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第7話 勘違い

今回は玲也とクレスの対決があります。

「レイヤ・ヒジリ!僕と勝負しろ!」


 見知らぬ男子生徒の突然の叫びに玲也はぽかんとした。


(誰だこいつ?なぜ勝負と挑まれたんだ)


 思い返しても全く心当たりが無かったので、男子生徒の方を向いて口を開いた。


「なぜあんたと勝負をする必要がある?意味が分からないんだが」


 玲也の問いにクレスが答えた。


「それはカスミ・シミズさんを君という呪縛から解き放つためだ!」


(は?呪縛?何の事を言ってるんだこの男は)


 ますます意味が分からなくなったとき、ちょうど香住が玲也の傍までやって来た。


「香住、どういうことか説明できるか?」


 香住は息を整えてから、ゆっくりと口を開いた。


「わ、私もよく分かってないんだけど、アークライトくんに玲の方が私よりも強いという話をしたら、それは勘違いだと言い出したの。私が玲より強くなっていることに気が付いていないだけだとか・・・」


(・・・何となく状況が分かってきた気がする)


 玲也が内心で嫌な予感がしていると、クレスがさらに続けて口を開いた。


「君は知らないかもしれないが、1組は入学試験の成績優秀者を集めたクラスなんだ。確かに君も1組の生徒だが、入学試験トップのシミズさんより強いわけがない。しかもさっき見えた君のBDのレベルは十五だったし、すでに彼女は君より強いんだ」


(ああ、なるほど。やっぱりそういうことか)


 クレスの話した内容を聞いて、玲也は漸く事情を理解しつつあった。ならば、答える内容は決まったいた。


「なぜあんたと戦う必要があるんだ?香住の言ったことは間違いじゃない。あえて言わせてもらうが、俺は香住よりも強い」


 玲也の言葉にクレスはフッと笑った。


「確かに以前は君の方が強かったのかもしれないが、入学試験の結果が如実に表しているよ。シミズさんの方が君より強いとね。だから、僕が戦って勝つことで君の目を覚まさせてあげよう!」


(・・・だめだなこれは)


 クレスはもはや聞く耳を持たない様子であり、玲也は額に手をやりたくなった。もはや戦うことでしか誤解が解消されないことを悟ったからだ。


(しかし、人の目が多すぎる。それによく考えたら、戦わなくても本来の目的に支障が出ることはほとんどない)


 玲也としては本来の目的のために目立つ行動を避けたかった。それに戦うことに意義を見出だしていないこともあり、勝負を断ろうとした。しかし、


「中々面白そうな話をしているじゃない」


 という声が聞こえてきた。玲也が声のした方に視線を向けると、そこにはエリーの姿があった。


「オリエンテーションはもう終わりだし、この後は授業も無いから問題ないわ。このホールも長めに押さえているし、対戦できる時間は充分にあるわよ。ただし、生徒だけで勝手に使わせるわけにも行かないから。私が立ち会いをさせてもらうけれど」


 エリーの言葉にクレスは嬉しそうな表情になった。


「ありがとうございます!是非お願いしたいです」


(エリーのやつ、余計なことを・・・)


 玲也は内心溜め息を吐きたくなったが、外堀を埋められてしまったのでどうしようもなかった。


(ま、仕方ないか・・・)


 玲也は諦めて対戦に臨むことにした。その方が軋轢を生みにくいと半ば強引に思い込んでおく。


「決まりね。それなら私はセントルーズ先生に他の生徒を教室へ戻すようにお願いしてくるわ」


 エリーは事情を説明するためにグライダスの方へ歩き始めたが、その途中で玲也の方を見て軽くウィンクをした。その態度からはまるで貸し一つよ、と伝えているかのようだった。


(やれやれ、だな)


