第4話 オリエンテーション(前編)
オリエンテーションは前編、中編、後編と三話構成になります(最初は前編、後編の二話構成の予定だったのですが・・・)。玲也とエリーの会話が予想以上に長くなってしまいました。今回は内容が短いです。
「それで何かご用ですか、クラウス先生」
エリーに呼ばれた後、人気が無い廊下にやって来たところで玲也は声を出した。
エリーは少し不機嫌そうな表情になっている。
「他人行儀な呼び方は止めて。ちゃんといつも通り名前で呼んで」
玲也は溜息を吐いた。
「他人がいる前で呼ぶと、流石にまずいだろ・・・」
玲也に窘められ、エリーはばつが悪そうな表情になった。
「そ、そうだけど・・・で、でも二人の時はいつも通りでよろしくっ!」
「分かってるよエリー。これでいいか?」
「うん、それで良いわ」
エリーが笑顔に戻ったところで、玲也は話を戻すことにした。
「それで、何か用があるんだろ?」
「ええ。でもその前に私の授業はどうだった?」
やっぱり聞いてきたか、と玲也は思った。
「・・・まさか教師として潜り込むとはな」
「驚いてくれたかしら?」
「多少はな。授業に関しては元々知識があるんだし問題ないだろ」
「そうだけど・・・。ほら、やっぱり褒めてくれるとやる気が変わるし!」
思考がロイドと同じじゃないか、と思いながら仕方なく玲也は口にすることにした。
「そうだな、良かったと思うぞ。それとこれからもサポートを頼んだ」
「ふふ、分かったわ」
かなりおざなりに言ったつもりだったが、エリーが満面の笑みを浮かべていたので良しとした。
「で、そろそろ本題を聞きたいんだが」
「ごめんなさい、話を戻すわね。実は近々エキシビジョンがあるわ」
「は!?随分と早いな」
玲也は思わず目を見開いた。こちらに移ってきたばかりなので、まだしばらく出番が無いと思っていたのだ。
「どうも先方が玲也の腕を早く見たいらしいわ。私もしばらく予定を入れるつもりは無かったのだけど、要望があったからにはやむを得ないわ」
「事情は分かった。それで対戦相手は?」
玲也が聞くと、エリーの表情がわずかに曇った。
「相手は三人よ」
「また厄介な。三人ってのは一対一が三回か?それとも・・・」
「察しの通り、一対三の戦いになるわ。しかも全員が限界突破しているとの情報が入ってきているわ」
玲也が表情を歪めた。
「初戦にしては随分ハードだな。先方は俺の実力とやらを相当評価しているのか、それとも単にやられるところが見たいのか・・・」
「ごめんなさい、今回は調整の余地が無かったのよ」
エリーが申し訳なさそうな表情をした。
「気にするな。逆に考えると最初から全力でいけるしな。流石に『ツイン・ウィング』クラスでは無いだろう」
ニヤリと玲也が不敵な笑みを浮かべたのを見て、エリーも表情を緩めた。
「ふふ、確かに言えてるわね。いくら三人とはいえ、裏BDCの覇者に比べたら数段劣ることは間違いないわ」
「ああ、あれは正真正銘の化け物だった」
「私も玲也があれだけ圧倒されてるのは見たことなかったわ」
「正直、勝ち筋が全く見えなかったぞ」
玲也が過去の戦いを思い出して苦笑した。
「ま、その時よりかは断然ましだろうよ。とりあえず日時が決まったら連絡してくれ。それまでは調べ物をしつつ、適当に学院生活を過ごすさ」
「りょ〜かい。私も教師として頑張ろうかしら」
「せいぜい女子生徒から睨まれないようにしておけよ」
「はいはい・・・っと、もうオリエンテーションまで時間が無くなってきたわね。そろそろ第二ホールへ移動しないと」
「もうそんな時間か。なら一旦教室に戻ってからいくか」
玲也は教室へ戻るために歩き出したのだった。
「もう、遅いよ〜。今まで何してたの?皆移動しちゃってるよ」
エリーと別れ、教室に戻った玲也に待っていたのは微妙に機嫌を悪くする香住の姿であった。
「悪い、思ったよりも時間がかかった」
「一体何の用だったのかな〜?まさか、クラウス先生を口説いてたりしてない?」
「んなことあるか。・・・ちょっと荷物運ぶのを手伝ってただけだ」
