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第6話 オリエンテーション(後編)

後編は香住視点になります。

 時間は玲也とセイラが対戦する少し前まで遡る。


「う〜ん、やっぱり弓にしよう」


 私、清水香住は今オリエンテーションの対戦準備で武器選びをしています。ホールの南側にわあらゆる訓練用の武器が有り、剣だけ取ってみても数種類有りました。他の武器も同様に数種類並べられていて、武器選びだけでも時間が取られてしまいそうです。

 ただ、私の場合はすぐに弓を選ぼうと決めました。

 一年前に初めてBDを手にした時、玲と一緒に色々な武器を試したのだけど、一番手に馴染んだのが弓でした。玲もそれが良いと賛成してくれて、嬉しかったことを覚えています。


(あの時のことは今でも鮮明に思い出せる)


 玲がエルゲスト学院に行くと言い出したとき、私は驚きのあまり思考が停止してしまいました。今まで玲がBDを使っている素振りが全く無かったからです。

 玲が遠くに行ってしまう、そう思ったら私は胸が強く締め付けられたように苦しくなりました。だからこそ、私は思わず口走ってしまったのです。


「私も学院に行く」


 と。

 玲は困ったような表情をして説得してきましたが、私は玲と離れたくなくて決して首を縦に振りませんでした。

 結局、玲が折れてくれたのでとても安堵したことは内緒です。

 それからは玲が色々手解きをしてくれて、BDの使い方を覚えていきました。妙にBDに詳しいことは少し不思議でしたが、以前からBDを持っていたらしいので、誰かに教えてもらったのだと思っています。

 ここ一年は玲に手解きを受ける時間が最も好きになっています。BDの使い方が成長していく喜びを感じられましたし、ちょっとしたきっかけから始めたBDもいつしか好きになっていたからです。


(だからこそ、もっと強くなりたい)


 なぜなら、玲の強さが実は最近遥か高みに有るのではないかと最近思い始めているからです。今まで玲以外のBDMを知らなかったので、基準が分かりませんでした。でも、今のオリエンテーションで対戦を観ていると、明らかに強さのレベルが違いすぎます。確かに今見ているのは新入生であり、比較対象として正しくないかもしれませんが、それでも玲の強さが普通じゃないと感じるには充分でした。


(同級生には負けていられない!)


 玲の隣に立てるくらい強くなる。それが私の今の目標となっています。だからこそ、オリエンテーションの対戦で負けるわけにはいきません。

 私は数種類並べられている弓を一張ずつ手に取って弦の張り具合や、弓を構えたときの感触等を確かめていきました。


「うん、これが良さそう」


 私は最も感触が良さそうな赤い弓を選びました。長さと弦の張りが私の持つ弓に最も近かったからです。


(あとは、矢の事を確かめなくちゃ)


 質問をしようと思ったところで、ちょうどタイミング良くクラウス先生が近くを通りがかりました。


「クラウス先生、少々質問があるのですが良いでしょうか」


 私が声をかけるとクラウス先生は私に気付き、近づいてきました。


「貴女は清水香住さんね。何が聞きたいのかしら」

「はい、私は弓を選ぶつもりなのですが・・・」


 クラウス先生は私が持っている弓に目を向けていました。


「弓を選ぶのは珍しいですね。もしかして、矢が足りないのですか?」


 玲の話だと、遠距離武器は銃器を使うのが一般的だそうです。弾速が早く、威力もそれなりに有り、接近戦でも使用でき、比較的扱いやすいというのが主な理由だと言っていました。

