2-12 絶望•後悔•希望•茶番
どんなに努力しても大一番で結果を出せなきゃ意味が無い。それは一回とあるパーティーから戦力外になった俺に言葉の重みと共に暗い影を落としていた......
◇
もう嫌だった。こんな人間の為にアイツは殺されるべき男なんかじゃなかったんだ。俺が死ぬべきなんだ。俺の使いようのない命でガドラの身体を癒せるなら何度でも殺されようとかまわない。
______ハッ、俺は何を自惚れているんだ? 俺如きのくだらない命が釣り合うとでも?
どこまでも傲慢なクズだ。俺のような塵芥がこれ以上何かをすることが許されるとでも思ってるのか?
俺が死んだらみんなにどれだけ迷惑がかかると思っている? 勝手に1人で解決できるような問題でもない。
俺は言葉を選びながら茫然自失中のガドラに土下座をして謝る。
「盾使いとして命を賭けても全力で守り通すことができなかった時点で俺は生きてる資格は無い。ガドラ、煮るなり焼くなり好きにしてくれ......」
せめてケジメをつけたい。盾使いでありながらあの時、身体の痛みと共に恐怖が襲って動けなかったこの臆病者の処罰を下してほしい。いや......正直監獄生活とか処刑執行されるのは流石に無理だけど、今それを言える身分じゃないのも事実。
当の本人は自身の身に何が起きたのか分かっていないのかキョトンとしている。そりゃあ当然だろう。
まさか今日、腕が消し飛ぶなんて考えたくないよな。応急処置を手伝いながらガドラの容体を聞いたが命に別状はないことが分かってひとまず安心した。
けどガドラの目はまるで灯火を失ったかのように光を失っている。
「ごめん......俺は盾使いなのに腕一つも守ることができなかった。非力な俺を許さなくていい。けど俺はどうすればいい?」
四肢切断はよほどすごい魔導士が使う魔法じゃなければ基本的に治ることが無いと聞く。そんな魔法がどんなものなのか......自分自身魔法初心者に加えて魔法を扱うのがあまり得意では無いわけで、今の自分ではこの魔法を習得することは難しいだろう。
どちらにせよ俺では何もすることが出来ないのが辛い。ほんとうに取り返しのつかないことになってしまった......
「なあ......一言でもいいから何か喋ってよ......クソォォォァァァ! あのクソ悪魔め!」
指から血が滲むでるまで地面に叩きつけ悪魔アガレスを恨んだ。あの挑発に乗らなかった悪魔は、奴らのターゲットでありすでに致命傷を負っていた俺ことハルトをスルーしてわざわざ遠くにいたガドラを狙った......
不意打ちするはずが逆にアガレスに不意打ちされてしまったという失態を俺は犯したのだ。なんとも不甲斐なさすぎる。
するとガドラは唐突にスクっと立ち上がり俺は口を半開きにする中、二度と聞くことは無いだろうと思っていた声で衝撃的な事実をポンと話していた。
「いやいや、そんなに自分を責めないでくださいっす。腕ぐらいポンポンと生えてきますよ」
......え?
「クッ......ハルトよこれが現実逃避ってやつかな。なんて酷いことを」
マールの言うとうりさっきからガドラはウーンと首を傾げてピンピンしているのがなんとも不気味なのだ。どうしようガドラの精神も壊れたかもしれない。しかしそんな心配をよそにガドラはドンと力強く自らの身体を語り始めていた。
「フフン! 聞いて驚きなられ! 今まで言ってなかったっすけど俺は回復竜の末裔で多少の怪我ならすぐに治癒するし、さっき片腕が飛ばされたのも......」
そう言いかけたガドラだったのだけど、急に唸り声を上げて苦しみだしたという。俺は慌てて近寄ろうとしたらガドラが待ってくれと言い出し......
「ガァァァァァァァァァァァァ!」
「ホゲェェェェェ!? 生えたぁぁぁ!?」
よつばが青ざめながら俺の身体にしがみついてきた。マールは引き気味にガドラの腕を見ていて、俺も俺で軽く引きながらガドラの新しく生えてきた得体もしれない汁を出している腕を見つめていた困惑中の自分である。
「体力を大分使うデメリットこそあれど部位も再生することができるんす!」
ていうかガドラの身体どんな構造してんの? ニュルっと生えてきたの単純におぞましいぞ?
「ヒェェェェもう一回見てもまるでトカゲですの......」
よつばよ......この発言が出るってことは前に見たことあるのか? そういえばガドラの腕が落とされていても何故か王女だけ妙に落ち着いていたし。
ガドラによると前によつばの目の前で指を切断することがあったようで......