 玲也は苦笑しながら、軽く右手を挙げることで答えておいた。


「あ、あのっ!」


 玲也が対戦の準備をしようとしたら後ろの方から声をかけられたので、視線を向けるとそこにはセイラの姿があった。


「ん?どうした?」


 玲也が問いかけると、


「わ、私も、た、対戦を見学しても良いでしゅか?」


 とセイラが舌を噛みながら答えた。すると、


「面白そうだな。俺も観たいぜ」


 と、ロイドも続き、


「わ、私は当事者みたいなものだし、対戦を見学しても問題ないよねっ」


 香住に至っては観るのが当然だという様子ですらあった。


 三人の反応に玲也はこう答えた。


「俺に聞くことじゃない。クラウス先生にでも相談してみるんだな」


 ちなみにエリーと相談した結果、あっさり許可が下りたことを追記しておく。




「両者、共に準備はできた?」


 ステージを挟んで玲也とクレスが向かい合う。すで二人ともリンクギアを装着済みで、BDもステージ上に出現させていた。


(武器は槍か。あまり時間をかけるつもりは無いが、少し様子見するか)


 玲也は香住が対戦した相手の実力に少しだけ興味があったので、先手を取らせることにした。


「では、始め!」


「「リンク・イン!」」


 エリーの試合開始の合図で二人はほぼ同時に声を上げた。

 BDと接続されることで、スクリーンに二人のデータが表示される。


 聖玲也

 所有BD『真月』レベル15

 SP ????/????

 リンク率 75%


 クレス・アークライト

 所有BD『ライル』レベル31

 SP ????/????

 リンク率 54%


(レベルは三十一か。香住よりも高いな。リンク率も五十四パーセントとまずまずだな)


 玲也がデータを確認してステージ上に目を向けると、ライルが真月との距離を一気に詰めていた。


(動きも悪くないな)


 思ったよりも使えそうだと判断したところで、ライルが槍を軽く引いて突き出す。

 突き出した先端から、穂先と同じ形の衝撃波が放たれていた。


 槍術初級技 ショックスピア。


 この技は槍術の中でも数少ない遠距離技があり、ヒットすると一瞬硬直させる効果を持つ。


 真月は鞘から刀を抜き、下から上へ振り上げると、アーチ状の衝撃波が生み出された。


 刀剣術初級技 波刃(はじん)


 この技は刀剣術の遠距離技の一つで、位置付けとしてはショックスピアと同じである。


 二つの衝撃波が衝突したことで、周囲に軽い風を起こし、互いのBDの髪を揺らした。

 ライルはさらに距離を詰め、槍の穂先が届く範囲まで真月に迫ってきた。

 ライルの槍が光り出し、腰を低く落として槍を引いた。


(へえ、そのレベルでもう上級技が使えるのか)


 玲也は素直に感心した。一般的にレベル三十前後で上級技を習得していることは少ないからだ。


(だが、だからこそ()()()()()()()())


