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第2話 初授業(前編)

初授業は前編と後編に分かれていますが、今回は歴史についての話になります。少し短めです。

「はあ、終わった終わった〜」

「お疲れさん」


 新入生挨拶をやり遂げた香住に対して、玲也は素直に労った。

 入学式が終わった後、玲也は香住と合流して教室へと向かっている。


「練習してたけど、本番は全然違ったよ〜。すごく緊張しちゃった」

「壇上を歩いてる時は明らかにガチガチだったな」

「そうなの。だから玲也を見つけた時はほっとしたわ」

「目が合ったのは気のせいじゃなかったんだな。ま、精神安定剤になれたようで何よりだ」

「ふふ、ホントに助かったわ。それで挨拶はどうだったかな?」

「ん、多少詰まるところは有ったが、大きな問題は無かったと思うぞ」


 玲也の評価に香住は頬を緩めた。


「それなら良かった。でも、もうやりたくはないかな」

「だろうな。俺もやりたくない」

「私は玲が挨拶するなら見てみたいけど」

「はは、機会があってもやらん」


(玲也の晴れ姿は見たいんだけどな〜)


 その機会が来たら、絶対にやってもらおうと香住は密かに決意したのだった。




 しばらく雑談しているうちに教室に到着した。プレートには「1年1組」と表示されている。

 教室のなかを見回すと前方にホワイトボード、教壇があり、生徒用の机は五列×八の合計四十席あったのでこのクラスは四十人なのだろう。よく見るとそれぞれの机上に名前が書かれたプレートが貼ってあることから、席は最初から決まっているようだった。

 玲也が自分の名前を探すと、一番窓側の列で後ろから二番目の席に見つけた。


(位置的にもあまり目立たないし、ちょうど良いな)


 玲也が席の位置に満足していると、前の席に香住が座った。


「香住は俺の席の前なんだな」

「そうみたい。玲也が後ろにいてくれて助かったよ〜。さすがに知り合いが近くにいないと居づらいし」

「確かにな。ま、仮に知り合いが居なくても問題ない。他の奴とつるむつもりは無いしな」

「あまり他人と関わりたくないところは相変わらずだね〜。でも、安心して。私がいる限り、いつでも玲也の話し相手になってあげるから」


 ふふん、と胸を張る香住。


「そりゃありがたいことだ」


 玲也は苦笑するしかなかった。


(うん?)


 隣から視線を感じたので顔を向けると、一人の男がニヤニヤと笑みを浮かべながら、こちらを見ていた。


「・・・何か用か?」


 男の視線が少し気に入らなかったため、玲也の声のトーンが少し低くなった。


「いや、あまりに仲が良さそうだったから知り合いなのか聞いてみたかったんだ。不躾に眺めていたことは謝る」


 男は潔く頭を下げた。


「そこまでしなくてもいい。あと、質問の答えは肯定だ。一応幼馴染だからな」

「なるほど、どうりで仲が良いわけだ。おっと、自己紹介がまだだったな。ロイド・アレクジアだ。気軽にロイドと呼んでくれて良いぜ」


 ロイドは右手を軽く挙げて、ニコっと笑みを浮かべた。身長は百八十センチを超えており、赤みがかった茶髪はボサボサだが不潔感を抱くほどではない。イケメンというには少し無理があるが、彫りが深く味のある顔と言っても良い。薄い青の瞳は二人の興味で細められている。


「聖玲也だ。フィアーユ大陸風に呼ぶとレイヤ・ヒジリになる」

「ちょっと玲、無愛想すぎるよ。私は清水香住、もといカスミ・シミズです。よろしくね、ロイドくん」

「おう、よろしく!」


 互いに自己紹介が終わったところで、ロイドが再び口を開いた。


「それにしても学院の門の前で、突然痴話喧嘩を始めた時はビックリしたぜ」


 ロイドがニヤリと笑ってみせると、香住は頬を赤く染めて狼狽えだした。


「ち、痴話喧嘩じゃありません!」

「だとしても、門の前であれだけ大声出してたから、相当目立ってたぜ?しかも新入生代表で挨拶してたし、名前と顔は相当広まったと思うぞ」

「あ、あう・・・」


 香住の顔がさらに赤くなり、もはや熟れたトマトと変わらない色になっていた。


(なるほど、どうりで視線を集めるはずだ)


 ここに来て、ようやく視線が集まった理由が判った玲也であった。


「災難だったな、香住」


 玲也はフッと笑いながら、香住の肩を軽く叩いた。


「もう、誰のせいだと思ってるの!」

「いや、レイヤも充分目立ってたからな?」


 こうした賑やかな会話は教師が来るまで続くのだった。




「さて、まずはわしの自己紹介をしておこうかの。このクラスの担任でグライダス・セントルーズという。担当授業は歴史じゃよ」


 グライダスが教壇に立った後、自己紹介をした。年齢は五十代後半くらい、髪はほぼ白髪で顔には皺が目立っている。眼鏡を掛けていることもあって理知的には見えるが、くたびれた印象までは取り払えていない。

 理由こそ違うが、担任の姿を見た時にクラスの生徒ほぼ全員が落胆の色を示していた。

 しかし、玲也の印象は違っていた。


(あの眼鏡は・・・なるほど、かなり使()()そうだな。ちょっとは楽しめるかもな)


 玲也は密かにグライダスの評価を一段階上げたのだった。

 その後、グライダスの提案でクラスの生徒全員が自己紹介をすることになった。

 玲也としてはあまり興味が無かったのでほとんど聞き流してしまったが、香住の自己紹介の時にやはり注目を集めてしまい、香住本人が赤面していたことと、玲也の自己紹介時も香住ほどではないが視線を浴びたことを追記しておく。

