかけるぜ。実は副業でとある家を建ててるのだが、ちと人手が足りなくてなぁ。もちろん報酬は弾むから少しだけ手伝ってくれないか?」
え? 急な仕事の誘いでなしてガドラに? それよりも報酬は弾むという言葉に聞き捨てならない件について。
身体を酷使することを察したのかマールさんがアップを始めました! この人はまだお前に話しかけてないでしょうが! 引っ込んどけ!
ていうか報酬……ガドラは突然のお願いに少々困惑していたが、報酬といえば……やっぱり金か、金だよな、金に決まってる。
「友人の友人繋がりの友人筆頭代表の俺としても頼む。大判さんはこう見えて不器用でな。こうでもしないと人を誘うことができないんだ」
そう言うと白崎が頭を下げた。こう言われて態度に出てるとこっち側は断りづらくなるのを知ってか知らずか。
「ハハハ! 人手は多い方がいいしお前さんも手伝ってくれないか? 報酬という言葉に身体が反応していたそこのお前さん!」
ほう……俺にもお誘いが来たか。金と職人の匂いを嗅ぎつけました。とりあえず大判さんと少し重要な話をして良かったら手伝う方向でいく。
「……報酬は?」
「……ゴニョゴニョ」
「なんだって!?」
もちろん二つ返事で快諾した。
◇
その後船騒動のせいで大分時間を食ってしまい、仕方なく近くにあった宿に泊まることになることはまた別のお話。
「ここにいたのか」
「ああ、ネズっち。
「お前、あの少女からことの顛末を聞いたけどよ。大変だったな。ていうか鋼メンタルがすぎるだろ」
あのパリピ野郎のネズが真剣な口調で話しているだと……!? ていうかあの王女めいつそんな話を……あと鋼メンタルは余計だ。
「アイツから聞いたのか。口が軽いの考えものだよな。本人は口が硬いほうだと言ってたけど」
「何かあれば俺の家に訪ねてこいな。この封筒の中に住所が記してある」
「ネズにはしんみりした顔してほしくなかったなぁ似合わないから……ありがとう」
今からあの白鳥達は海を渡るのか集団で羽を休めている。一抹の静寂の末、白鳥達が風に煽られ一斉に飛び立ち始めた瞬間、俺は誰にも聞こえないようなか細い声でボソボソと呟いた。
「それにしても鋼メンタルか。昔からよく言われてたなぁ……これでも1人で一晩中泣いたんだよ?」
◇◇◇◇◇
次回に続く
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