本当の事を言うわけにはいかないので、玲也はそれらしい嘘を吐いた。
「ホントに?それなら何で玲が名指しで呼ばれるのかな?」
香住は依然としてジト目で見つめてくる。
玲也が咄嗟に吐いた嘘であるので疑われても仕方ないのだが、良い理由などすぐに思い浮かぶ筈もなかった。
「さあな、授業で当てたからじゃないのか?俺もよく分からん」
結局、強引に押し切るしかなかった。
「ふ〜ん・・・まあいいか、もう時間も無いことだし。早く行こ」
玲也の態度が功を奏したかは分からないが、これ以上追及されることは無かった。
「そうだな」
玲也としては助かった形だが、後で何か埋め合わせした方が良いなと思った。
その後玲也と香住は雑談をしながら、第二ホールへ到着した。幸い、ホール内に入る頃には香住の機嫌が直っていたようで、内心でほっとする玲也であった。
「へぇ〜、第二ホールも結構広いね」
「ああ」
香住の感想に玲也は同意した。
第一ホールほどの広さは無いが、ホールの東西には数百人が座れそうな椅子が設けられ、北側の上部を見ると大型スクリーンが備え付けられている。また、ホール中央部には約十メートル四方のステージが四面見えた。
「皆さんこちらに集合してください!」
声がした方に目を向けると、エリーが右手を挙げて手を振りながら集合を促している。その隣にはグライダスの姿もあった。
クラス全員がすぐにエリーの号令で集まった後、オリエンテーションの説明が始まった。
「これからオリエンテーションを行います。と言ってもクラス内の交流が主な目的ですので、ましだろうよ。肩の力を抜いて聞いてください。まずこのホールにはステージが4面あります」
エリーがステージの方を見て指を差した。
「今からこれらのステージで一対一の対戦をしてもらいます」
エリーの言葉で周りがざわつき出した。
「対戦は必ず一回だけ行ってもらいますが、対戦相手は私がランダムで決めます。このクラスには全くの初心者が居ませんので、一方的な対戦になることは少ないと考えています」
(約一名例外が居るけど)
と内心では思っているが、表情にはおくびにも出さないエリーであった。
「BDをステージに上げた時に防護フィールドが自動的に纏います。これが受けるダメージを肩代わりしますが、受けたダメージが大きい方を負けとします。制限時間は三分です」
ただし、とエリーは説明を続ける。
「防護フィールドは一定以上のダメージを受けると壊れますので、この場合も負けとします。また・・・」
その他にエリーが行った説明は次のようなものだった。
・武器は学院所有の訓練用のものを使用
・武器選択は自由
・術技の使用も自由
・今回に限り互いのレベル、SPゲージ、リンク率が表示される
・勝敗による成績の上下は無し
・各対戦の見学は自由
(最初だからなのか手厚いな)
エリーの説明をぼんやり聞きながら、玲也はオリエンテーションの意図を考えていた。おそらくは生徒同士の現時点での実力を把握させることもあるだろう。しかし、どちらかと言うとクラスの生徒同士でパーティを組むことになった場合に、バランス良く揃える選択を提示することに重きを置いている気がしていた。
(あとは担任と副担任が生徒のレベルを把握するためでもあるんだろうがな)
エリーの説明が終わった後、対戦相手がランダムで選ばれた。
ちなみに玲也の対戦順番は最後の方で相手は『セイラ・シャルティオ』と呼ばれていたので、おそらくは女子生徒なのだろう。
(さてと、どうやったら目立たずに終わらせられるかだな)
平穏に学院生活をするためには目立つ行動は避けるべきであり、圧倒的な動きを見せるのは下策中の下策である。
(ま、対戦相手の出方を見てからだな)
と、気楽に考えていたのだが、後に騒動に巻き込まれる事はこの時の玲也には知るよしもなかった。
バトル要素を入れるつもりがキリの良いところで切った結果、次回に持ち越しになってしまいました。
ちなみに最初に出てきたエキシビションの話はもう少し先になります。
『ツイン・ウィング』についてもその内登場させたいです。