 自己紹介が一通り終わったので、グライダスが授業を始めることとなった。

「では本日は最初なので、BDの歴史を大まかにおさらいしていくかの。まずBDの起源を触れるにあたり、避けては通れぬ出来事を説明せねばならんのう」


 フィアーユ戦役。


 フィアーユ大陸に限らず、遥か昔から世界中に魔物が棲みついていた。魔物は人だけでなく、市町村をも襲い度々甚大な被害をもたらしていた。特にフィアーユ大陸に棲息する魔物は数が多く、質も高かったようで、魔物との戦いがより激しかったとされている。そのため、魔物の駆逐を目的とした討伐隊が結成されることもしばしばあったという。

 当時の魔物との戦いで主力だったのは、攻撃魔法が使える魔導師(ウィザード)であった。戦法としては魔法を使えない戦士達で魔導師の魔法発動までの時間を稼ぎ、魔導師の大規模攻撃魔法で殲滅することが多かったようだ。無論、少なからず犠牲が出ていたが、概ね人類側が優勢とされていた。

 それが覆ったのが、今から約二百五十年前のことである。突如して魔物の数が爆発的に増え、強さも増しただけでなく、統率された動きをするようになったのだ。

 これが「魔物を統べる者」の出現であり、以降五十年に渡り最も過酷とされた人類対魔物の戦い「フィアーユ戦役」の始まりであった。

 まず、今まで主流になっていた戦法は魔物の統率により通じなくなった。具体的に言うと魔導師が優先で襲われるようになったり、魔物が乱戦を仕掛けるようになったため、頼みの綱であった大規模攻撃魔法を放つことが困難になってしまったのだ。

 それでもどうにか魔物の数を減らしていったのだが、多くの魔導師がその命を散らす結果となり、人類側は未曾有の危機に晒されることとなった。


「フィアーユ戦役中頃に差し掛かったある日、彼らが現れたんじゃ」


 異邦人(ストレンジャー)


 現れた経緯や素性は一切不明、現存するありとあらゆる文献を調べても、その正体が未だに謎に包まれたままの存在だが、彼らは特殊な人形を操り、魔物達を次々と殲滅していった。


「異邦人達が操っていた特殊な人形こそが、BDの起源とされておる」


 これに目を付けた人類側は異邦人と接触し、特殊な人形を手に入れることに成功した。


「当時、異邦人達はかなりの数を所有していたらしくての、持て余していたという話じゃった」


 しかし、それをすぐに使いこなせるわけでない。また、かなりの数を所有していたといっても、戦う者全てに行き渡らせられる程ではなかった。

 これにより、戦闘面及び特殊な人形の開発面で試行錯誤を強いられることとなった。当然、異邦人達の多大な支援が有ったであろう事は想像に難くない。


「その結果、開発に成功したのがBDというわけじゃ。皆も知っての通り、BDを操作中は特殊なフィールドが発生し、操作者、もといBDMは一切の肉体的ダメージを受けないようになっておる。故に、死亡者数が激減したのじゃ」


 これにより人類側は再び優位に立つかに思えたが、実際は膠着状態が続くことになった。犠牲者は減ったが、魔物の強さがさらに上がったためBDが次々に破壊されたのだ。

 人類側はさらなる戦闘訓練とBD性能向上のための開発に追われることになった。


「そして、戦況が大きく動いたのが今から約二百年前のことじゃ。魔物を統べる者がついに人類側の前に姿を現したのじゃよ」


 フィアーユ戦役の最終決戦「黄昏の(トワイライト)戦い(ウォー)」が始まった。


「どの文献にも詳しく書かれておらなんだが、想像を絶する程の熾烈な戦いだったようじゃ。故に、人類側もかなりの犠牲者が出たとされておる」


 最終的に魔物を統べる者の討伐に成功し、フィアーユ戦役は終結した。しかし、その代償はあまりにも大きかった。

 フィアーユ大陸の人口は、フィアーユ戦役前に比べて実に六割も減ってしまったのだ。しかもその中には多くの魔導師が含まれており、魔法技術の大半も同時に失ってしまったため、魔法の衰退を余儀なくされた。

 さらにBDの技術についても研究施設が数ヶ所破壊されたため、いくつかの技術を失ってしまったようだ。

 そして終結を境にして異邦人がどの文献からも全く出てこなくなったのだ。まるで、忽然と姿を消したかのようであった。


「フィアーユ戦役以降のBD開発では異邦人が全くと言って良いほど登場しなくなったのじゃ。おそらくは相当に苦難の道が続いたはずじゃろうて」


 グライダスが一息吐くと、最後のまとめとして口を開いた。


「今回はおさらいという形じゃったので、かなり大まかな説明になってしまったが、次回からは順を追ってもう少し詳しくするつもりじゃ。最後に言っておくが、これから学ぶ歴史はあくまでも様々な文献や伝聞、そして歴史研究者の見解によって成り立っておる。故に学ぶ内容が全て正しいとは限らんし、失われてしまった文献の中に歴史を揺るがす程の真実が埋まっている可能性があることを肝に銘じてほしい。では、本日はここまでじゃ」


 こうして最初の歴史の授業が終わったのだった。

昔習った歴史と現在習う歴史では随分と違っている部分がありますよね。


グライダス先生が語ったように、埋もれてしまった真実や、誤った歴史が存在しています。この辺りは徐々に明らかにしていくつもりです。

まあ、本作品がそこまで続いていればですが(笑)。

皆さんの応援があれば書いていけると思いますので、よろしくお願いします。

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