 その点弓は銃器より射程は長く、威力も高いものの、矢の速度は弾丸に比べて遅く、接近戦では使えず、何よりも扱いが難しいので採用するBDMは少ないとのことです。


「いえ、あの、自分で出す矢を使うのはだめなのでしょうか?」

「それは貴女が持っている矢ということかしら?」

「そうではなくて、SPを消費して出す矢のことです」


 私がそう答えると、クラウス先生は目を見開きました。


「貴女、『武器具現化』が出来るの!?」

「はい、でも矢だけですが」


 私の言葉に、クラウス先生は頬を引きつらせていました。


「・・・矢だけでもすごいわ。武器具現化は高等技術で学院の最上級生どころか、BDM全体を見ても使い手が少ないほど難しいのよ」

「そうなんですか。でも玲・・・聖くんは普通に使っていましたよ?」


 私は首を傾げていました。

 私が弓を選んだ時に玲は、


「まず自分で矢を出せるようにならないと使い物にならないぞ」


 と言っていたので、最初のうちは矢を具現化する練習を重点的にやっていました。確かに苦労はしましたが二ヶ月程で出来るようになったので、それほど難しい技術だとは思っていませんでした。


 その様子を見たクラウス先生は呆れたような表情になっていました。


「そりゃ玲也は簡単にやってのけるでしょうね。全く、何て技術を教えているのよ・・・。しかもそれで出来るようになるのも普通じゃないわ。確かに玲也の言う通り、才能はかなり有りそうね」


 クラウス先生はブツブツと何かを呟いていましたが、よく聞こえませんでした。玲の名前を言っていた気もしますが、きっと『矢』と聞き間違えたと思ったので何も言いませんでしたが。


「あの、それで使っても良いのですか?」


 私が再度問いかけると、クラウス先生は我に返って私の方を見てから答えた。


「え、ええ構わないわ。ただし通常の矢も持っておくこと。あと、『効果付与』は使わないようにしなさい」


 クラウス先生の言葉を聞いて私は安堵した。


「ありがとうごさいます。効果付与についてはまだ練習中で使えないので問題はありません」

「そ、そう。練習中なのね・・・。とにかく対戦は頑張りなさい」

「はい!」


 私が返事をすると、クラウス先生は他の生徒の様子を見ると言って去っていきました。

 クラウス先生から許可を頂いたので、憂いなく対戦に臨めます。

 ちなみに私の対戦相手は「クレス・アークライト」という男子生徒です。周りから聞こえてきた話によると父親が有名人らしく、ユレイア王国軍のBDM軍団長を務めているとのこと。しかも父親と一緒に鍛錬をしているということで、かなりの実力者との噂です。得意武器は槍らしいので、対戦でも槍を使い可能性が高いと思う。


(それならば・・・)


 私は念のため、ある準備をしてからステージ前に向かいます。

 すでにステージを挟んだ反対側には男子生徒の姿がありました。身長は百七十五センチくらい、切り揃えられた金髪に凛々しい顔立ちをしていて、周りの女子生徒が黄色い声を上げています。

 ただ、私にしてみれば、


(何だかモテそうな人だな〜)


 という印象しか有りませんでした。玲ほどカッコ良くもないですし。


 対戦準備でもしようかなと思ったら、アークライトくんが話しかけてきました。


「カスミ・シミズさん、僕はクレス・アークライトと言います。入学試験トップであるあなたと戦うことを楽しみにしていました」

「そうでしたか。よろしくお願いします」


 何で楽しみなのか分かりませんが、とりあえず返事をしておきました。


「うん、良い試合をしよう」


 アークライトくんはリンクギアを取り出し、BDもステージに出現させました。本人と同じ金髪をしたBDには予想通り槍を持たせようとしています。

 私もリンクギアを取り出し、ステージ上にBDを出しました。

 私のBDは『桜華(おうか)』といいます。黒髪をポニーテールにして、日原之国の歴史に存在したとされる「くノ一」の衣装を着ています。

 互いにリンクギアを被り、BD同士を対峙させたところで試合開始となった。

 

「「リンク・イン!」」


 互いにBDの接続が完了しとところで、スクリーンにデータが表示された。


 清水香住

 所有BD『桜華』レベル25

 SP ????/????

 リンク率 60%


 クレス・アークライト

 所有BD『ライル』レベル31

 SP ????/????