 ライルからセブンスプラッシュが発動し、槍の穂先が真月に迫る。

 真月は身体を右にずらして穂先が通過するのを確認し、右手で素早く抜刀した。


 刀剣術初級技 居合斬。


 槍の柄に向けて一閃し、槍の柄の半分から上が宙に舞った。


「何だと!?」


 クレスは思わず驚愕の声を上げる。しかし、真月の攻撃はまだ終わっていなかった。

 真月は次に左手で刀の柄を掴み、膝を曲げて下から上へ垂直に斬り上げる。


 刀剣術初級技 滝登り。


 この技は初級技の中でも難易度が高く、鞘を差している側の手から抜刀するのが特徴である。


 真月の斬撃がライルに直撃し、ガラスの割れたような音が周りに響いた。


「そこまで!勝者真月!」


 エリーが試合終了を告げた。

 あまりにあっさりとした幕切れに、観戦していた三人は呆然とした。

 しかし、それ以上に衝撃を受けているのは対戦相手であるクレスだった。


「ば、馬鹿な・・・。セブンスプラッシュがあっさりと破られるだと!?しかも、槍の柄が斬られるなんてあり得ない・・・」


 クレスが驚くのも無理はない。何故なら訓練用の武器は刃が潰されていて、普通であれば槍の柄を斬ることなど出来ないからだ。

 しかし、玲也は事も無げに口にした。


「たとえ刃が潰されていても、きちんと剣筋を立てて素早く斬れば不可能じゃない」

「一体、どれ程の技量が必要だと思っているんだ・・・」

「俺からすれば、そこまで難しい事じゃない」


 玲也にそう告げられ、クレスは頬を引きつらせるのだった。




「お、おい、今の斬撃見えたか・・・?」


 ロイドが呆然とした様子で呟いた。


「い、いえ、ま、まるで光が走ったようにしか見えなかったでしゅ・・・」


 セイラも驚きのあまり目を大きく見開いていた。


「ま、私からすれば真月の斬撃はいつも見えないけどなぁ〜」


 一方、手解きを受けていた香住からすれば見慣れた光景だったので、特に驚きは無かった。


「アークライトも強いはずなんだが、レイヤの強さは次元が違うぞ・・・」

「そ、それは私もた、対戦したときに思ったですっ」


 ロイドとセイラはまだ驚きから立ち直っていないようだ。

 香住はというと、あっさり決着が付いたことが少し残念に思えたが、玲也の対戦が観れて概ね満足していた。


「だから私より玲の方が強いって言ったのにな〜。私なんてBDMになってまだ一年だし」


 香住は気が緩んで思わず口を滑らせてしまった。


「は!?カスミちゃんはまだ一年しかBDを使ってなかったのか!?」

「ふ、ふぇぇぇぇ、す、すごいです・・・」


 香住の言葉に二人は驚くしかなかった。


「うん?別に凄くはないよ。入学試験がトップに成れたのも全て玲に教えてもらったおかげだしね〜。さ、玲のところへ行こうかな」


 香住はさっさと玲也の方へ歩いていってしまった。


「カスミちゃんがすごいのか、レイヤがすごいのか分からんな・・・」

「う、うう・・・」


 ロイドとセイラは驚きの連続で気疲れするのだった。




「お疲れ様〜」


 玲也がリンクギアを外すと、香住が傍までやって来ていた。


「おう。大して疲れてはいないがな」

「この後はどうする?」

「とりあえず昼飯だな。腹が減った」

「じゃあ学院の食堂でも行く?かなり美味しいって評判らしいよ」

「へえ、楽しみだな。じゃあ行くか・・・」

「ま、待ってくれ!」


 玲也と香住がホールの出口へと歩いていこうとした時、クレスが呼び止めた。


「まだ何か用か?」


 玲也がクレスの方に視線を向けると、クレスは勢いよく頭を下げた。


「すまなかった!どうやら僕が勝手に勘違いをしていたみたいだ・・・。何とも恥ずかしい限りだ」

「もう気にしてない。解ってくれればそれで良い」

「し、しかし君達に多大な迷惑をかけてしまったことは間違いないんだ。このままでは僕の気が収まらない」


 玲也は少し考えた後、こう呟いた。


「では、貸し一つだ。何かあれば協力してもらうからな」


 クレスは顔を上げると、少しだけ頬を緩めた。


「ああ、お安いご用さ!僕に出来る範囲であれば何でも言ってくれ。そ、それと・・・」

「うん?どうした?」


 クレスは迷うような素振りを見せたが、意を決して口を開いた。


「恥を承知で教えてくれ。なぜセブンスプラッシュを簡単に見切ることが出来たんだ?シミズさんの時も使ったんだが、全てかわされてさまったんだ・・・」


 ああその事か、と玲也は思った。


「そんなに難しい話じゃない。あんたが使ったセブンスプラッシュはシステムアシスト有りだったからだ」

「システムアシスト?それはどういうことだい?」


 そこから説明が必要だったな、と玲也は苦笑した。


「システムアシストは術技を使いたいと思い浮かべた時にリンクギアが感知して、BDを術技発動まで自動的に動かす機能のことだ。これを使うと阻害さえ無ければほぼ確実に術技を発動させることができる。しかし、システムアシストには大きな欠点がある」