◇少し前◇
「ちょっ!? ギョェェェェェ!? 指が2つ消えてる......」
「何自分の顔を叩いてるんすか? それになんか顔色が悪いっすよ。王族って顔が青くなる能力でも持ってるんすか(笑)」
「いえいえ......どうしてこの身体で平常心に居られるのか私にはわかりませんわ」
「王族の人間の考えてることは俺には理解できないっす。失ったならこんな風に生やせばいいじゃないっすか」
「ギョェェェェェァァァ!?」
「また絶叫!? いやちょっと! なんでこんな外で寝ているんすか!?」
◇以下現在◇
「ジュンティルは俺の手に甘噛みをするとき毎回指を持ってかれてその度に指を生やすというのが日常だったんすけどね。いつものように指を生やしていたらたまたま居合わせたよつばさんが何故か泡を吹いて倒れたんすよ」
だいたい想像はついた。これまでの説明ありがとう。
これで自分自身の身体は特殊体質なんだと気づき、よつばはそのことがあったのでガドラの身体の構造をなんとなく理解していたと......
いや分からん。意味が分からない。今自分の顔がどんな感じになってるか分からないけど多分、すんごく苦悶の表情をしている。
リザードマンって色んな種類がいるとは聞いてはいたけど回復龍の末裔って飛び抜けてヤバイ力を持ってないか?
なんか......安心して泣きそうになってる自分がいるのに腹が立つ。ガドラが特殊体質なおかげで大事になってないだけでどっちみち俺は守れなかった事実は変わらないから。
「うん、ありがとね。本当に大丈夫なんだよね? うん、ありがとう」
後悔しても時間は過ぎる。だからこの失敗を次に生かす。自分勝手なことだろと俺も思ってる。だけど前に進むんだ。
「人の心配をするより自分の身体を心配したらどうっすか!? 酷い怪我っすよ?」
ああ......そういえばそうだったな。意識しだしたら急に痛くなってき......あっこれはやばいやつ。
「ヤバイヤバイ! 白眼剥いて泡吹き出してきてるって! そういえばこの人普通の人間だったしこれはアカンやつっすよ!」
◇
......少し夢を見た。幼い頃アイツらと遊びまくってたっけ。昔の盟友達にまた会いたくなってきたな。アイツら元気にしてるかな......
今思い出にふけってる場合じゃないのにどうしてアイツらが出てきたのか。
......いやわかってる。俺は元々自他共に認める畜生だ。そうでなきゃ......俺の心はとっくの昔に折れているし今だって前向きに捉えて生きてはいない。
◇
一瞬三途の川を渡りかけたけどなんとか現世に舞い戻って来れた。いやだって、絶望から希望に変わったのにここでくたばるわけにはいかないだろ。
「ある夢を見た......懐かしかったな」
あの夢を懐かしんでるとよつばとマールの声が聞こえたので寝るふりをしながら聞き耳を立ててみる。
相変わらずよつばはうるさい奴だ。話題は回復魔法についての話かな? あれって取得が凄く難しい魔法で唯一俺が覚えれなかった魔法でもある。
「確かに私は魔法使いですけど回復魔法は専門分野が違いますの! 小さな傷を治せるぐらいの回復魔法を使ったとしてもこの容体じゃ焼け石に水でしょ!」
「ええ......確かにボクが言えた口じゃないけどさぁ。回復竜の末裔である君は何かある?」
マールは困っているような声でガドラに問いかけていた。
回復魔法か......別にそんなの浴びなくても2日3日有れば自然回復してそうなんだよなぁ。
「俺......っすか?」
「うん。さっきみたいにニュルっとドバァってやってたみたいにできない?」
「気持ち悪い表現の仕方はやめてもらおうか。それで実のところっすけどねぇ......」
ガドラによると回復龍の末裔とはいえども回復魔法を使えるかは話が違ってくるらしい。確かに得意な奴も居るけど種族全体に自分の力を相手に使えるお方などごく少数という。ごく少数居ることについて興味はあるけどこれは置いておいて、このパーティー回復役が居ないの割とキツくない?
自分の身体は比較的傷が治りやすい体質らしいからこの傷はなんとかなりそうだけど。
「この傷は命に別状は無さそうですの。でも数日は安静にしなきゃいけないですわね。斧の先に当たっただけで済んだのがこのぐらいの傷で収まった原因かと思うの」
あれ? 回復できるなら少なくともガドラに盾使いの本領発揮しなくていいってことになるのか......? いや腕こそは回復するけど身体を貫かれたら流石にヤバいんじゃないか?
仮に身体全体再生可能とかになったら、盾使いとして商売上がったりなんだけど?
これは......まったく、俺の立場が無いな。そう思ったらプツンと緊張の糸が切れたかのように意識が深く沈んでいった。
◇◇◇◇◇
次回に続く
ついに......ついに10万字達成だぁぁぁ!