 リンク率 54%


(とにかく間合いを詰めさせないように!)


 桜華に素早く弓を構えさせ、二本の矢を具現化させる。


(二本の矢のスピードが異なるイメージを持ち、解き放つ!)


 桜華は二本同時に矢羽を引いて、指を離した。


 弓術初級技 ツイン・シュート。


 二本の矢がアークライトくんのBD(ライル)に目掛けて飛んで行きます。リンクギアを被っていても、アークライトくんの表情が驚きに染まっているのが分かりました。


「くっ!」


 ライルは槍で一本目の矢を弾き、もう一本は右側に逸らしました。その後すぐに距離を詰めようと走り出しました。


(まだまだ行きます!)


 二本目をかわされる前に、桜華の手に三本の矢を具現化させ、素早く放ちました。



 弓術中級技 トリプル・シュート。


 三本の矢はライルに向けて飛んで行きますが、私は矢の行方を確認せず次の準備に取り掛かります。

 今度は桜華の背中に背負っている本物の矢を空中に放ちました。

 再びライルへ視線を戻すと槍を垂直に構え、両手で回転させながら距離を詰めようとして来ていました。


(あれで矢を弾くつもりね!ならば!)


 私はさっきよりも大きな矢を一本具現化し、桜華が弓を構えました。この時点で桜華のSPゲージは半分を切っています。


(この大きさなら防げないはず!)


 桜華は矢羽の一部を引きちぎり、大きな矢を放ちました。


 弓術中級技 スネークシュート。


 この技は矢羽の一部を引きちぎり、矢羽のバランスをあえて崩すことで、矢の軌道をぶれさせます。中級技の中でも難易度が高く、強くイメージしないと対象に命中させることすら難しいです。


「やりますね!」


 アークライトくんが声を上げました。ライルはというと、ちょうど三本の矢を防ぎきったところです。


「これを防げば!」


 ライルが大きな矢を迎撃しようと槍で側面から払おうとしますが、


「なっ、軌道が」


 直前で矢の軌道が変わり、ライルの顔面に矢が向かいました。

 ライルは迎撃するのを諦め、右側へ跳びました。

 大きな矢はライルの左肩を掠め飛んで行き、ステージの端に突き刺さりました。


(かわされた!でも、ダメージは入ったはず)


 スネークシュートを使って残りSPは二割を切っていましたが、間合いを詰めさせるわけにはいかないので矢を具現化しようとします。ですが、


「そうはさせない!」


 ライルの槍が光ると、槍の石突きを地面に突き立て、右足を強く踏みしめました。


 槍術初級技 ブーストランス。


 この技は槍の石突きを地面に突き立て、足を強く踏み込むことで急加速し、槍を突き出す突進技です。


 桜華とライルの距離が一気に詰められ、さらに槍の穂先が届く範囲に入られてしまいます。

 桜華は弓を構えを解き、身体を右に反らしてかわしましたが、そこはすでに槍の間合いでした。


「これで決める!」


 再び槍が光り、ライルが腰を低く落とし槍を引きました。


(この動作はまさか・・・)


 私はライルの動きに見覚えがありました。以前、玲と鍛錬している時に見せてくれた術技。


 槍術上級技 セブンスプラッシュ。


 高速で繰り出される七連乱れ突き。一撃喰らってしまえば、以降の突きはかわせない強力な術技です。そして私の今の実力では全てをかわしきれない技。


(でも、今の動作パターンなら!)


 私はある事に気付き、覚悟を決めました。玲が見せてくれた時、最初はどこから突きが来た?


(確か、左肩口だったはずっ)


 右に身体を傾けた次の瞬間、左肩があったところを槍が通過していきました。


(次は右肩、左脇腹、右脇腹、左膝、右膝・・)


 私の記憶通りに槍が突き出され、かろうじて全てをやり過ごしていく。


(最後は、っつ!?)