 玲也は一息吐いてから、説明を続けた。


「それはシステムの仕様であるがために、一連の動作全てが()()になってしまうことだ。タイミング、軌道、スピード等全てに適応される。それ故、動作に調整が全く効かなくなるんだ」


「なるほど、そういうことだったのか」


 クレスが納得したように呟いた。


「知能の低い魔物相手であれば使用しても大きな問題は無い。むしろ、確実に術技を発動させたい場合は有効だといえる。だが、知能の高い魔物や手練れのBDMが相手だと欠点にしかならん。自分でわざわざ隙を作っているようなものだ」

「・・・ようやく分かったよ。セブンスプラッシュを習得した時、父さんが手放しで喜んでいなかったのもその辺りが理由かもしれない・・・」


 クレスが自嘲的な笑みを浮かべて、玲也はさらに言葉を続けた。


「上級技は決まれば多大なダメージを与えることができる。中には一撃で決着が付くような技も有るくらいだ。だからこそ魅了されてしまうのはある種仕方の無いことだ。だが、上級技は習得が難しく隙を作りやすい技が多いし、SPもかなり消費する。故に上級技を使う際は慎重に行動する必要があるし、絶対に決まるタイミングで初めて使うものだと俺は思う。あんたの父親のことは知らないが、もっと術技を有効に使うやり方を学んで欲しかったのかもしれないな」


 玲也がそう締め括ると、クレスは憑き物が落ちたようなスッキリとした表情になっていた。


「・・・非常に参考になる話だった。このままだと貸し一つだけではとても足りないよ」

「はは、どうやら貸し一つと提案したのは早すぎたようだな。だが、今回はサービスにしておこう」


 玲也はニヤリと笑みを浮かべた。


「では、サービスついでにもう一つ聞いても良いかい?」

「俺に答えられる範囲であればな」


 では、とクレスは前置きして口を開いた。


「君ほどの知識があれば学院に来る必要は無かったんじゃないか?それにBDのレベルが十五だったのも今思えばおかしな話さ」

「知識だけが無駄にあって、実際は大したことがないかもしれないぞ?」

「いや、戦った今だからこそ分かることだが、君に限ってそれはあり得ない。僕程度の実力では測れないだろうけど、君の実力は全く底が見えないと感じた」


(しまった、少し言い過ぎたか・・・)


 クレスが断言したのを見て、玲也は失敗したなと思った。

 ふと、エリーの方に視線を向けると、口許を手で押さえて必死に笑いを堪えているように見えた。


(エリーのやつ・・・。何だか腹が立ってきたぞ)


 エリーの態度にも。そして、自分自身の迂闊さにも。

 しかし、同時に不思議な感覚も味わっていた。


(ここにいる連中とは何だか長い付き合いになりそうな予感がする。であれば・・・)


 玲也は大きな溜め息を吐くと、エリーへ声をかけた。


「クラウス先生、お願いがあります」

「何かしら?」


 エリーは口許を手で押さえるのを止め、キリッとした表情になった、つもりだろうが口許がまだ微妙に引きつっていた。


(後で絶対文句を言ってやる)


 そう心に決めながら、玲也は考えていた内容を口にした。


「俺のデータをもう一度スクリーンに表示してください」

「別に構わないけど、本当に良いのかしら?」


 エリーは確認の意味を込めて尋ねた。


「はい、別に()()を見せるわけではないですし」

「・・・分かったわ。準備なさい」


 玲也はリンクギアを再び取り出し、ステージ上に真月を出した。


「これが答えだ」


 玲也はリンク・インして真月と接続すると、スクリーンにデータが表示された。


 聖玲也

 使用BD『真月』レベル6()0()

 SP ????/????

 リンク率75%



対戦の模様を色々考えていたのですが、結局あっさり風味で終わってしまいました。一応言っておきますが、クレスは新入生の中ではトップクラスの実力です。玲也が強すぎるだけです(笑)。

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