 極限まで集中したことで脳に負荷がかかり、頭痛がしました。

 その影響で桜華の体勢がわずかに崩れてしまいました。


(ま、まだ、いける!最後は鳩尾っ)


 桜華が持っている弓をぶつけることで、わずかに身体を反らすことに成功しました。槍が左脇腹を掠め通過していきます。

 私の記憶が正しければ、技が終わった瞬間に硬直があるはず!


(今しかない!)


 私は右腕を挙げ、ライルへ振り下ろしました。


 弓術初級技 フォーリングアロー。


 この技は先程空中に放った矢を一時的に待機させておき、合図で再び対象に矢が飛んで行きます。


 技終了後の硬直で、矢がライルに直撃しました。さらに、桜華の懐から()()を取り出し、ライルに対して距離を詰めて最後の一撃を放ちます。


 短剣術初級技 スイングエッジ。


 右腕を広げ、ライル胸部へ水平に切りつけると、ガラスが割れたような音が響きました。




(ふぅ〜、何とか勝った・・・)


 リングギアを取り外し、額に滲んでいた大量の汗を拭いました。

 桜華の残りSPはほぼゼロになっていて、本当にギリギリの勝負でした。

 疲労でぼうっとしながら他のステージを観てみると、ちょうど玲の対戦が終わったところでした。


(あ〜あ、対戦観たかったな〜)


 相手は女子生徒のようですが、地面に座り込んでいます。きっと私と同じく脳に負荷をかけてしまったのでしょう。

 玲のところへ行こうかなと思ったところで声をかけられました。


「対戦ありがとう。まさか負けるとは思わなかったよ」


 声がした方を見ると、アークライトくんが私の側まで歩いてきていました。


「あ、ありがとうございます。正直言ってかなり危なかったですけど」

「それでもシミズさんの勝ちさ。それにしても僕は驚きっぱなしだったよ。矢を具現化したこともだけど、最後に短剣を使われたことも驚いた。何よりセブンスプラッシュを全てかわされるとは思わなかった。なぜ、かわすことができたんだい?」


 アークライトくんが疑問に思うのも仕方ないかもしれません。普通ならかわせるはずがないですから。

 別に隠すことでもないし、私は答えることにしました。


「あの動作パターンのセブンスプラッシュを以前に見たことがあって、突く位置が分かっていたのでかわせました」


 玲がそのパターンの事を以前に話していましたが、その時の私は疲れていて思い出せませんでした。


「それでもすごいよ!流石は入学試験トップだ。この学年で一番強いのはシミズさんということが分かったよ」


 アークライトくんにそう言われたとき、私が反射的に答えたのがまずかったのかもしれません。


「え?私より玲の方が絶対強いよ」


 私の返答にアークライトくんが怪訝な表情となりました。


「レイ?それはもしかしてレイヤ・ヒジリのことかい?」

「う、うんそうだよ」

「しかし、彼が特別強いという話は聞いたことなかったが・・・」

「私は玲から色々教わっていたので・・・」


 私がそう言うと、アークライトくんは何か納得したような表情になりました。


「なるほど、シミズさんは勘違いをしてるのさ。確かに以前は彼に教わっていたかもしれないが、今ではシミズさんの方が強くなっていることに気が付いてないだけなんだ。そうでなければ貴女が学年トップのはずがない。現に彼のBDレベルを見たら十五だったしね」

「それでも、玲の方が強いです!」


 玲のことを悪く言われたように感じた私はムキになってしまいました。


「・・・どうやら、貴女を呪縛から解き放つ必要がありそうだね」


 アークライトくんはそう呟くと、玲の方へ歩いて行ってしまいました。


「え?どういうこと・・・」


 私は困惑しながらアークライトくんの後を追うのでした。


新キャラのクレス登場回でした。これでメインキャラクターはほぼ登場させています。ただし今のところロイドが空気なので、何とか活躍の場を持たせたいです(笑)。

ちなみに前回で玲也が香住のことをようやく初心者卒業レベルと言っていましたが、あくまでも玲也基準の中でです。

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